- mocharn3rd
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スプラトは、薄暗い部屋の中、ベッドに拘束されていた。 灯りに照らされた先にはロドスのトップの一人であるケルシーと、部下であり赤いフードを被ったオペレーターがいる。 「アレクサンドル」 ケルシーが言った。 「ケルシー先生、あなたですか」 スプラトがうやうやしく言った。
2021-12-13 20:31:38「驚いたよ。君がスプラト博士だったとは」 「本当に驚きましたか? ケルシー先生。あなたならキー坊から聞いた時点で私に行きついておかしくないでしょう」 「キー坊に余計な希望を持たせたくなかったし、確証のないことは言いたくなかった」 「なるほど、さすがだ」
2021-12-13 20:31:52「あなた相手に誠実にすれば、生存は確約されたようなもの」 「……舐められても困るんだがな」 「あなたはなるべく殺しはやらない、必要ならやる、まるで庭師のような方だ」
2021-12-13 20:32:00「そういう短絡的な評価は命にかかわることは、前に重々教えたと思うが?」 「では私が出したテラでの被害はどうするのです」 「悪ぶるのはやめろ」 ケルシーがスプラトの顔の傍を突く。
2021-12-13 20:32:10「すみません。ですが、あなたは話が迂遠でね。言われませんか?」 「お前はその私の影響をよく受けているよ。私と違うのはお前が悪趣味で嫌味なことだ」 「ククク……」 「"ずいぶんな言われようだな事実だから仕方ないけど"だろ? いいから話を進めるぞ」
2021-12-13 20:32:19ケルシーはビニール袋に何かをざらざらと入れていた。 「キー坊から暗命拳を受けているとはいえ、ダブルチェックだ。ここまではわかるな?」 「さすが先生。それは必要ですとも」 ケルシーは軽い小さな丸いものがたくさん入った袋をスプラトの頬やアゴに当てる。
2021-12-13 20:32:36いわゆる「ブラックジャック」と呼ばれる暗器に近いものだった。スプラトの顔に柔らかくぶつけ、それを繰り返す。 「くっ」 「私がお前を教えていた時より年月が経っている、とか思うならそれは甘いよ」
2021-12-13 20:34:16「いや……甘いですよ。もっと自白剤なり強い拷問をすればよろしい。あなたはどうしてそこまで弱くなられたのか」 ケルシーが拷問袋をスプラトに当てる。何度か当てる。 後ろから声がかかる。
2021-12-13 20:34:28「ケルシー。もっと効率的な拷問ある。爪をはいだり■■■■■■できる」 ケルシーは振り向いて言った。 「レッド。今回は君の研修も兼ねている。世の中には一部の手順を踏まないと正確に口を割らない者がいるんだ」
2021-12-13 20:34:36ケルシーは席を離れてデスクのお茶を飲んだ。 「それに、国によってはNGな方法だったり、自白による証言を認めないような組織もある。こういうのは地道さが求められるんだ」 デスクからペットボトルを持って行って、レッドに渡す。
2021-12-13 20:35:07「拷問というのは、知らない人が知ったら"それほどすごくなさそう"みたいな要素も必要なんだ。覚えておくといい」 スプラトは笑った。 「私は研修材料か!! あはは! あはは! あはははは!」
2021-12-13 20:35:22ケルシーはスプラトのみぞおちあたりをゆっくり片膝で押しながら言う。 「お前は私と一緒で、人の教育には熱心だと思うが」 「ごほっ、ごほっごほ、違いありません! それでこそケルシー先生ェ! 私の尊敬する先生ですよ!」
2021-12-13 20:35:37ロドス ドクター執務室 ドクターから熹一に渡されたものは、成人の中指くらいの大きさの機器だった。 「スプラトが渡した記憶媒体だよ。先に私達が見せてもらったけど、キー坊にも見て欲しい。けっこういろんな暗号っぽいのがまざってて読めない部分があるんだ」 「なるほど」
2021-12-13 20:37:13「ロドスの面々でもわからなかった、極東の人間でもわからなかったとなると、キー坊向けのメッセージがあるんだと思った」 「……そうか、そら苦労かけたのォ」 「ロドスはみんながみんなお互い苦労かけっぱなしさ」 ドクターが快活に笑う。
2021-12-13 20:37:22熹一は、資料室に向かう間に記憶媒体を見る。 テラで使う以外に、明らかに地球の――USBで見られるように端子も用意している。地球でも見られるようにしているのだ。 頭を振りながら歩く。
2021-12-13 20:37:31「ほいっ」 快活な女子の声が聞こえた。カシャだ。 「なんかさっき騒ぎがあったみたいだけど、大丈夫?」 首の後ろで腕を組みながら言ってきた。 「ちょっと面倒だったけど大丈夫や」
2021-12-13 20:37:44熹一が話を収めようとすると、カシャは返した。 「疲れてるならさっさと寝るなり休暇申請したほうがいいよ。キー坊が何かやりたいなら、私は協力するけど」 「別にそんなん」 熹一が振り返ると、カシャが、赤い目で、スキのない立ち姿で、言った。 「言い直すよ」
2021-12-13 20:38:03「キー坊は疲れてるからさっさと寝なよ。部屋に持って行くのは、卵がゆとブロッコリーと野菜ジュースでいい?」 熹一は一瞬口を開閉させた。 「グレープフルーツと山盛りのキャベツが欲しい……あとハイビスごはん」
2021-12-13 20:38:11カシャはニコッと青い目で笑った。 「オッケー! あたしはハイビスごはん頼まれても食べないから責任持って食べてね!」 食堂のほうにカシャは走っていった。 「カシャ……」
2021-12-13 20:38:21近くを通っていたラヴァが熹一を見た。ハイビスカスよりちょっと険しい態度と表情の、双子の妹だ。 震えながら言う。 「いやアイツの飯はアイツ自身がマズいと思ってるメシだから、いくら健康とかいっても食べるのは自業自得だよ」 「そ、そう……」
2021-12-13 20:38:33さらにラヴァは肩を掴んでくる。 「キー坊、あんたが健康志向なことは知ってるけど、ハイビスのメシを頼んだのならちゃんと食ってやっ……無理ならジューサーにかけて唐辛子系か甘い味付けにして吹っ切って飲んで、残すともったいないんだ」
2021-12-13 20:40:01ラヴァの瞳から頬へ涙が伝った。 「ロドスのために残さず食べてくれ……ごめんな、ロドスじゃなきゃこんな事言わなかったのに……」 「ラヴァ……おいたわしや……」
2021-12-13 20:40:14ラヴァがどんどん涙を流すので、熹一ももらい泣きしてしまった。 「うまいから食うんやない、生きるために食うんや」 カシャが食堂からランチ皿を2枚持ってきていた。もちろん熹一用だ。
2021-12-13 20:40:30