@ubiquitous1985さん【雨の庭の中で…】

@ubiquitous1985さんの連続ツイート短編物語【雨の庭の中で…】をまとめてみました。
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ゆびきたす @ubiquitous1985

【雨の中の庭で…1】いわゆる思春期特有の思想であろうか。なぜ自分はあるべき姿で世界に受け入れられないのだろう、という考えに取りつかれていた時期がある。いかにも自己陶酔的なこの発想は、若い時分に許された特権だろう。今の僕には消し去りたい過去だか、その時の自分からすれば身勝手な話だ。

2011-08-21 03:20:16
ゆびきたす @ubiquitous1985

【2】今では、そもそも自分自身が世界をあるべき姿で受け入れられていたのか、という疑問に変わった。これには年齢など関係なしに容易には答えられない。僕がどうしてこんな考えを抱いたのかというと、それに対する答えはとてもシンプルで、今日世界が終わるからだ…

2011-08-21 03:21:25
ゆびきたす @ubiquitous1985

【3】僕と彼女は縁側に腰掛けて、世界の終わりを一緒に迎えようじゃないか、という話になった。これは彼女の提案だった。「私たちは、まったく違った場所で、それぞれのタイミングで生まれてきた。最期ぐらい一緒に過ごすのも悪くないじゃない。」僕は、たしかにそれも悪くない、と思った。

2011-08-21 03:22:59
ゆびきたす @ubiquitous1985

【4】テレビでは今朝から、なぜ世界が今日終わるのかを論点にして、どこかの大学から招いた専門家をゲストに議論していた。そうした行為にどんな意味があるのか僕には理解できなかったが、彼女にそれを話すと「始まった理由もわからないで、終わる理由ぐらい知りたいでしょう」と当然のように答えた。

2011-08-21 03:23:35
ゆびきたす @ubiquitous1985

【5】僕と彼女は他愛もない言葉を交わし、これから世界の終わりを迎えるとは思えないほどに穏やかな時間を過ごした。遠くの空に浮かぶ雲の形が何に見えるか、二人で空想に耽り、互いの答えに笑った。彼女は食べ物の名前ばかりを挙げ、僕は知人の名前を挙げる。それは二人にとって、共通の知人だった。

2011-08-21 03:24:15
ゆびきたす @ubiquitous1985

【6】彼女と出会ったのは高校時代だ。二人は別々のクラスだったが、僕も彼女もあまり上手く周囲の人間に溶け込めず、集団から離れて一人きりの時間を過ごすことが多かった。そんな二人が親しくなるのに時間は要さなかった。最初に声をかけてきたのは彼女だったと思う。

2011-08-21 03:30:56
ゆびきたす @ubiquitous1985

【7】僕が周りの人間と距離を置かざるを得なかったのは内気さゆえんであったが、そういった意味で彼女は能動的だった。それは今も変わらず、僕と彼女は正反対の性質が目立ち、それが二人の調和を保っているのだ。結果的に、僕が彼女に救われている面も多いのだが…

2011-08-21 03:36:13
ゆびきたす @ubiquitous1985

【8】どれくらい時間が経っただろう。雲は流れ去り、二人はひとしきり話し終えて縁側に寝そべっていた。近すぎず遠すぎずな距離だった。それは高校時代から変わらずにある僕らの距離感だった。やがて辺りは生暖かい空気に包まれ、しばらくして雨が降り始めた。

2011-08-21 03:44:06
ゆびきたす @ubiquitous1985

【9】僕と彼女は二人して身を起こすと、黙ってその様子を眺めた。小さな庭が次第に表情を変えていくのがわかった。土は湿っぽくなり、庭全体が色褪せていくようだった。片隅にある家庭栽培のトマトだけが色見を増し、不気味なくらい赤く実っていた。彼女はポツリと「雨の中の庭ね…」と呟いた。

2011-08-21 03:49:50
ゆびきたす @ubiquitous1985

【10】雨の中の庭…次の瞬間、記憶の奥深いところで、それと似たタイトルの音楽が流れる。ドビュッシーのピアノ曲だ。あの時も遠くより聴こえてきたドビュッシーの音楽…放課後の教室でクラスメイトに囲まれる中、下半身を露にされた僕が、黙って時が去るのを耐えていたあの瞬間。

2011-08-21 03:56:59
ゆびきたす @ubiquitous1985

【11】音楽室から聴こえてきたピアノ曲がその状況にあまりにも不釣り合いで、思わず笑みが込み上げてしまった。それを見たクラスメイトの一人が僕の頭を掃除用具で殴り、額が切れて血がどっと吹き出した。僕が彼女に呼び止められたのは、それからしばらくしてだった…

2011-08-21 04:02:13
ゆびきたす @ubiquitous1985

【12】突然立ち上がり、彼女は雨の中に飛び出した。僕が驚いて目を見開いていると、そんなことは気にも止めず、彼女は腕を広げてそれを一身に受けた。彼女は裸足で濡れた土にまみれていた。そして、地団駄踏むかのように天から落ちてくる雨粒を全身で跳ね返した。まるで雨と踊っているみたいだった。

2011-08-21 04:10:38
ゆびきたす @ubiquitous1985

【13】濡れた服が彼女の身体に張り付いて窮屈そうに見えた。すると彼女は次の瞬間、服を脱ぎ捨てた。僕が彼女の裸を見るのはこれが初めてだった。やがて彼女は、呆然と眺めている僕を促し、雨の中に引っ張り出した。一瞬で僕はずぶ濡れになった。

2011-08-21 04:14:28
ゆびきたす @ubiquitous1985

【14】彼女は僕のシャツにも手をかけて服を脱がせ始めた。その行為に特別な意味合いはなく、とても自然だった。二人は雨の中で裸になり、全身で雨粒を受け止めた。次第に笑いが込み上げてきた。僕と彼女は踊るようにして雨の中の庭で戯れ合いながら、やがてどちらからともなく互いを強く抱き締めた。

2011-08-21 04:19:48
ゆびきたす @ubiquitous1985

【15】雨の勢いは、いっそう強まっていた。全身に突き刺さるようだった。いよいよ世界が終わりに近づいている…けれど、雨の中の庭で、僕には世界が始まったばかりのように感じられらた……

2011-08-21 04:22:27
ゆびきたす @ubiquitous1985

『雨の中の庭で…』は、僕が十代の時に書きかけた小説の断片。タイトルもそのまま。記憶を補完しながら書いてみたけど、今となってはどういう物語を目指していたのかがわからないf(^^;

2011-08-21 04:30:12