リコリス・リコイルにおける、予防拘禁描写の問題点

61
kemofure @kemohure

「先行作品と比べたとき、リコリスが少女のみで構成される理由や、少女を前線に立たせる搾取構造に対する大人側の自覚とか罪悪感がすっぽり抜け落ちていてさすがに気味が悪い」(はてな匿名ダイアリー) これは凄い同感。視聴者の多くは、予防拘禁問題の歴史(保安処の日本での議論)とか全く知らなそう

2022-08-09 23:15:39
kemofure @kemohure

リコリス・リコイルは、保安処分を行う特殊機関に主人公達が所属している訳ですが、これは先行作であるガンスリとかよりも、倫理的、また法制度的に問題が更に大きい。ガンスリは「テロ組織と戦う」という建前がある訳ですが、予防拘禁(保安処分)は「何もまだしていないものを処分する」ものなので

2022-08-09 23:18:22
kemofure @kemohure

戦後の日本にも予防拘禁(保安処分)を導入しようとする動きは何度もあって、何度も、あまりにも問題が大きいということで反対され未採用の歴史があるんですね。リコリス・リコイルの世界は予防拘禁(保安処分)を行う組織が無罪の人々を処刑している世界を『それが正しい』という形で描いているので危うい

2022-08-09 23:21:05
kemofure @kemohure

上記訂正 保安処→保安処分 「(日本では)刑法上の法効果として保安処分は採用されていない(略)しかし、刑法に保安処分制度を導入しようとする動きは古くからあり、1926年、1961年、1974年にそれぞれ答申された「改正刑法草案」は、保安処分を刑法に盛り込むものであった」ウィキペディア この辺の話

2022-08-09 23:23:29
kemofure @kemohure

リコリス・リコイル的な、保安処分(予防拘禁)により、無罪(犯罪を犯していない)の人々を処刑する国家機関が暗躍する物語は、漫画の「iメンター」もそうですが、iメンターの場合はその行為はディストピアとして提示されて、それに内部から抵抗する話な訳です。リコリスは萌えの名の元に従っているので..

2022-08-09 23:33:59
kemofure @kemohure

リコリス・リコイルの架空の日本世界の「保安処分(予防拘禁)により、無罪(犯罪を犯していない)の人々を処刑(もしくはそれに類する処分。薬物と電気による廃人化などの処理)する国家機関が暗躍する世界」っていうのは、ソ連などの旧共産圏諸国が行ってきた歴史があり、完全にディストピアなんですね...

2022-08-09 23:41:10
kemofure @kemohure

あと、リコリス・リコイルで、よく分からないのは、先行作のガンスリと同じくチャイルド・ソルジャーの話な訳ですが、チャイルド・ソルジャーは残虐行為の実施で精神が壊れてゆくので、ガンスリはそれを薬物と担当官のサポートで騙し騙し使っている訳ですが、リコリスはその葛藤が見えないのが...

2022-08-10 05:19:10
kemofure @kemohure

リコリスの組織が保安処分でばんばん無罪の人々を処刑していることは1話から明らかで、処刑人であるチャイルド・ソルジャー達に物凄い精神的負担が掛かっているはずなんだけど、その辺が描かれていないのが、どうしても誤魔化しているように見える。その点で、ガンスリは良くできていたなと改めて評価

2022-08-10 05:21:43
kemofure @kemohure

余談ですが、チャイルド・ソルジャーは精神が壊れてゆくという話では、漫画の「機械仕掛けのジュブナイル」とか良くできていましたね。チャイルド・ソルジャーとして精神が壊れている主人公(シリアル・キラーの性質が強く出ている)が、それでも倫理的に生きられるか、幸せになれるかが題材になっている

2022-08-10 05:23:46
kemofure @kemohure

当たり前なんですけど、リコリス・リコイルみたいなチャイルド・ソルジャー物で重要になってくるのは、残虐行為の実施は、行う側にも精神的打撃であり、特にその影響は子供兵に大きいということなんですよね...。ガンダムでアムロが最初は敵兵を撃てなかったり。リコリスからはこの辺が抜けている

2022-08-10 05:31:48
kemofure @kemohure

また余談ですが、チャイルド・ソルジャーについて描いた小説では、伊藤計劃さんの「The Indifference Engine」がお勧め。伊藤計劃さんは天才だと心底から感じたのはこの小説を読んだ時だったな...。現在は同題で出ているハヤカワ文庫JAの文庫で読めます

2022-08-10 05:35:37
kemofure @kemohure

「機械仕掛けのジュブナイル」とかのテーマ、人々の命を奪う戦闘により、完全にその中毒になってしまった兵士が、その後どう生きればよいのかは、凄く難しい問題ですね。機械仕掛け~は、デクスターの道を選んでいる。映画だと、アメリカン・スナイパーが傑作。リコリスはこの辺描く気なさそう...

2022-08-10 05:44:26
kemofure @kemohure

リコリス・リコイル、子供兵に保安処分に基づく戦闘行為をやらせる特殊機関が、どう考えても邪悪の権化なんだけど(テロも勿論邪悪だが、それを防ぐ組織もテロリスト以上に邪悪という構図)、その辺を一切加味しない形で話が進むので、作中の倫理的なことや社会的なことがどうしても気になって混乱する..

2022-08-10 06:00:39
kemofure @kemohure

>『リコリス・リコイル』はドストエフスキーの児童搾取テーマに通じるメタアイドルサバイバルアニメの傑作だ 上記は全く違うと思います。「リコリス達は外部から見ればシリアル・キラーだが、現代日本的社会で生まれ育っているにも関わらず、その行為に一切葛藤しない」、内面不在の物語と考えられる

2022-08-11 16:35:13
kemofure @kemohure

リコリス・リコイルの少女達は、完全に内面不在の人形的存在であって、ただ外的に美少女同士でいちゃついて、ガンアクションを行う形態として作劇されている(作劇として否定している訳ではない。現代アニメ的作劇)。あえて内面は不在に描写されていて、内面に極端に拘ったドストエフスキーとは対極です

2022-08-11 16:38:29
kemofure @kemohure

登場人物の内面を完全に不在にして外形の形態的な様相だけを描くのは技法としてあり、リコリスや「シタミさん」とか、あえてそういう形にしているんですね。内面の葛藤は倫理と繋がるので、それを物語から排除する。反社会的な稼業を美少女が行う題材で、その反社会性を視聴者に意識させない為の技法

2022-08-11 16:42:09
kemofure @kemohure

ドストエフスキーは、人間を社会性と接続させるという意識の元に過剰なまでに内面を重視しましたが、リコリス・リコイルは逆で、視聴者に内面を感じさせない外形だけの描写を上手く行うことで、上手くアニメ(ヒロイン)と社会性の分断を図っている。意図的に反ドスト的な作劇が上手く為されている

2022-08-11 16:44:17
kemofure @kemohure

世の中には上記の文章を書いた海燕さんのような批評家とは違って、内面が暗喩的に描かれる物語を理解できない人々が大勢いて、リコリス・リコイルは徹底的にそういう層に向けて特化した作品であると思います。徹底的に内面不在で、美少女イチャつきとガンアクションに全振りした作品。ガンスリと対極

2022-08-11 16:47:29
kemofure @kemohure

余談ですが、リコリス・リコイルが典型的な、このガワとお約束行動に全振りする内面不在系アニメは、現代アニメの主流だと思っていて(アート的にはフォーマリズム)、一つの美学的立場としてあると思いますが、自分は少し苦手なので、内面の存在するVチューバー(中の人がいる)に移行した側面ありますね

2022-08-11 16:56:19
kemofure @kemohure

リコリス・リコイルの作品に社会的、政治的な内面性が内在するという論調は、問題があるかなと。リコリスはそれら(内面性)をおそらく意図的に欠如させている作品な訳で、そこに政治性や社会性の内在を主張すると、無いものを在るとして見い出すことになっている。フォーマリズムはそれを批判した訳で

2022-08-11 18:33:55
kemofure @kemohure

浅田彰「グリンバーグのような目利きとその追随者達とか、小林秀雄とか、そういう特権的な人だけが見られるものだとすれば、それは(作に内在する)「理念」ではないんです。とにかく、日本のグリンバーギアンの不思議なところは、極めてドグマティックな個人崇拝になっている」 自分で考えること超大事

2022-08-11 18:36:31
kemofure @kemohure

岡崎乾二郎「この私にだけ見えちゃったっていう人(批評家)がいるわけね。あるいはそれによって事後的に私という主体性を支えている(略)本人は、私が、とは主張していない。受動的であるかのように装ってしまう」 海燕さんは、製作者の発言を根拠にしていますが、作者ではなく作品を見なくては...

2022-08-11 18:39:47