アシッド・シグナル・トランザクション #3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『……』セトは首を動かし、通り過ぎた。タキは流れ落ちる電子汗を静止させた。セトは振り向き、タキのもとにツカツカと戻ってきた。死！そのときナンシーの本体が突如セトに向き直り、回し蹴りを繰り出したのだ！『Take This！』『……そこか』セトはkickを受け止めた。淡々と、殺しにかかった。　22

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『イヤーッ！』『…ンアーッ……』セトはナンシーの胸を両手で貫き、引き裂いた。01分解するナンシーの中から、脱皮めいて新たなナンシーが出現し、後退した。セトはナンシーを追った。ナンシーは踵を返し、走り出した。情報圧縮球をめがけ。球体のパズルがほどけ、口を開く。ナンシーは飛び込んだ。23

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セトは眼前に連続でブンシンし、足を動かすことなくナンシーを追った。ナンシーを飲み込む情報圧縮球体の中へ、ブンシンを投げ入れた。混沌のパズルが泡立ち、静まり返ると、セト本体は再びタキのもとへ戻ってきた。タキは今度こそ死を覚悟した。だがセトは次の瞬間、壁画じみて二次元化し、消えた。24

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たっぷり二度の深呼吸時間を置いて、タキはようやく危機が去った事を確信した。『チ……チクショウ……今のがセト……？どうして気づいたんだ？おかしいだろッ……』過呼吸になりかけながら、彼は肩の上のナンシーに呼びかけた。『だけどアンタ流石だぜ。野郎、オレの事が見えてなかった』　25

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『0001101』輪郭にノイズをちらつかせ、小ナンシーは曖昧な笑顔になった。『私、ナンシー・リン。あなたのお友達よ』『オイ！？こんな時に何だ？よしてくれナンシー＝サン』『そんな怖い顔したら、いや』『オイ……』『ダメ、ダメ』拳大のナンシー・リンは子供めいて着地し、逃げようとした。　26

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『ちょっと待て！待て……離れたらヤバい！アンタが助けてくれねえと』『嫌、嫌』『待ってくれ、オイ！ナンシー＝サンよお！』タキはナンシー・リンを捕まえ、むなしく持ち上げた。『私は高い高いする歳じゃないわよ、オジサン！クラスのみんなより賢いんだからね！』『ヤベえ』タキは絶望した。　27

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◆◆◆ 28

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「イヤーッ！」ザナドゥはシダ植物めいた緑を伝い、飛び降りて、緑の苔に覆われた地面に着地した。おぶさった失神状態のヨウナシをベルトで固定し、これ以上の怪我をさせぬよう気を遣っている。弱々しい心臓の鼓動が背中に伝わってくる。「もうちょいだ。病院に行きゃあ、どうにかなる。頑張れよ」　29

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「しょう……」ヨウナシが震え、掠れ声を出した。「正直だいぶ痛い、ワシ」「当たり前だ。お前、クルマに轢かれたんだ。いいから寝てろ」「お世話になります」ヨウナシは再び気絶した。ザナドゥはしめやかに前進する。化け物じみた葛で覆われたビル群。緑の堆積物と化した廃車。緑のフェンス。　30

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「もう敷地内か……？」野外駐車場だろうか？ヒキャクとしての直感を駆使し、彼はアメモチ病院の方角にあたりをつけ、小走りに進む。「0001……1001」「何？」ザナドゥは緊張した。横倒しのトレーラーがつくった日陰で、析出エメツの横、黒い影が身をもたげた。フェイスレスだ……！　31

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「イヤーッ！」フェイスレスはザナドゥに気づくや、連続側転で影から飛び出し、追いかけてきた。ザナドゥは片手を後ろに回してヨウナシを押さえ、全力疾走で逃走を開始！「イヤーッ！イヤーッ！」連続側転のフェイスレスが追いすがる！「イヤーッ！」ザナドゥは決死のトライアングルリープ！　32

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フェンスを蹴り、垂れ下がったパイプを蹴り、傾いたビルを横向きに走るザナドゥの足跡が芽吹き、ネオンの桃が枝葉を伸ばした。「イヤーッ！イヤーッ！」フェイスレスは幻影の桃に引っかかり、カラテ攻撃を始めた。それを後目にザナドゥは緑に覆われた救急車の隙間を通り抜け……病院の前に、立った。33

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「「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」」禍々しいカラテシャウトが聞こえた。ザナドゥは病院棟を見上げ、思わず息を飲んだ。『救護週間』『命』『安心です』等の標語が書かれた垂れ幕の名残り。そして病院の上階……壁と屋根が巨大な樹の生育によって貫かれ、砕かれて、断面図めいて露出していた。　34

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「「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」」おお、何たる冒涜的光景か！太鼓放送に合わせ、数十……いや、数百人規模の病院職員と患者達が、一斉にトレーニングを行っていたのである！「「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」」それはセイケン・ツキと呼ばれる情け容赦ない殺人カラテのムーブメント！　35

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ザナドゥは、だらりと手を下ろした。そして震え出した。「「イヤーッ！イヤーッ！イヤーッ！」」嘲笑うように、人々のカラテシャウトが降ってきた。だが、聞くべきは太鼓放送の音ではなかった。ヨウナシの弱々しい心音だ。ザナドゥは己の頬を両手で二度叩いた。「負けるか……！」　36

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せめて医療キット。幸運ならば正気の医者。命を繋げ。ここがダメなら別の病院だ。ザナドゥは膝をついてスニーカーの紐をかたく締め、立ち上がり……背中にニンジャ第六感の疼きをおぼえ、振り返った。遮蔽物がなく、見通しがひらけていた。タマ・リバーの方角の空に、オリガミが見えた。　37

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ここから見れば豆粒めいたオリガミは、しかし変わらず空にある。静止し、それでいて、流れるような動きを内包している。遠目にもそれがわかる。ザナドゥはオリガミに向かって頷いた。そして病院に向かって全力で走り出した。　38

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【続く】