…というものだったが、プログラム作者が詐欺罪の共同正犯に問われた。他にも、犯罪に使われたプログラムの作者が共犯に問われた事案はいくつかある。Winny事件が珍しいのは、不特定多数への提供で幇助罪に問われたからであろう。
2011-08-31 01:08:33プログラムの作成・提供者が罪に問われた事案は、主犯からの依頼により作成・提供したものが多いようで、共謀があって共同正犯とされるパターンな気がする。それとは逆に、プログラム作成者側がそれを用いた犯罪の実行を持ちかけた(教唆犯)という事案は、これまでに実際にあったという話は聞かない。
2011-08-31 01:30:25というのも、プログラムを与えられて、それだけで犯罪が可能になるという事態が、あまり多くはなさそう。ありそうなのは、特定サイトへのDoSプログラムを「さあやれ」という感じで渡される場合だろうか。
2011-08-31 01:40:34他にありそうなのは、実行すると一万円札っぽいものがプリンタで印刷されるプログラムを、そういうものだと説明して配布するとかだろうか。
2011-08-31 01:43:01ところが、平成23年7月施行の改正刑法で、不正指令電磁的記録に関する罪が創設され、これにより事態は変わった。人の意図に反する不正なプログラム実行をさせる行為が犯罪となったわけだ。
2011-08-31 01:48:09ハードディスクを消去するプログラムを作ったところ、それを悪用して不正指令電磁的記録供用罪を犯す者がいたとしても、それで幇助罪に問われることはなかろうことは、先に(脆弱性診断ツールの件で)検討した通り。もっとも、「これでひっかけようぜ」と供用罪行為を唆せば、教唆犯に問われ得る。
2011-08-31 01:57:08しかし、犯罪の唆しが具体的に行われておらず、犯罪にも使えることは誰の目にも明らかだけれども、「悪用厳禁」などと注意書きしている場合には、教唆犯に問うのは難しいのだろうと思う。その点、カレログの場合、「お約束」として「必ず相手の同意を得てね!」と書いているので、教唆にはならなそう。
2011-08-31 02:02:55これ http://t.co/izEjqIc の冒頭「あー、やばそうなもの見つけちゃったぞ。」は別件のことで、カレログのことじゃない。この直後にカレログを把握したわけで。外しといたほうがいい。
2011-08-31 03:31:16ところがだ。不正指令電磁的記録の罪には、供用罪だけでなく、供用目的作成罪及び供用目的提供罪があるのだ。
2011-08-31 11:41:21つまり、教唆犯や幇助犯では、具体的な結果として教唆や幇助の効果が生じたかが問題となるのに対し、不正指令電磁的記録作成・提供罪では、結果を必要とせず、人の電子計算機における実行の用に供する目的(供用目的)で作成・提供すれば足り、それは作成・提供者の内心の問題である。
2011-08-31 11:44:46これは、不正指令電磁的記録罪が創設された刑法改正の立法趣旨として、単に不正指令電磁的記録を実際に供用する行為のみならず、供用の目的で作成したり提供する行為をも、プログラムに対する社会的信頼を害する社会悪としてとらえ、処罰するものであるからだ。国会が今年6月、それを選択した。
2011-08-31 11:50:21「人の電子計算機における実行の用に供する目的」が、内心の問題であるということは、いくら「悪用厳禁」とか「お約束」と書いていても関係がない。実際に、作成・提供者が心の中で「当然(提供先の利用者は)カレシに無断でインストールするはず」と考えていたなら、作成・提供罪の構成要件を満たす。
2011-08-31 11:55:26もっとも、内心がそうであることを捜査機関がどうやって立証するのか、ということになるが、それは従来の他の犯罪でも同じことであり、故意の立証などと同様の手法がとられることになるのだろう。つまり、故意や目的を否定する材料となる事実があるか、被疑者の言動に嘘っぽいものがないかなどだろう。
2011-08-31 12:00:31とはいえ、犯罪の内心の要件が十分に立証できない場合は無罪とされるべきであるし、日本のように逮捕された時点で犯罪者扱いされる国においては、検挙は慎重に行われるべきである。
2011-08-31 12:02:47しかし、そのことと犯罪の成否は別である。いくら外部からの立証が困難だとしても、作成・提供者の内心で供用の目的によるものであるのが真実であるならば、それが犯罪(不正指令電磁的記録供用目的作成・提供罪という犯罪)であるということも真実である。
2011-08-31 12:12:45さて、カレログの場合はどうか。それを検討する前に、「人の電子計算機における実行の用に供する目的」とはどういう意味か、また、提供罪の提供とは何を指しているのかについて、改めて確認しておく。
2011-08-31 12:14:27「人の電子計算機における実行の用に供する」とは、たとえば、Webサイトにプログラムを公開して誰かにダウンロードさせて実行させること一般が該当するかというと、そうではない。「人が電子計算機を使用するに際して(略)その意図に反する動作をさせる」そのような実行をさせることを指すもので…
2011-08-31 12:25:26…指すものであり、このことは6月の参議院法務委員会の審議で確認され、7月の法務省の解説「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」では次のように説明されている。
2011-08-31 12:27:41「『実行の用に供する』とは、不正指令電磁的記録を、電子計算機の使用者にはこれを実行しようとする意思がないのに実行され得る状態に置くことをいう。すなわち、他人のコンピュータ上でプログラムを動作させる行為一般を指すものではなく、不正指令電磁的記録であることをの情を知らない第三者の…
2011-08-31 12:28:57…知らない第三者のコンピュータで実行され得る状態に置くことをいうものである。このように『実行の用に供する』に当たるためには、対象となる不正指令電磁的記録が動作することとなる電子計算機の使用者において、それが不正指令電磁的記録であることを認識していないことが必要である。」
2011-08-31 12:31:20プログラムの作成・提供者が自分で手を下さずに(つまり、作成・提供者がカレシの携帯電話にインストールするわけでなく)他人にそれをさせる場合、これが「人の電子計算機における実行の用に供する目的で」に該当するかというと、該当するのだが、それは、供用罪とは別に提供罪が用意されていること…
2011-08-31 12:35:50…用意されている趣旨を確認するとわかりやすい。法務省の解説は次のように説明している。「『提供』とは、不正指令電磁的記録であることの情を知った上でこれを自己の支配下に移そうとする者に対し、これをその支配下に移して事実上利用し得る状態に置くことをいう。」
2011-08-31 12:38:00つまり、「カレシに内緒でカレログ入れちゃお」というカノジョが「不正指令電磁的記録であることの情を知った上でこれを自己の支配下に移そうとする者」であり、そのような求めに応じてプログラムを渡すのが「提供」。
2011-08-31 12:41:13「不正指令電磁的記録供用罪は(略)それが不正指令電磁的記録であることを認識している者に取得させる行為であるが(略)提供の相手方以外の第三者(使用者)が不正指令電磁的記録であることを認識していないのにこれを当該第三者の電子計算機で実行され得る状態に置く目的があることを要する。」
2011-08-31 12:43:48