【琉球】LingLangさん 言語学から見た琉球諸語、うちなーぐち、沖縄方言 まとめ【沖縄】

言語学から見た琉球諸語、うちなーぐち、沖縄方言 まとめ
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LingLang@言語学好き @linglanglong

言語学が好き。日本語の方言・アクセント、歴史・比較言語学、音韻学などに特に興味があります。言語学は完全に独学の理系人間です。上の子(6歳後半)と下の子(4歳前半)の第一言語獲得過程も観察したりしています。

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先日バズったこのツイートとその反応が興味深かったのですが、色々と誤解を含む反応も見かけたので、「言語・方言とは何か」などの考察・解説を書いてみました。 キーワードは「相互理解可能性」と「方言連続体」です。 (以下、30ツイート以上の超長いツリーになる予定です。お暇な方はどうぞ…) twitter.com/bintyoosabira/…

2022-06-15 01:10:13
LingLang@言語学好き @linglanglong

まず前提として、「言語」(個別言語)と「方言」という概念は連続的なものです。 同系統で近縁の「言語」同士と、同一言語の「方言」同士との境界は明確ではなく、意見が分かれることも多くあります。 また、純粋に言語学的に決まるわけでもなく、政治的・社会的な要因にも大きく左右されます。

2022-06-15 01:11:35
LingLang@言語学好き @linglanglong

しかし、社会一般はもちろん言語学でも「言語」と「方言」という概念は便利に使われていて、政治的・社会的な要素を抜きにしても、「言語学的に見ると別言語と見なせる/同一言語の方言と見なせる」というような言い方もされることもあります。 (なお、より中立的な「地域変種」という用語もあります)

2022-06-15 01:13:06
LingLang@言語学好き @linglanglong

では、「言語」か「方言」かを判断する際に何が影響するのかというと、冒頭でも挙げた以下の2つの概念が重要です。 ・相互理解可能性(mutual intelligibility) ・方言連続体(dialect continuum) (もちろん、この2つだけで説明できるほど単純ではありませんが)

2022-06-15 01:14:30
LingLang@言語学好き @linglanglong

相互理解可能性は、字面からも推測できるように、時間と労力を掛けて学習しなくても、互いの言葉を理解できる可能性のことです。 これが全く無いか非常に低いのであれば別言語と見なしうるというのは、日常的な直感に割と近い基準でもあるでしょう。

2022-06-15 01:16:54
LingLang@言語学好き @linglanglong

ツリー冒頭で引用したツイートは、沖縄語が日本語話者にとっていかに相互理解可能性が低いかということを示す分かりやすい例になっています。 (正確には、日本語→沖縄語の片方向ですが)

2022-06-15 01:18:16
LingLang@言語学好き @linglanglong

沖縄の言葉というと、日本語(共通語)が伝統的な沖縄語の影響を受けて第二次大戦後に成立したウチナーヤマトグチ(沖縄大和口)を思い浮かべる人が多いのですが、元々の伝統的な言葉であるウチナーグチ(沖縄口)はあれぐらい日本語と隔たっています。

2022-06-15 01:21:35
LingLang@言語学好き @linglanglong

現代では共通語教育が普及し、日本語(共通語)を理解できない人は沖縄にはほぼいませんが、明治生まれの沖縄の高齢者の中には、標準語の理解にも相当な困難を感じる人も少なくなかったそうです。 また、南米の日系人には沖縄系が多く、沖縄語を話すが日本語は分からないという人もいます。

2022-06-15 01:24:37
LingLang@言語学好き @linglanglong

東京の日本語と、首里・那覇の沖縄語の差異は、英語とドイツ語との、あるいはイタリア語とフランス語との差異に匹敵する、もしくはそれより大きいとすら言われることがあります。 相互理解可能性だけでいうと、別言語と充分に見なせるほどの差があります。

2022-06-15 01:27:42
LingLang@言語学好き @linglanglong

なお、相互理解可能性は非対称であることもあり、A語話者はB語を理解しやすいが、逆は理解しづらいということがあり得ます。 B語のほうが文法が簡略化されている、A語のほうが発音が複雑化したり独自の変化をしている、B語のほうが優勢でA語話者が触れる機会が多い、などの要因があります。

2022-06-15 01:32:34
LingLang@言語学好き @linglanglong

相互理解可能性が非対称な例としては、以下のようなものがあります。 (矢印の向きは、逆より理解が容易) ・ポルトガル語→スペイン語 ・デンマーク語→ノルウェー語 ・オランダ語→アフリカーンス語 ・エストニア語→フィンランド語

2022-06-15 01:42:17
LingLang@言語学好き @linglanglong

冒頭に引用したツイートに話を戻しますが、「日本語(共通語)を話す人が分からなければ別言語だというなら、津軽弁や薩摩弁も別言語ということになる。これは論破したことにはならないのでは」という指摘が結構見受けられました。 ある意味正しい指摘なのですが、これについても考えてみます。

2022-06-15 01:44:41
LingLang@言語学好き @linglanglong

東京の人にとって、津軽弁や薩摩弁も、確かに相互理解可能性がかなり低く感じられるでしょう。 (特に共通語の影響が少ない高齢者の言葉は) 実際、東京と津軽・薩摩の言葉よりも差が小さいのに別言語扱いされている言語も多く存在します。

2022-06-15 01:46:35
LingLang@言語学好き @linglanglong

しかし、言語学で「奄美語」「沖縄語」「宮古語」などの琉球諸語を独立言語扱いするのが一般的になってきた近年でも、「津軽語」「薩摩語」などを独立言語扱いするのは一般的ではありません。 その要因の一つを説明するのに便利な概念が「方言連続体」です。

2022-06-15 01:48:53
LingLang@言語学好き @linglanglong

先日のツリーでも書きましたが、津軽(あるいは北海道)からトカラ列島までの狭義の日本語は連続的に変化していて、隣接した地域同士で多少通じにくいことはあっても、全く通じないことはありません。 一方、トカラ列島と奄美諸島の間には非常に大きな断絶があり、相互理解可能性が全くありません。 twitter.com/linglanglong/s…

2022-06-15 01:50:53
LingLang@言語学好き @linglanglong

①もあると思いますが、③として、「方言連続体が断絶しているか」があると思います。 津軽(または北海道)からトカラ列島までの「日本語」は連続的に変化していて、隣接する地域なら意思疎通できます。 一方、トカラ列島と奄美の間(および北琉球と南琉球の間)は断絶があり、全く意思疎通できません。 twitter.com/BintyooSabira/…

2022-06-03 06:46:49
LingLang@言語学好き @linglanglong

思考実験として、津軽と東京の中間、大阪と薩摩の中間の方言が全く存在せず、津軽と薩摩の言葉がポツンと孤立した状態で存在していた場合を考えてみましょう。 その場合、「津軽語」「薩摩語」を個別言語として認める人は大きく増えると思われます。

2022-06-15 01:54:02
LingLang@言語学好き @linglanglong

しかし実際にはそうではなく、例えば青森市と秋田市の言葉は、多少通じにくい部分もありますがある程度の相互理解可能性があります青森市-弘前市-大館市-秋田市のようにもっと細かく地点を取っていくと、さらにその度合いは上がっていきます。 では「秋田語」も設けるべきか?となるでしょう。

2022-06-15 01:55:48
LingLang@言語学好き @linglanglong

このように、本土では隣接した地域間で相互理解可能性がほとんど無いと言えるほどの断絶が無いため「日本語」は分けづらいのです。 一方、本土と琉球の間や、北琉球と南琉球の間には大きな断絶があり、さらに南北琉球の中にも断絶に近い差異が多々あるため、別の「言語」「諸語」とされやすいのです。

2022-06-15 01:57:16
LingLang@言語学好き @linglanglong

なお、本土の中でも八丈島などの伝統的な言葉は、特に文法面での特色が強く、伊豆諸島北部ともある程度の断絶があるため「八丈語」と扱われることもあります。 ただ、発音の差異は文法ほどではなく、全く相互理解可能性が無いほどではないこともあってか、「八丈方言」扱いのことも多いようです。

2022-06-15 01:59:16