るろうに剣心異聞──抜かせずの男、吉村貫一郎

戦車 @MoterSensha

「南部、たしかあの訛りは盛岡──廃藩置県で、いまは岩手県と言うのでござったか。遠い。仮に生きておられたとしても、拙者が行くことは、もはや叶わぬでござろう。達者を祈るのみにござるよ。吉村殿と、そのご家族の」 剣心は呟く。 「吉村殿の故郷の話を聞いてみたくはあったでござるな」

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そうして剣心は、猪口の酒を干し、妻手作りの菜を箸でつまむ。菜の花のおひたしである。えぐみなく優しい、春ならではのその味わいに、野に咲く一面の菜の花を脳裏に思う剣心。冬を越えたならば、野原一面に咲き誇り、春を告げる、柔らかでありながらその実強いその野花を。

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「ともかく、その御仁──ただ一夜、ともに飲んだのみの間柄でしかござらぬが、吉村貫一郎殿という人は、吝嗇ながら人当たり柔らかく、強く当たれば折れてしまうようでありながら、、その実したたかに咲きつづける、菜の花を想わせる、実に強い御仁にござった」

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