MGU(マジカミ・グランド・ユニバース) 小説 マギカスレイヤー 「シブヤ・シティ・ブルース」より 『ランブリング・オン・マイ・マインド』

芋煮 “a.k.a 芋にお嬢様” @ERR66856734

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(MGUマギカスレイヤー「シブヤ・シティ・ブルース」より　『ランブリング・オン・マイ・マインド』）

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シブヤの街に重金属を含んだ雨が降りしきる。シブヤ・センター・ストリートを彩るバイオフィルム暖簾やLEDサインボードの明かりが雨粒を受けて歪み、通りを行く人々のアラミド笠や強化PVCレインコートに斑な模様を投げかけている。 1

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ブーンブーンブブブブーン 街灯の支柱に違法に括り付けられた数々のスピーカーから、新進気鋭のDJ「アブハチ・トラック」のナンバーが流れ街を彩っている。爽やかな歌声のメトロポリス歌謡に近代殺人テクノのベースラインが混じり合う。今、シブヤで人気のアブハチ・ミックスだ。 2

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そんな大音量でナンバーを流す支柱の上を、音もなく飛び去る影があった。 裾の窄まった野袴、袂を襷掛けにした長着、頭を覆う頭巾と顔を覆うメンポ。その全てが黒とグレーと蛍光色を用いたメガロシティ迷彩で彩られている。 3

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ただ街を行き交うだけのモータルには決して気取られない隠密性と速度。見間違えようもない。 その者は間違いなく『魔法少女』であった。 4

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迷彩色の魔法少女はセンター・ストリートに点在する支柱とビルの上を飛ぶように駆ける。目深に被った頭巾のせいで察するには難しいが、その眉間には深い皺が刻まれている。頻繁に背後を振り返る姿には焦り……または恐怖の気配があった。 5

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魔法少女が恐怖するなどとは！ 賢明な読者はお嘲りになるやも知れない。その通り。魔法少女とは古来より日本に伝わる神話的職業である。 6

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異形の装束に身を包み、支えなく中天に立ち、杖の一振りで山を消し飛ばし、ただ祈るのみで天変地異を引き起こす『魔法』の使い手。 現代では虚構におけるアイコンに過ぎないとしても、『魔法』の使い手が恐怖する姿を想像することは難しいだろう。 7

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しかし、迷彩色の魔法少女がセンター・ストリートの端を飛び出した時、その恐怖は実際に姿を現した。 「イヤーッ！」 おぉ見よ！恐るべきマギカ・シャウトと共に、ビルの影から風を切り裂きスリケンが襲来した！ 8

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スリケンは伝統的魔法少女の投擲武器である。多くは十文字型の鋭い刃物であり、高速で飛来するスリケンは実際危険である。魔法少女といえども当たりどころによれば致命傷は避けられない。 9

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「イ、イヤーッ！」 迷彩色の魔法少女はこれを辛くもブリッジで回避！ しかし、不安定な足場でブリッジを行った魔法少女はバランスを崩した。吸い込まれるように、通りの外れの暗いビルの隙間に落下する。 10

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「グワーッ！クソったれ！」 雨で濡れた裏路地の上で受け身を取ると、迷彩色の魔法少女は急ぎ立ち上がってカラテの構えを取った。 「姿を現せ臆病者！コソコソとアンブッシュばかりしやがって！腰抜け！柔らかい×××！」 11

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実際乱暴なスラングを喚く迷彩色の魔法少女の目前に、暗い影が差した。ビルとビルの合間の薄暗い路地にあって、その影は闇よりなお濃い存在感を持っていた。 12

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影の持ち主は、表通りの光を背後に背負いながら裏路地に入り込み、両手を胸の前で合わせて深々とオジギをした。 「ドーモ、シティ・アーミー=サン、ネメシスです」 アイサツ。それは魔法少女同士が相対した時には欠かせぬ礼儀作法である。 13

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これを破る者は魔法少女にあらずとされ、あらゆる魔法少女からムラハチにされる。外流天新書にもそう書いてある。 「……ドーモ、ネメシス=サン、シティ・アーミーです」 迷彩色の魔法少女ーーシティ・アーミーはオジギを返した。アイサツにはアイサツを返す。それも魔法少女の定めだ。 14

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オジギの間、シティ・アーミーは目を凝らして相手の魔法少女、ネメシスの姿を盗み見た。 魔法少女の視力と思考力は常人の数倍、強力な魔法少女ともなれば数十倍を誇る。コンマ数秒の間で相手の姿をつぶさに観察が可能である。 15

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ネメシス装束は黒を基調とし、一部に白く燃える炎のような意匠が凝らしてあった。腕には白いブレーサー、足には白い脚絆。 特殊な装備で能力を強化したり、科学技術で戦う魔法少女ではないようだ。 16

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だがしかし、何よりシティ・アーミーの目を引いたのはネメシスのメンポであった。白い下地に、黒々とした筆跡で憤怒の形相が描かれている。 （あれは……まるでハンニャ・オーガ……！） シティ・アーミーは己の内で産まれた恐怖心を悟られぬよう、声を張り上げて殊更大きくカラテの構えを取った。 17

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「貴様、それ以上近づくと軍直伝のCQBカラテをお見舞いするぞ！」 「望む所」 ネメシスは言葉少なに返答すると、ゆっくりとした動作で構えを取った。特筆することのないスタンダードなカラテの構えだが、隙がない！ 18

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「お、俺に手を出せば軍が黙っていない！この先必ずお前も破滅する！」 「関係ない」 吠えるシティ・アーミーにネメシスの冷めた声が返答する。 「お前に明日はない。お前は魔法少女に非ず。マギカ滅すべし」 19

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構えを取ったネメシスが一歩、また一歩と間合いを詰める。その距離、およそタタミ5枚。 「やめろー！」 「マギカ滅すべし」 その距離およそタタミ3枚。 「やめろー！」 「マギカ滅すべし」 その距離およそタタミ1枚……魔法少女同士必殺の間合いだ！ 20

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「くっ……くらえ！≪ジャムショット≫！」 シティ・アーミーは自ら大きく踏み出して拳を突き出した。その拳の先から弾丸を模したエネルギー体が飛び出し、実際の弾丸の数倍の速さで飛翔する。 21

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スキルだ！ 現代の魔法少女が使うのは『魔法』などという幻想や世迷言ではない。それぞれの魔法少女には凡そ3個の特殊なワザが備わっているとされている。 そのワザを、現代の魔法少女はスキルと呼ぶ。 22

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シティ・アーミーのスキルは弾丸に由来する。音速を遥かに越える魔力の弾。これに当たったものはスキルによって強烈なデバフがかかるのだ。 「イヤーッ！」 しかし、ネメシスは身を捻ってこれを回避！ワザマエ！ 23