- SuguruYamaura
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対岸に立つ彼女は、現実のものなのだろうか。手を延ばし届く距離では無いのはわかっているが、無意識に右手が前に伸びていた。伸ばした指先に触れたのは光と無数の粒子群。消えゆく彼女。ふと我に返り、対岸は駅のホームである事を思い出す。反対側のホームの電車が走り出し、やはり彼女は消えていた。
2011-10-20 22:01:09あたしを待っている人がいる。パソコンの電源を入れ、鏡を見直す。仕事終わり、シャワーを浴びて、また化粧を整える。WEBカメラの前に座る。昼間とは違いセクシーに彩る。深夜だけど、2万人のファンが待つステージに私は向かう。インターネット生放送。道化になるわけではないが、高揚を隠せない。
2011-10-22 01:33:39運命とか偶然とか、赤い糸とか、そんなの信じていない。ただ、ただ、頭が真っ白のまま、北の大地から、無意識で東京を目指して、飛行機に乗る自分がいるという事に驚いていた。無難な人生。高校を卒業して、公務員になり、それなりに楽しんでいた人生。僕の中にこんなにも熱い衝動が流れていたなんて。
2011-10-23 21:35:12最初は興味本位だった。同僚の恵美がやっているという話を聞いて、覗いてみたら、本当に楽しそうな笑顔で喋っていた。コメント群に丁寧に答えていく。そこから少しづつ派生して色々な話に逸れていく。画面を流れるコメントの流星。恍惚に変わる恵美の表情を見て、その世界をのぞき込んでみたくなった。
2011-10-24 21:34:52最初の出会いは偶然だった。ディープな人達に少し人気だというまとめサイトを見て、そこから観に飛んだら、たまたま偶然生放送中だった。最初の印象は普通の子。学校ではマドンナというよりは学級員の親友。世間から見たら、ほんの少し可愛いラインだと思う。それでも、何か惹きつけるオーラがあった。
2011-10-25 21:29:46演出という名の嘘。私はそういう行動に出ることした。余命三ヶ月の命という設定を作ることで伸び悩んでいたファンの獲得を得ることにした。続ける楽しみが失われる代わりに、女優として新たな舞台に立つことができる。そんな妄想を胸に血色の悪いメイクをした。少し高揚している。世界がまた動きだす。
2011-10-26 21:34:29何のためになんて考えなかった。ただ、この世から消えゆく彼女を一目だけでもこの目で見ておきたかったんだ。会いたかったんだ。だけどその方法なんか考える間もなく、東京の地に着いたが、あてもなく、頼るべき存在もいない。恋愛小説のようにはうまくいかない。奇跡なんか早々起きないんだ。本当に。
2011-10-27 23:45:152週間ほどは楽しい日々だった。今まで経験した事のない心配のコメントの数々に胸が一杯になる。消えゆく私をこんなにも大勢の人が支えてくれている。この世界から必要とされている。決して現実が充実していなかったわけではない。全てが自分を中心に廻る世界のような錯覚が、私の歯車を狂わせていく。
2011-10-29 01:49:59彼女が死んだという事を知ったのは、ホテル代わりに利用していたインターネットカフェでの事。特に彼女はブログなどが無いので、情報を知るのに時間がかかったが、どうやら本当の事らしい。僕は彼女の事を何も知らない。彼女には僕の存在も知って貰えない。もう出会う事も出来ない。一筋の涙が零れた。
2011-10-30 02:05:43対岸に立つ彼は何故私を見つめているのだろう。驚いた表情をしているが、私に何か不審な点があったのかな。ホームに電車がやってくる。自分の体を見るが怪しい所は見当たらない。鏡を取り出し、顔も確認するが怪しい点は無い。彼の表情が気になるが、発車ベルがホームに響き渡り、電車に乗りこんだ。完
2011-10-30 21:42:39