【GENSHIN】砕夢奇珍 琉璃【講談完結】

次回お楽しみに @cha_boshi

皆さんはご存知かな？ 噂では港町のどこかに山石と潮騒に忘れられた場所があるらしい。 海風が吹くところで、目を閉じて街の喧騒に背を向けて四十九歩。 喧騒が遠ざかり心臓の鼓動しか聞こえなくなる。 その時、目を開けると……

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誰かいないか？ 若い男、兪安(ユウアン)は声を掛けて店へ入るとドアが閉まりドアベルが澄んだ音を響かせる。岸辺を打つ波音が思い出の様に微かに聴こえていた。

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細長い店内には、見たことがある様で無いものが所狭しと並んでいる。兪安(ユウアン)は自分が産まれる前から存在していそうな埃が絹布の長衣に付かない様に注意して店内を物色した。 紙の黄ばんだ灯籠、大きな魔獣の長い牙、漆黒の隕鉄に材質不明の黒金色の立体物…

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それは昔、ある魔神の涙から作られた塩なの。 …！！ 兪安(ユウアン)が白い硝子の小瓶を手に取った時、静寂を破り耳元で穏やかな声がした。驚いた兪安は小瓶を取り落としてしまった。 割れる！と身構えるも予想とは裏腹に無音である。

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いつの間にか小瓶を受け止めたキツネの様な目の女店主が棚に戻している。 この男は如何な目的で骨董屋を訪れたのであろうか。 このお話の続きはまたのお楽しみに！

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今日は先に補足しておくよ。 つい手癖で瑠璃にしてしまっているが元は琉璃の表記だよ。どちらも同じ意味ではあるが、変わってしまっていて申し訳ないがこのままいくよ。 宝玉のラピスラズリの事を指すけれども、ここでは古語の硝子の意味で捉えた方が正解だと思うね。もしくは水晶かな。

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兪安(ユウアン)は買い求めたい物があって骨董屋を訪れた様だ。この不思議な骨董屋で男は何を手に入れるのだろうか。 今日も続きをお話しよう。

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私は────── あれ、誰に紹介して貰ったのだったかな？ いらっしゃい。 何か気に入った物や欲しい物はあった？ 店主は微かに頷きつつも兪安の疑問を黙殺して声を掛けた。 彼女への……贈物を探しているんだ。 実は、近々に結婚を考えていてね。だから何か良い物があればと、…。

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この男、求婚の為の贈答品を求めに来た様だ。緊張した面持ちで唇を舐める。そこでつ、と目をやれば男は金色と目が合った。女店主の石珀の様な瞳が兪安を見つめ返してくる。そのまましばらくして… わかったわ と店主は答え、すらりとした姿は店の奥へ消えていった。

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店主が戻ると彼女の手は虹色に輝いている。よく見ると、その手には十面に磨かれた結晶が握られている。 『瑠璃心』の伝説はお客さんも知ってるわね？ 問い掛けに男は知った振りをして頷いた。女店主は続けて語った。

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人の造る瑠璃は所詮は模造品に過ぎないのよ。でも本物は違うわ。 高貴な仙獣が逝去した時、果たされぬ夢への悲嘆から産まれるの。そしてその輝きの中に秘められた光景を見る者に見せるのよ。 ほら、見て…… キツネ目の店主が虹色の結晶をよく見えるように寄せてくる。

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数万年の歳月が男の前を通り過ぎて、星と海と大地が雲のように次々と変化した。 雪原は緑地になり、野原は川に分断された。 蟻の巣のように都市が興り、王国が積み木のように瓦解した───

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────日はとっぷりと暮れている。月が波を照らす中、気が付けば兪安(ユウアン)は埠頭へ足を向けて歩いていた。強く握り締めた手には虹色に輝く結晶が握られている。それは血が通った様な温もりが宿っていた。 そうだ。これはあの瑠璃心だ。 男は思い出した。

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月光の下、男は歩調を早める。 これなら…これを渡せば… 私は…私はきっと… さて、瑠璃心を手に入れた兪安の求婚は如何に！話の続きは、次回お楽しみに！

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瑠璃も玻璃も磨けば光るなどと云う言葉もあるが、虹色に輝く瑠璃なんて見た事も聞いた事もない！ そんな不思議な瑠璃心を手に入れた男、兪安(ユウアン)の婚姻譚がここから始まる…と思いきや、どうにも様子が違うようだ。 今晩も瑠璃心の続きをお話しよう。

次回お楽しみに @cha_boshi

ドアベルが澄んだ音を店内に響かせる。 いらっしゃい。何か気に入った物や欲しい物はある？ ひとつ売りたい物があるんです……宝石なのか分からないんですけれど。 店主が声を掛けると、若い女はおずおずと手にある物を見せてくる。綺麗にカットされた結晶が眩く輝き店内を明るくした。

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私に婚約を迫った人がいて、その人からこれを貰ったんです。中を覗くと不思議な光景が見えるんだよ、なんて言って… でも、どうしてか見ているだけで…なんだか気持ちが悪いんです。宝石は綺麗だけど、あの人から貰った物だと思うとイライラしてしまって。だから手元に置いておきたくなくって…

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店主は瑠璃心を眺めてから女に言葉を返す。 わかったわ。でもこれは高価で綺麗なカットの瑠璃よ。いくらで売りたいのかしら？ 女はまごつきながらも答える。 お金には困っていないので…えっと、これって塩ですよね？そろそろ地中の塩に参拝の時期だからお代はこれでいいです。

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こうして若い女は塩の小瓶を手にして帰り、瑠璃心は小さな骨董屋に再び戻ってきた。一体何がどうなったのか！ それはそれは、また次回のお楽しみに。

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さて、兪安(ユウアン)はもう決まった婚約の記念として贈答品を求めているか、プロポーズの為の贈物を買いに来た様な口振りであったが、後日瑠璃心を売りに来たお嬢さんの言う事と雰囲気がかなり食い違いが見受けられた。 どういう事だったのか。今日はそこの所をお話しようかね。

次回お楽しみに @cha_boshi

全く、貴方を通して醜いものを見てしまったわ。あの男の本心の汚さと言ったらないわよ。 キツネの様な目つきの女店主は一人店の奥で座り、掌で瑠璃を弄ぶ。 結局、あの男の狙いは塩業トップの銀原会への婿入りだったの。あのお嬢さんへの求婚も上へ行く為の卑怯な手段だったってことよ。

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この一件が無ければ或いは、初めに愛情有りきの結婚でなかったとしても割りと何とかなった話なのかもしれないわね。人間ってそういう所あるでしょう？ でも私はああ云う奴って許せないのよね。 酒を一口含んでから店主は自嘲した笑みを浮かべてそう零した。

次回お楽しみに @cha_boshi

見知らぬ人に心の中の真実を見せるなんて簡単よ。一歩店から外へ出れば何の関係もない赤の他人だもの。ちょっと見せた位ではリスクでもなんでもないわ。 逆よ。親しい関係であればある程にその裏側に注意をしなければならない事にあの男は考えが及ばなかったのかしら。

次回お楽しみに @cha_boshi

ごめんなさい、危険な目に遭わせて。 でも戻って来てくれて嬉しいわ。 店主は掌の瑠璃に視線を落として見つめた。 だってこれは貴方が残してくれた心だもの大切にしないとね。……でも偶にはこの世界を旅して今の人間を見るのも面白いと思わない？

次回お楽しみに @cha_boshi

このお話はこれでお終いだ。 銀原会のお嬢さんは瑠璃心を通じて兪安の下心を何となく察して嫌な気分を味わったのだろうね。では、兪安が見たのは誰の真実であろうか。 次のお話もお楽しみに。