- nisiguntarotaro
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数日前のある夜、セミュエルは暗い闇の中から地上へ姿を現した。 茶色の壁をよじ登り、そこから生える棒を伝って先端の緑色のヒラヒラにしがみつき、セミュエルは羽を広げた。
2011-10-04 19:26:18緑色の血が透き通った翅に行き渡るのを感じた。あまりに気持ち良くて、大声で歌いたくなった。しかし夜だったのでやめた。近所迷惑だという事が分かっている。セミュエルはわりと空気が読める。 ということはなく、本能的にただ「なんとなく」そうしただけである。
2011-10-04 19:26:43翌朝、朝陽を浴びたセミュエルは勢いよく鳴き始めた。 すぐに他の木から鳴き声が聞こえ始め、それが連鎖し、瞬く間に太陽の下での大合唱が始まるだろう。セミュエルは別にそんな事は思わなかった。ただ本能のままに鳴いた。
2011-10-04 19:27:23木から木へ飛び移り、セミュエルは仲間を探した。 だが、どこにもいない。 鳴き声も何も、聞こえない。 セミュエルは探した。 向かいのホーム、路地裏の窓、こんなとこにいるはずもないのに…とは考えなかった。 やはり「なんとなく」そうしただけだ。
2011-10-04 19:28:38昼になって、セミュエルは鳴くのをやめた。 これも「なんとなく」である。 セミュエルは別に何も考えていなかった。というか、考えられる程の脳を持ち合わせていなかった。表情のない顔で、無機質な外骨格の脚を引っ掛け、じっと木に張り付いた。
2011-10-04 19:29:42夕方になり、セミュエルはまた鳴き始めた。ただひたすら鳴いた。冷たい風がセミュエルの翅に吹きつける。それでもセミュエルは鳴いた。陽が落ちて、セミュエルは鳴くのをやめた。 また木にしがみつき、朝を待った。
2011-10-04 19:30:39翌朝もセミュエルは鳴いた。 曇り空の下で、セミュエルは大声で鳴いた。また昼には鳴くのをやめ、夕方から鳴き始めた。 そして、夜が来た。
2011-10-04 19:31:49その次の日もセミュエルは鳴いた。 その次の日も、そのまた次の日も、 セミュエルは鳴いた。 ただ鳴いた。 鳴き続けた。 そして、また鳴いて、鳴いた。
2011-10-04 19:33:14