ビースト・オブ・マッポーカリプス 前編 #8
警戒心の中、彼らはアイサツをかわした。フィルギアが共有したのは、真偽定かでない、途方もない話だった。神話時代のリアルニンジャがネオサイタマを利用し、抜きん出た存在が都市そのものの力を奪い去ろうとしている。熱に浮かされて見る悪夢じみた話だが、目に見える状況はその裏付けであった。 18
2023-03-04 14:57:18実際その大部分は、ソウカイヤには関与しようのない事象だ。ニンジャスレイヤーのすげない言葉は、ある意味では必要十分なものであった。やがて、チョウチン・タワーの巨大モニタに、緑に呑まれたネオサイタマの俯瞰映像が映し出された。この地区の通信障害が改善した結果だ。彼らは仰ぎ見た。19
2023-03-04 15:01:11『信じられません!これは凄い!』カメラ主のヘリコプターはマルノウチ上空、スゴイタカイビルに接近。どうやらTVカメラで中継を行おうとしている。『御覧ください!変わり果てたスゴイタカイビル!メガコーポ軍が周囲を固めています!それは実際、一社なのです!エネアド社の戦力です!』20
2023-03-04 15:05:22映像がスゴイタカイビルに焦点を合わせた。ナムサン。中継映像のなか、緑の塔と化したビルの屋上を覆っていた植物のドームが、内なる光に弾け飛んだ。『アーッ爆発これは!何か起きています!一体我々は何を見ているのか?NSTVではこのような凄いスクープを届けます!すぐチャンネルしてください!』21
2023-03-04 15:09:38「光……」フィルギアが呻いた。然り。スゴイタカイビルの光の柱は今、さながら衛星レーザーじみた眩い光となって、スゴイタカイビルに突き刺さった。『スゴイすぎる!もっとヘリ近づけろ!近づくんだよ!クソが!あ、シツレイしました!御覧ください!アーッ?屋上に、人が!人が居ますよ!?』 22
2023-03-04 15:13:28ブレる中継カメラ映像。四つのシャチホコ・ガーゴイルに囲まれた、ビル屋上。黒く変色した植物の根の集積物はまるで玉座だ。そこに肘をついて座る存在。シャチホコ・ガーゴイルのところに黒いポータルが出現し、中からクロヤギが這い出す。玉座に近づく。玉座の男はそれらを受け入れる。 23
2023-03-04 15:16:09『こッこれは完全に動かぬ証拠!今まさに不正が行われる瞬間では!?都市を徘徊する危険な無差別殺戮犯罪者達のアジトという事でしょうか?み、見てください!玉座に座る重大容疑者が……!た、食べている!?アイエエエエ!?同化!?ひとつに?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?アイエエエ!』 24
2023-03-04 15:18:12「こうなりゃスゴイタカイビルだろ!ガーランド=サンよォ!」インシネレイトがカッと両目を見開き、ガーランドを見た。「やる事ァ決まったぜ!見ててもしょうがねえ!」「……然りだな」ガーランドは頷いた。フィルギアは映像を懸念した。「TVの奴ら……それ以上は……」『アイエエエエ!』 25
2023-03-04 15:21:05カメラ視点が激しくブレ、360度回転を始めた。玉座の存在がゆらりと立ち上がった。『アイエーエエエエ!アイエーエエエエ!ニンジャ!ニンジャナンデ!』ニンジャリアリティショックの叫び。高速回転する視点が、止まった。ささくれたノイズ画面が焼きついた。……そして、鐘が鳴った。 26
2023-03-04 15:23:35ゴーン。スピーカーが鳴らした音ではなかった。鐘の音は超自然の振動、オヒガンを貫く叫びだった。空に浮かぶキンカク・テンプルが脈動した。ガーランドとインシネレイトが、フィルギアの目の前で、不意に立ちすくんだ。そして……その場で、セイケン・ツキを、始めた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」27
2023-03-04 15:26:01フィルギアは目を見開き、驚愕と絶望に口を歪め、精強なる二人のソウカイ・シックスゲイツのニンジャのセイケン・ツキを見た。宙に浮かぶアブストラクト・オリガミを、遠景のジグラット富士を見た。空で冷たく自転するキンカク・テンプルを見た。マルノウチの方角、スゴイタカイビルの光を見た。 28
2023-03-04 15:31:13マルノウチ上空に今、巨大なニンジャアトモスフィアがある。視覚で捉えているのか、ニンジャ第六感で見ているのか。混乱の中、直感的にフィルギアは確信した。……カツ・ワンソー。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ガーランドとインシネレイトはセイケン・ツキを継続する。29
2023-03-04 15:33:57「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」ガーランドとインシネレイトはその場で力強く目を見開き、力強く叫び続ける。渾身のセイケン・ツキを繰り出し続ける。「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」フィルギアは後ずさる。始まったのだ。だが、なにが。 30
2023-03-04 15:36:14「イヤーッ!イヤーッ!」時同じくして、KATANA治安部隊の陣頭指揮をとり、フェイスレスを殲滅し終えたKOLのニンジャ、レイテツは、その場で突如、セイケン・ツキを開始した。「イヤーッ!」「イヤーッ!」モータル隊員が唖然とする中、ニンジャ隊員も同様にセイケン・ツキしていた。 31
2023-03-04 15:39:22「イヤーッ!イヤーッ!」そこからやや離れた地点、傷ついた親子を無事に安全地帯に送り届けたレッドハッグは、その場で突如セイケン・ツキを開始していた。『オイ!?いきなりどうしたッてンだ!?』ノブザメEが訝しみ、やがては止めさせようとした。「イヤーッ!」『グワーッ!』彼は弾かれた。 32
2023-03-04 15:42:54「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」あるいはオールドカブキチョ。かりそめの平和を取り戻したこの繁華街のあちらこちらでは、今、獄麗のニンジャ達が規則正しくセイケン・ツキを行なっている。ネザークイーン。ワカ。ブライカン。スコーピオン……。 33
2023-03-04 15:45:38「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」あるいはトラノモン付近の路上。キモンの装甲車輌のルーフの上では容赦なきデッカーニンジャのデッドエンドがセイケン・ツキを行い、路上では同行者のニンジャ、ゲッコーとタイトロープがセイケン・ツキしている。 34
2023-03-04 15:51:28『ザリザリ……通信が復旧……応答を!』車載無線機からはノボセ・ムギコの声が聞こえる。キモンはスゴイタカイビルの本部から避難し、現在はカスミガセキ付近に仮オフィスを構えているのだ。『モシモシ?応答……どうしました!?スポイラー=サン!ちょっと!』『イヤーッ!イヤーッ!』35
2023-03-04 15:53:48「イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」あるいはアキバ・チョウの路面店。今まさにショーウインドウを破壊してDJ機材を盗み出したチンピラのニンジャ、ラットバムとノンプリズナーの二人組は、盗みの成果を取り落とし、その場でセイケン・ツキを行なっていた。「イヤーッ!」「イヤーッ!」 36
2023-03-04 15:57:33「イヤーッ!」「イヤーッ!」あるいは地下クラブでの裏取引現場。契約を反故にすべくゲジムト・ヨンダが雇ったニンジャヨージンボのラフデーモンは、奥から現れたニンジャヨージンボのエルドリッチと横に並んでセイケン・ツキを継続する。「イヤーッ!」「イヤーッ!」ゲジムトは無言で失禁する。 37
2023-03-04 16:02:24「イヤーッ!」「イヤーッ!」あるいは安全地帯の一角、仮会議室で卓を挟み、アマテラス社のニンジャエージェントであるエグゾブレイドとヨロシサン・インターナショナルのニンジャエージェントであるクレッセントがセイケン・ツキを行う。「イヤーッ!」「イヤーッ!」卓の上には互いの名刺。 38
2023-03-04 16:06:52「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」あるいは雑居ビルの屋上、それまではザゼンでセイシンテキを保ちネオサイタマの行く末に思い巡らせながらカラテを研ぎ澄ませていた孤高のニンジャ、ゼンマスターは、マルノウチ方角の光を見ながらその場でセイケン・ツキを行なっていた。「イヤーッ!イヤーッ!」39
2023-03-04 16:11:34ゴウランガ……ゴウランガ。今まさに時は満ちたというのか。ネオサイタマに響き渡るのは、同期された間隔で規則正しく放たれる「イヤーッ!」という多重のカラテシャウトであった。フィルギアは立ち尽くし、シナリイは悲しげに眉をひそめ、ギャラルホルンはこめかみを流れ落ちる汗粒を拭って笑った。40
2023-03-04 16:16:37「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
2023-03-04 16:18:03スゴイタカイビル屋上、玉座から立ち上がったアヴァリスは、ネオサイタマに響き渡るカラテシャウトを聴きながら、天上のキンカク・テンプルを見上げた。装束をはだけ、むき出しになった彼の裸の上半身は今、異常なまでの内なるカラテと生命力によって内側から緑に輝いていた。「さあ、来い。獣よ」 42
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