ヴェルヴェット・ソニック #7
「グワーッ!」自我に灼けるような苦痛。スリケンはマスラダを、サロウを貫き、砕いていった。記憶は再びリールテープの端に到達し、凍りつき、「ア……ア」サロウは砕かれながら、なおも手を伸ばそうとした。「俺だ……マスラダ=サン、俺!」「ちがう。おれだ」マスラダはサロウを正面から見た。29
2021-10-13 23:32:27そしてマスラダはサロウの手を振り払った。振り払われた瞬間、サロウの背後に光り輝く姿が現れ、のけぞる彼を受け止め、後ろから羽交い締めにし、断固として、引き剥がした。「嘘だ!」サロウはその者の顔を見ようとした。振り向いた時、その者は既にアユミではなかった。YCNANが出現していた。 30
2021-10-13 23:36:47「やっと入れた。もらっていくわね」YCNANはマスラダにウインクした。「グワーッ!」サロウは悲鳴をあげた。重力が消失した。YCNANにとらえられたまま、螺旋を描き、スゴイタカイビルの天井を次々に打ち抜き、記憶領域外に飛び出し……数電子ニューロン秒の後にはローカルコトダマ空間は遥か眼下に。31
2021-10-13 23:42:11「やめろ!もう少しだったんだ!」「もう少し、そうね。もう少しのところで貴方は失敗した」YCNANが囁いた。「AAAAARGH!」サロウは叫んだ。そしてリコールした。何処でしくじった?うまくいっていた……ずっとうまくいっていた!「あのニンジャソウル!無駄な事をしやがって……!クソが!」 32
2021-10-13 23:45:52緑の格子が凄まじい速度で眼下を行き過ぎる。サロウは速度に、そしてYCNANの抱擁に適応しようとした。「あのソウル!気を散らしやがって!」「無駄な事じゃなかったワケね?」ナンシーが冷静に指摘した。「あンた!何なんだよ!」サロウは激昂した。「あンたもそうだ!邪魔するから……!」 33
2021-10-13 23:49:19「肝心なところがわかっていないわね……」YCNANは言った。「個別の原因を求めたところで、歪んだ答えが見つかるだけよ。それで何が変わるわけでもない。マスラダ=サンの意志が、最終的に貴方の意志を凌駕した。最も肝心なところで、彼が貴方に勝った。それが真実」「AAAAAAARGH!」 34
2021-10-13 23:54:00超新星爆発めいた球状のノイズがコトダマ空間をどよもした。YCNANは輝く姿を翻した。サロウはこめかみに指を当て、崩れかけた己の姿を電子粉塵から再形成した。「あンた、俺を止めるつもりか?YCNAN……伝説のハッカーね。笑えるぜ」「フフ……」対峙する二者を、黄金立方体の輝きが、照らす! 35
2021-10-14 00:01:36