ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編 #4

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

住人たちは松明を手に装甲ピザワゴン周囲に集まってきた。彼らは皆、身体の半分以上をサイバネ化しており、不穏なUNIXライトをあちこち光らせていた。「ホーッホーッ!ホッホー!」「機械神の啓示か?」「外からの来訪者だと?許せない!」「引きずり出そう」「手術しよう」「確かに」不穏な会話! 21

2023-02-03 23:00:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「手術?オレを?何考えてやがる、サイコパスども」タキは愕然とした。そして拳銃を掴んだ。このまま撃ちまくり、轢いてしまうか。西部劇の始まりだ。「待て待て違うだろ」彼は首を振って否定した。「そりゃ最後の手段だ」……「ピザタキ?ピザだと」「ピザ?」「何故ピザが」会話の流れが変わった。22

2023-02-03 23:04:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「機械神がピザを……遣わしたのか?」「ありえない。手術だろう」「ピザでも手術だ」……まずい。タキは意を決した。今しかない。彼は窓を開けて顔を出し、彼らの妙な会話に割って入った。「そうだ、ピザだぜ!移動店舗だ、スゲエだろ?サ……サイバネでも腹は減る!ピザ食いてえだろ!?」 23

2023-02-03 23:07:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ピザ……俺は腹ペコだ」「確かに俺もだ」彼らは顔を見合わせた。『タキ=サン!どういう事?マジで言ってるの?』ザックが慌てた。「どうもこうもあるかよ。ピザを焼くんだよ、ザック!」タキはやけくそで言った。「できンだろ!お前とコトブキが用意させたピザワゴンだろうが、このクルマは!」 24

2023-02-03 23:12:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『そ……そりゃあ、あるぜ、ピザは。作り置きも冷凍してあるし……』「よし。コイツらだって、別にゾンビ―や話の通じねえフェイスレスなんかじゃねえ。こんな非常事態で、まともな飯も食ってねえ筈だ」『わ……わかった』「オープン!」ダッシュボードの開店ボタンを押す。車体側面が開いた! 25

2023-02-03 23:17:17
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「ツクモ!ユンコ=センセイに急がせろよ!」『わかりましたタキ=サン』タキは息を深く吸い込み、意を決して、後部の調理スペースに移動した。ザックがタキにエプロンを渡した。「マジでやるんだな、タキ=サン」「そうだ」タキは引き攣った笑顔で、集まってきたサイバネ者達を迎えた。 26

2023-02-03 23:24:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あのな、オレたちピザタキはな、アンタ達みたいな、この状況で往生しちまってる奴らにピザの手を差し伸べる為によォ、ワゴンで危険を冒してあちこち回ってるワケよ。ありがてえと思わねえか?」「……」「……使徒よ。感謝します」サイバネ者の一人がオジギし、手を合わせた。タキは鼻白んだ。 27

2023-02-03 23:27:14
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UNIXライトを点滅させながら、彼らはタキを凝視している。うち一人は食い縛った歯の隙間から涎を垂らし、腕に仕込まれたチェーンソーを常時稼動させていた。不穏だった。「オイ!急げザック」「やってる」ザックは冷凍保管ピザ生地にチーズを乗せている。タキは何度も振り返り、やがて手を貸した。 28

2023-02-03 23:30:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前……じれったいんだよ。ホントにピザのプロか?このクルマ買った時はコトブキと一緒にさんざん調子こいて、お前、オレに相当上から来てたクセによ……」「なんだよ!タキ=サンだって、なんか文句ばっか言ってたろ!俺らを横で見て!」二人は罵り合いながらチーズを盛り、サラミを並べる。 29

2023-02-03 23:33:42
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「こんなファッキング石窯なんか設置しやがってよ。誰も味なんかわからねえんだよ」タキはピザピールで生地を掬い、中へ滑らせた。サイバネカルティスト達が唸り始めた。「ピザはまだか」「本当に食べられるのか?偽りの預言者ではないのか……?」「チェーンソーで手術すべきだ」油断がならない。 30

2023-02-03 23:38:06
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「大丈夫!うちはファッキング本格派だ!」タキは笑顔で彼らを振り返った。「美味しいピザでアンタらの血糖値も最適化だぜ!栄養が脳にキクんだ、いいピザを食うとハイになる。これホントの話な」「……」「……」「よし。ザック。次の準備だ。ああクソッ、もういいオレがやる、お前は窯を見ろ!」 31

2023-02-03 23:41:16
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「タキ=サン、手際いいの!?」ザックはタキの素早いトッピングを見て驚きを隠せない。「ピザ焼いた事あったのかよ?」「知るか!こんなもん、誰でもできらあ。オレはテンサイ・ハッカーだ。タイピングもトッピングも同じだぜ」「そうなのか!スゲエ!」ザックはピザを取り出す!アツアツだ! 32

2023-02-03 23:44:16
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ザックは急いでピザを等分し、紙で包んだ。「皆!第一弾が焼けたぜ!焦らないで大丈夫だよ!」「……」「……」彼らは儀式的な動作で手をかざし、ザックのピザを受け取ってゆく。チーズがとろけ、素晴らしい香りが地下駐車場に漂う。穏やかなアトモスフィアすら流れ始めた。チェーンソーが止まった。33

2023-02-03 23:47:26
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「いいぞ、次のピザだ。クソッタレ」タキは二枚目を石窯に投入した。そしてトッピング三枚目。今度のトッピングはエビだ。タキは複雑な気分になる。しかしあれこれ言っている暇はなかった。このままピザを焼き、時間を稼げばいい。簡単なミッションだ……『タキ=サン!大変です!』「ツクモ!?」 34

2023-02-03 23:50:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

タキは通話モニタを見て息を呑んだ。リアルタイム映像。ユンコが容態急変し、ガクガクと震えている。『エネアドの攻性クロウラが想像以上に多いのです!』ツクモが悲鳴をあげた。『このままでは……!』「何だと!?聞いてねえぞ!」「タキ=サンどうしたの!?」「お前はピザを配れ!」35

2023-02-03 23:53:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『タキ=サン。どうしましょう』「ドロイドが人間に助けを乞うんじゃねえ!」タキは叫んだ。そして我に返り、笑顔をサイバネ者たちに向けた。「ア、こっちの事なんで。なんでもねえからな。美味しく食べてくれ」彼はザックの背中を叩いた。「やれ!お前は一人前になれ」そして運転席へ這う! 36

2023-02-03 23:58:38
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『タキ=サン』ツクモがUNIXを高速点滅させて泣いていた。タキはユンコを見て、唸った。(オレもやるしかねえ)だが、このUNIXは二つ同時のLAN接続を行うようには出来ていない。ユンコを強制切断しなければ直結論理タイピングが出来ない。危険過ぎる!「クソッ!」彼はダッシュボードを開いた。 37

2023-02-04 00:03:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこにはアルミ箔の包みがしまわれている。アルミ箔を開くと……エメツの黒い粉だ。夢の新資源。物理世界と電子世界の境界を曖昧にする悪夢の申し子。昔はそれを、奥歯に仕込んでいた事もあった。タキは不安を覚え、深呼吸した。「……ウーッ」彼はエメツを握り締め、調理スペースに這い戻った。 38

2023-02-04 00:08:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ、次のアンタ……」ザックが差し出そうとするピザの一片を、タキは横から奪い取った。据わった目で、彼はエメツをチーズの上にたっぷりふりかけた。過剰量。真っ黒になるほどに。「イカスミみてえなもんだ!」そして齧りつき、口の中から鼻の中に、呼気を吸い上げた! 39

2023-02-04 00:10:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

0010011……010101……0100101……タキは流星めいた速度で、枯山水の白砂じみた荒野に落下してゆく。地面がぐんぐん近づく。すぐに見つけた。ユンコ。人間サイズの黒いピラミッド型の不穏なシステムが複数、彼女を取り囲み、ダウジングロッドじみた黒い触覚を伸ばして、IP情報を奪おうとしている! 40

2023-02-04 00:14:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「TAKE THIS!」タキは落下しながら高速回転し、ヤリめいて尖らせた両足で、最初の攻性クロウラを踏み砕いた。「ピガーッ!」攻性クロウラは砕け、01パーティクル分解した。「離れろ!クソが!」タキは腕を振り上げた。腕の先がピザカッターに変わった。必死だった。「TAKE THIS!」「ピガガーッ!」41

2023-02-04 00:17:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ビゴビゴビゴ」攻性クロウラは攻撃対象をタキに変更した。ダウジングロッドめいた触覚がカクカクと曲がりながら迫ってくる。「EAT THIS!」タキはピザじみた円盤状の左手武器で触覚を切断し、必死の前蹴りを喰らわせた。「ピガーッ!」アブナイ!「ビゴゴゴ」死角から別のクロウラが攻撃! 42

2023-02-04 00:20:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「TAKE THIS!」「ピガーッ!」……タキは振り返った。ナムサン!正気を取り戻したユンコがトビゲリで死角クロウラを機能停止させていた!タキは咳払いし、最後のクロウラに向き直った。あらためて荘厳なるデジタルオーディンの姿をとったタキは、無慈悲な電子グングニル槍で攻撃!「ピガーッ!」43

2023-02-04 00:23:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やれやれ……間に合ってよかった。これがオレの力だぜ、ユンコ=センセイ」タキは膝をつくユンコに手を差し伸べた。ユンコは肩をすくめて微笑し、タキの手を取った。「さすがは、ナンシー=サンの見込んだ人間ね」「だろ?」「ピザ、クールだった」「いや、グングニル槍だ」 44

2023-02-04 00:27:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見て」ユンコは立ち上がり、指さした。荒野に道が刻まれ、はるかな地平、砂嵐を割って、呪術的な黒い柱が姿を現す。エネアドのIPだ。「手伝ってくれる?」ユンコが右手を翳した。腕は長く伸び、巨大なハープーン・ランチャーに変形した。タキはユンコの後ろに立って、電子ハープーンを装填した。 45

2023-02-04 00:31:38