空挺戦艦山城&鎮守府空挺概念(2021.第七:ヤクルトレディvs空挺艦娘編)
- chinottomateba
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飛び石さん(@Tobiishisan )の「ヤクルトレディVS空挺艦娘」のお話にて、空挺戦艦山城&鎮守府空挺概念モーメントをひとつまとめまさせていただきました(感謝) twitter.com/i/events/14557…
2021-11-03 11:09:59一手、遅れた。 暇つぶしに持って来た推理小説の中では、ボサボサ頭の冴えない探偵が今から犯人を当てるシーンが始まろうとしていた。 これから一段と面白くなる所だったが、微かに聞こえたうめき声が頁を捲る山城の指を止めた。 何気無く顔を上げた先の向こう、視線の先に一人の女性が立っていた。
2021-11-03 09:17:31下はボルドー地に青色の格子が入ったキュロット、上は薄水色の長袖シャツに濃紺色のベスト、明るい牡丹色のリボンが胸元を飾り、頭にはベストと同色の帽子を目深に被っている。 隣には乳製品メーカーのロゴが入った保冷バッグ運搬用の手押しカート。
2021-11-03 09:17:31どこからどう見てもヤクルトレディだった。 何も不思議は無い。 ━━今この場所が、高度3000メートルを突き進む輸送機の中である事を除けば。
2021-11-03 09:17:32二手、遅れた。 彼我の距離は10メートルほど、文庫本を床に打ち捨て、腰のホルスターから銃を抜き、構える。 警告の言葉を発しようとした瞬間、山城は女性の背後に信じられない光景を見た。
2021-11-03 09:22:12今日、山城がこの輸送機に搭乗しているのは実戦のためでは無い。 新人2名による高高度空挺降下訓練、その監督と実技指導のため山城は新人ともども挺式艤装を着装し、輸送機に乗り込んでいた。 現地の天気は良好、風速も穏やか。
2021-11-03 09:22:13全員艤装の最終チェックを終え、空挺降下までの時間を山城は読みかけの文庫本で潰す。 憂鬱では無い空挺降下はいつぶりだろうか。 今日の自分はただお手本を見せるだけで良いし、以前足柄から聞き及んでいた件の新人の実力を生で見る良い機会でもある。
2021-11-03 09:22:13━━その新人2名が女性の背後で倒れていた。 1名は背負った艤装ごと床に倒れこみ、もう1名は艤装のオートバランサが作動しているのか膝付きの状態で俯いており、かろうじて冷たい床に口づけをせずに済んでいる。 先ほど微かに聞こえたうめき声は俯いたこの娘の声だった。
2021-11-03 09:22:141名生死不明、1名行動不能。 艦娘が?2名も?私が目を離したあの僅かな時間に? それにどこから━━ 思考が混乱し立て直すまでの1秒、向けた銃口の先から。 女性の姿が消えた。
2021-11-03 09:22:14次の瞬間、山城との距離を信じられない速度で詰め、懐に潜り込んだ女性が山城の鳩尾に向けて掌底を放つ。 ボディアーマー越しに体内に到達した衝撃は、山城の体を艤装ごと2メートル後方へ吹き飛ばした。
2021-11-03 09:30:33自身の肋骨にヒビが入る音を聞きながら、後方に抜けた衝撃で崩れたバランスを持ち直し、片膝をついた状態で床面を擦って静止する。 湧き上がる苦痛と、喉まで出かけた昼食のサンドウィッチを堪え前方を睨んだ山城は、右側面艤装の格納モードを解除した。
2021-11-03 09:30:33挺式艤装の解除はもう間に合わない、ならば本来の性能を発揮出来ず死重量になったとしても装着したまま闘うしか無い。 が、砲の発射機構はロックする。 外れた弾が新人に当たる可能性があるし何より演習弾とはいえ輸送機に穴を空ける訳にはいかない。
2021-11-03 09:30:34巨人の手の様に前面に長く展開した35.6cm連装砲の砲身を女性に向かって斧の様に振り下ろす。 巨大な鈍器と化した砲身はまともな人間であればひしゃげてしまいそうな速度と圧力を持って襲いかかる。
2021-11-03 09:30:34しかし、難なく半身で攻撃をかわした女性は、そのまま右脚で山城の脇腹に向かって鋭い蹴りを放つ。 ━━舐めるな。 鋭角に切り込んできたつま先を左の掌でがっちりと受け止め、そのまま掴む。
2021-11-03 09:30:35━━このまま床に叩きつけて潰す。 そう決心して手にさらに力を込めようとした瞬間、女性が残った左脚で地面を蹴り跳躍する。
2021-11-03 09:30:35そのまま掴まれてる右脚のつま先を中心にして空中でぐるりと弧を描く。 さらに体の捻りの力を利用して遠心力を加え、変則的な角度から左脚で山城の顔を打ち抜いた。
2021-11-03 09:34:28口から流血と共に奥歯が宙に舞い、輸送機の床を点々と紅く染め、転がっていく。 飛んでいきかけた意識を何とか手繰り寄せ、顔を上げた山城の眼前に女性の顔が迫る。 先ほどの二連蹴りで帽子は脱げており、今は女性の顔をはっきりと目の当たりにする事が出来た。
2021-11-03 09:34:28その肌は白磁の様に白く、その眼はルビーの様に紅く、ニタリ、という擬音がぴったり会う笑顔で━━ 「深海ッ!!!」 再び繰り出された掌底の衝撃が、今度は山城の肺をえぐり抜いた。
2021-11-03 09:34:29ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー サンドバックの気分を山城は味わっていた。
2021-11-03 09:43:05敵は気味の悪い笑みを顔に貼り付けながら四方八方からあらゆる手を使って山城を殴打し、蹴りを浴びせてくる。 最初に受けた連撃の影響でもう殆ど足が動かない山城は、かろうじて動く腕を総動員して急所の防御を固めるしか無い。
2021-11-03 09:43:06攻撃に転じればすぐさまカウンターをもらいさらに劣勢になる。 それは痛いほど分かっていた。
2021-11-03 09:43:06敵は徹頭徹尾、優れた機動力と手数でこちらを圧倒しじわじわとすり潰す気だろう。 段々とチェックメイトに近づいている悪寒が背筋を撫でていく。 加えて背中にかかる艤装の重さが苦しさを一層深めていく。
2021-11-03 09:43:07