原谷奇譚

未完
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सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa てつをがこの村に引っ越してきて4ヶ月になる。集落なので何でも揃うというわけではないが、てつをにはその不便さを楽しむ程度の余裕はあった。10月に取り残された一日だけの残暑、今年最後の祭囃子が報道ヘリのプロペラ音にややかき消されながらも聞こえてくる。

2011-10-16 15:03:42
तुतोअ @tutoa

今日は外から祭りの音が聞こえる。ちょっと行ってくる。

2011-10-16 14:31:52
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa 「せっかくやし、行こうか」別段誰かに話しかけたわけではない、しかし彼は飼い猫を連れていくつもりで踵のつぶれた革靴を履きながらそう言った。普段はペダルの1漕ぎで通り抜けてしまう用水路にかかる橋、学生アパートにかかる下着、マンホールのデザインをなめるように見ながら進む。

2011-10-16 15:21:20
तुतोअ @tutoa

観光の為の祭りとかじゃ全然なくて、昔から住んでいる人達の祭りという感じ。舞と太鼓の音が気持ちいい。参加し難い感じやけど。

2011-10-16 14:43:51
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa てつをが丁度Y字路の地面から右の路地に目をやったときだった。何か違和感を感じた。そこにはぎゅうぎゅう詰めで同じようなデザインの家が立ち並ぶ住宅街があった。同じような風景を大阪や東京の一部で見ている、いくら都市部から離れた集落といえどそこまで不思議な光景ではない。

2011-10-16 15:28:22
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa さらさらと山から冷気を含んだ風がおりてくる。風が強く吹くたびにその景観は日常から離れていく気がする。何かひらひらとしたものが視界の中で蠢いている。それは同じ形をして同じ隙間をもった建物の同じ高さのところで同じ動きをしていた。ただ洗濯物が干してあるだけ、しかし・・・。

2011-10-16 15:44:14
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa 違和感の正体とは干されている物の形。ブリーフ、男物の白いブリーフだけが十棟の家々で連なった凧のように風になびいているのだ。「このまま強風で吹き飛んだら誰のブリーフだか・・・」てつをは身震いして、それ以上口にだすのをやめた。とにかくこの集落になじまなくてはいけなかった

2011-10-16 15:56:24
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa あまり立ち止まっていても怪しまれるだろう。てつをは祭囃子の聞こえるほうへ向かって住宅街を足早に通り抜けた。祭囃子は山側の笹目夜神社から聞こえてくるのかもしれない。鳥居につくまでの坂は舗装されているものの傾斜がきつく、途中で自転車から降りなければいけないほどだ。

2011-10-16 18:07:43
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa その坂の入り口にさしかかったとき、5歳ぐらいの少年が道路で何かしているのが見えた。鳥かごのフタに両手をついてその中をじっと見つめているようだ。子供が何かにあまりにも熱中している姿は神秘的でいじらしく、てつをは己が失った物を思い出し羨望の気持ちでしばらく見とれていた。

2011-10-16 18:18:55
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa 少年はじっと鳥かごの中を凝視して、向こうからやってきた無精髭のくすんだもやし色をした馴染みのない顔の男には目もくれない。鳥だろうか、柵の隙間から白い色がチラチラと見える。なるべく自然を装い「ねえ、何を飼ってるの?」と声をかけようとしたてつをは、気づいてしまった。

2011-10-16 18:33:17
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa その鳥は少年のように動かないし、わずかに胸が膨らんだりしぼむこともない。はじめてペットの最期を看取ったときを思い出すてつを。しかし強い風が吹くと共に白い鳥はひらひらとカゴの中で飛び回りだした。「生きてた!」てつをは上機嫌で坂を登る。鳥の縫い目には気がつかなかった。

2011-10-16 19:32:10
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa 傾斜をしばらく行くと平らな広場へと出る。広場の中央にはやぐらが置かれ、そこを基点に出店が左右対称に配置されている。坂をのぼりきったところからやぐらを見あげれば、その少し奥にくすんだ朱色の笠木と貫が見えた。家族連れが多いが、少し様子を伺えばこの集落の人ばかりだとわかる

2011-10-16 21:33:16
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa 露店で焼きそばと焼き団子を買う。子供たちは皆マスクをつけていた。お祭りであれば本来ならその位置にはわたあめがあるはずだった。それは白い衣装を顔にまとった何らかの儀式であることには違いなかった。放射能入りの神事。てつをは言いようのない怒りを感じながら、団子をかじった。

2011-10-17 00:42:35
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa てつをの登ってきた坂から見てやぐらの右側には手水がある。山に近いだけあってその水を一口飲めば、融けつつあるつららをかじったときのような冷たい刺激が上顎の裏をつきぬけ頭頂部を叩く。てつをが柄杓を置くとすぐに小さな10本の指が柄を掴む。それは先ほどの鳥かごの少年だった。

2011-10-17 00:53:52
सुकेचान ஸுகெசான் @sukechan

@tutoa その子からかごを凝視していたときのような表情はよみとれない。鼻から下は白い布地で覆われていたからだ。「どうしてお兄さんはつけないの?」突然の問いかけに驚きつつ「何を?」と聞く前に少年は白い布地を人差し指で指した。てつをは「ぼくの体は少し丈夫にできてるんだ」と答えた。

2011-10-17 01:14:24