【ある冒険者の仕事】

サザンクロス @Mizuho_K

【prequel】男が本棚を眺めている。ここは冒険者ギルドの一室。本棚には、ギルドで取り扱った依頼の記録が保管されていた。男はその中の一冊を取り出し、確認し、戻す。同じ動作を幾度も繰り返し、自分の記憶と配置・内容に違いがないことを安堵する一方で、かねてより懸念していた問題を再認識する。

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「あなたがここに来てからどのくらい経ちますか？」 「昨日配属されたばかりですけど」 「なるほど。あそこに書棚が見えますね」 「見えますね」 「もし私が本気だったら、あの書類は全部整理されていたんですよ」 「真面目にやりましょう……」 「冗談です」 「真面目にやりましょう!?」

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「あなたを依頼書と報告書の整理係に任命します。理由はもちろんお分かりですね？ 私の前任者が書類を一纏めにしておけば整理したと思い込むような方だったからです」 「もちろんとか言われても」

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「依頼人や報酬などのデリケートな内容は省いて、依頼内容と結果が把握できるように概要を整理してください。詳細を知りたければ依頼書と報告書を見る、という視点でお願いします」 「質問いいですか」 「はい」 「もしかして、それって公開されますか？」 「はい」 「ええー……」

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山ほどありそうだけどやるしかないか、任された以上は……。まずは表紙を用意、と。表題はどうしようかな……。ひとまずは暫定的に【ある冒険者の仕事】って感じにしとこうっと。

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【ある冒険者の仕事1】依頼：ハーブ収集 近隣の森林区域に自生しているハーブを採取してほしいとの依頼だったが、依頼人が欲したものは冒険者が採取した香草ではなく外傷に用いる薬草であった。怒り心頭の依頼人であったが、冒険者が自分で使うために採取していた薬草を渡し、事なきを得る。

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【ある冒険者の仕事2】依頼：商隊護衛 大規模な護衛となるも襲撃に遭うことなく依頼は完了。冒険者たちは今までの経験から『何もしなかったのだから』と報酬を渋られる可能性を危惧していたが、護衛を雇う意味を理解していた依頼人の対応は正反対で、報酬上乗せに加え専属契約まで打診されたという。

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【ある冒険者の仕事3】依頼：笑顔の練習 どのような状況であっても笑顔でありたいという依頼に対して、騎士でも音を上げる過酷な訓練を課し、人間と亜人の戦場に駆り出し、常軌を逸した魔術書を朗読させた。すべてをこなした依頼人は望み通り、常に笑顔を絶やさない人間になれたことに満足した。

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【ある冒険者の仕事4】依頼：忌み子処分 村人が手を下せば村に災いを招きかねない。よって忌み子の処分は冒険者に託された。忌み子は処分され、唯一顛末を見届けた村長は村人に事のあらましを伝え、村には平穏が訪れた。

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【ある冒険者の仕事5】依頼：仇討ちの立ち会い 恋人を殺害し国外へ逃亡した殺人犯を追い、仇討ちを完遂するまでの一部始終を条件付きで見届けてほしい。その依頼を引き受けた冒険者は最後まで一切手を出すことなく、依頼人の仇討ちを見届けた。依頼人の出した条件、常に笑顔であることを確認して。

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【ある冒険者の仕事6】依頼：孤児の保護 身寄りのない子供を育てる余力はないという理由で、村長が山中で発見した赤子は冒険者へ託された。赤子は冒険者たちとともに隣国へ向かい、子供に恵まれなかった貴族に引き取られることとなった。

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【ある冒険者の仕事7】依頼：魔物撃退 畑を荒らす魔物の撃退に向かった冒険者たちの前に現れたのは、魔物と見紛うばかりに巨大な、野生化した家畜だった。家畜だった頃の習性は失われており撃退は困難と判断、目標を討伐へと変更した。引き締まった肉は硬すぎて食べられたものではなかったという。

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【ある冒険者の仕事8】依頼：精霊講義の補助 初歩的な精霊召喚術の講義実施に伴い、精霊と遭遇した経験がある冒険者の同席を求められた。講義は滞りなく進み、無事終了した。

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【ある冒険者の仕事9】依頼：邪精封印 邪精が突如街中に出現。悪意なき殺意は暴虐の限りを尽くしたのち偶然居合わせた冒険者に捕縛される。ギルドの冒険者と国の魔術師団の共同で封印術が施され、事態は収束した。後の調査により、邪精は国家転覆を目論む一人の男によって召喚されたことが判明した。

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【ある冒険者の仕事10】依頼：合成獣研究 ※当依頼は掲載期限を迎えたため取り下げられました

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「報告書、たまに事の顛末をちゃんと書いてないのがありません？」 「真実を露わにすることが常に正しいというわけではありませんよ」 「……まあ、そうですね。それにしてもこの依頼、本当に誰か引き受けると思ったんでしょうか」 「内容を正直に書いてあるだけ、好感が持てますね」 「えー……」

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【ある冒険者の仕事11】依頼：護衛任務 冒険者の声：「野盗と護衛対象が共謀関係だったから全員殴り倒して箱詰めにした」 ギルド注：虚偽の依頼は他の依頼者の迷惑になりますので、絶対にやめましょう。また、例外なく国家権力により処罰されます。

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【ある冒険者の仕事12】依頼：騎士採用試験 騎士を志望する者は後を絶たず、城の負担を軽減するための足切りとして、一次試験の試験官に冒険者が例年登用されている。依頼を受ける冒険者により難度は変わるものの、概ね突破人数は片手で数えられる程度に収まる。なお、今回の突破人数は皆無であった。

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【ある冒険者の仕事13】依頼：人食い魚捕獲 釣り人自身を餌とする人食い魚漁への同行。血の匂いを嗅ぎつけた魚が次々と集まり順調に捕獲を続けていたが、魚の重みで船が沈む危険が生じたため撤収。集まった魚はそのまま住み着き、周囲の水域は閉鎖される事態に陥った。

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【ある冒険者の仕事14】依頼：素行調査 自分が不在中に悪い遊びや付き合いがないか調査を依頼された。自他ともに認める隠形術の使い手である私は技術を駆使して対象の尾行を続けた。行動範囲から交友関係、食事内容に至るまでつぶさに観察した結果、依頼主の飼い猫に素行不良の心配は無しと判断。

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【ある冒険者の仕事15】依頼：国王暗殺 依頼主と実行犯は陛下直々に鍛錬を命じられた。 国王陛下の声：「最近は王に挑む気概のある者が減少傾向にある。贅沢は言わないから、次は指一本で撃退されないような者の挑戦を待っているぞ」 ギルド注：国王陛下以外の暗殺は違法ですのでご注意ください

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【ある冒険者の仕事16】依頼：利き酒 酒が飲みたいだけの輩を排除するため、厳正な審査が行われた。募集人数に対して応募は10倍にも至ったが、相応しいと判定された者は募集人数にも満たない僅か2名である。2名は商品開発助言の役目を果たしたが、口を揃えて「当分酒はいらない」と感想を漏らした。