【再放送】マグロ・サンダーボルト #7
「……スゴイ店ですね」アベが心の底から言った。今日この高級ヤクザバーに入店してから三度目だ。彼はまだ経験の浅いレッサーヤクザだった。「まあな」向かいには、偉大なグレーターヤクザのハシバが座り、強化ガラステーブルの上で、メン・タイ刻み入り手製巻き煙草の見本を見せていた。 47
2022-11-23 23:51:00二人はサケを呑みながら、それを吹かした。あまりの強烈さにアベは頭がクラクラした。「ドラッグは嗜み程度にしとけ。格下に自分がどれだけタフか見せつけるのに使う程度だ」ハシバが言った。「ハイ」「ドラッグに溺れるヤクザは、所詮、下の下だ。そういう奥ゆかしさを欠いた奴は、いずれ死ぬ」 48
2022-11-23 23:54:00どんな家に住みたいかなどの雑談の後、しばし二人は無言で煙草を吹かし、サケを呑んだ。「…いずれ、苦しい二者択一に迫られる事もあるだろう。俺たちゃマグロみたいなもんで、泳ぎ出したら、止まれねえんだ。カネが回ったらなおさらだ」「どうやって選べばいいんスか?二者択一を」アベが問う。 49
2022-11-23 23:57:00「人間、追いつめられた時、切羽詰まった時に、本性が出る。何事もな、フェイス・トゥ・フェイスだ。ソンケイを積め。そうすりゃな……相手の目を見りゃ解る」「目を?」アベがハシバを見た。「そうだ」ハシバが頷いた。「嘘吐きの目、ラリってる野郎の目、シリアスな野郎の目……そのうち解るさ」50
2022-11-24 00:01:00「……俺にも?」「まあ、頑張るこった」ハシバが言った。「そしてクズ野郎を見抜いたら、容赦なく撃て。躊躇すればクズ野郎はお前を利用しようとする。撃ち殺して、ツバを吐きかけて、死体を蹴りつけてやれ。慈悲なんざ見せるな」「ハイ」アベが言った。「じゃあ、これだ」ハシバが札束を置いた。51
2022-11-24 00:04:00「これは?」アベが問うと、ハシバは笑って立ち上がった。メン・タイ刻み入りZBR煙草を吸っても、彼は平然としていた。アベには無理だった。彼はハシバに積み上げられたソンケイを感じた。「貸して欲しいって言ってたろ。そろそろクルマでも買っとけ。イカつくてクールなやつをな……」 52
2022-11-24 00:07:00ハシバは笑いながらバーから出て行った。アベはソファに座ったまま、その光沢ヤクザスーツの背中をずっと見ていた。 53
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