【GENSHIN】砕夢奇珍 サファイア【講談完結】

続きが聴ける茶博士劉蘇の二次創作講談。
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次回お楽しみに @cha_boshi

サファイアと云うのは古来よりその色に人々は神秘的なものを感じていた。 紺碧の海の色、神聖なる孔雀の喉の色。魔除けであり、霊薬の源。愛の証であり、不幸の象徴。天から火を盗んだ男が山から得た石。 手に取った者の数だけ物語のある石だ。今日はそのサファイアにまつわる話をしよう。

2023-03-18 20:50:53
次回お楽しみに @cha_boshi

噂によれば町のどこかに風に忘れ去られた場所があるという。 広場の中央で目を閉じて広場を時計回りに七周、反時計回りに七周、そこから前へ四十歩。風の中の小鳥の囀りが聞こえなくなるまで耳をすませる。 目を開けるとそこには小さな骨董屋が見える。

2023-03-18 20:52:23
次回お楽しみに @cha_boshi

キツネの様な目の女店主が窓を開ける。月明かりが空の星屑を集めて散らしたかのように骨董品を置いた棚を照らし出す。 放蕩息子の様に艶やかに咲く花も、埃だらけのバドルドーも、虫食いだらけで古びた読めない本も、弦のない弓もまるで旧貴族のホールの様な冷たい銀光の下だ。

2023-03-18 20:54:40
次回お楽しみに @cha_boshi

よう!最近どうだい? 軽薄な挨拶が店の奥から店主に掛けられた。振り返ると、月光の光が届かぬ薄暗がりによく知った「客」がいる。客人はさり気なく店主が使うソファに寛いでいた。 まあまあよ。でも防犯対策をしなきゃいけないみたいね。 店主は微笑みながら言った。

2023-03-18 20:55:25
次回お楽しみに @cha_boshi

なんだよ。常連さんを追い出すのか? あんたの店には俺に必要な品がねぇんだ。敢えて言うとなんだが… 客人はため息混じりに店主へ返す。 じゃあ獲物は?

2023-03-18 20:56:12
次回お楽しみに @cha_boshi

此度のお客はどうやら大分毛色が違う。客と言いながら品を買う気もない、店主とも顔馴染みのこの男一体何者であろうか? そして店主の言った獲物とは? このお話の続きは次回お楽しみに。

2023-03-18 20:57:35
次回お楽しみに @cha_boshi

不思議な骨董屋のこれまた不思議な店主によく知った顔と言わしめる常連客。この男の望みはなんであろうか。今日も続きをお話しよう。

2023-03-19 20:54:44
次回お楽しみに @cha_boshi

なんだよ。俺が盗品を処分しに来たとでも思ってるか? 男はがっかりと言わんばかりの顔を見せた。店主はそれを見て思わず笑いがこぼれる。 勿論違うわよ。アナタは余り『処分』と云う言葉を使わないから。町で暗躍する義賊として慈悲深い『寄付』をし続けてきた。でしょ?

2023-03-19 20:55:13
次回お楽しみに @cha_boshi

今回はその為に来たんじゃねんだよ。あんたにある物を譲って欲しいんだ……あの悲しみを忘れさせる酒をさ。 男の言葉は軽薄なままであったが、店主を真っ直ぐに見つめ浮かべる笑みは誠実なものだった。 残念ね。もう売約済みなの。

2023-03-19 20:56:06
次回お楽しみに @cha_boshi

男がこっそりと懐へしまったはずの酒瓶を取り返しながら店主は言う。 ここにある物は全部既に買う人が決まっているのよ。未来のある時点でもう買われてしまったの。だから渡すことはできない。 あんたの方が一枚上手だったか。みっともねぇな…

2023-03-19 20:57:01
次回お楽しみに @cha_boshi

ようやく気が付いたんだよ。黄金よりも想いの方が重たいんだってな。だがよ、俺みてぇな因果な仕事をするモンには過ぎたものだ。 苦笑し店主に吐露した男は呟いた。 …サファイアの瞳の貴女もこの重みを感じているんだろうか?

2023-03-19 20:58:19
次回お楽しみに @cha_boshi

義賊の男は想い人が忘れられぬ。義賊とは言えど盗人は盗人である。真に想えばこそ忘れたい。 そんな男のサファイアのお話はまた次回をお楽しみに!

2023-03-19 20:59:12
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、義賊の男は、想いは自分の身分には過分であると考えて叶わぬ悲しさを忘れたかった。しかし、店主は悲しみを忘れさせる酒は未来で買い手が決まっていると断り、男は報われぬ恋を胸に去った。 今夜も続きをお話しよう。

2023-03-20 20:51:04
次回お楽しみに @cha_boshi

チリン。澄んだベルの音で店主は目を醒ました。ドアの方を見遣ると来客者は長槍を携えた魔女である。手に持つ槍の様にキリリとした長身で、その目はサファイアの様なひんやりとした光を湛えている。その相貌には貴族の罪印が刻まれていた。

2023-03-20 20:52:27
次回お楽しみに @cha_boshi

魔女は雑然とした店内に目もくれずに、敵の心臓を貫く剣の如く真っ直ぐに店主の居るカウンターへ向かってきた。 いらっしゃい。何か気に入った物や欲しい物はあったかしら? 物を売りたい。 薄氷の砕けた様なひやりとした声と共に魔女は大きな青い宝石をカウンターへ置いた。

2023-03-20 20:53:10
次回お楽しみに @cha_boshi

とある盗賊が貴族の銀盃からこれを抜き盗った。知らずに私は彼から贈られたが、盗品を所持していたのだ。その所為で我が主人に罰を受ける羽目になった。 しかし、それも数年前の事。時が過ぎれば恨む気持ちも、逢いたい気持ちも消えるものだと思っていた。だが……

2023-03-20 20:54:15
次回お楽しみに @cha_boshi

では、その宝石をいくらで売りたいのかしら? 店主が声を掛けると、魔女は食器棚に目を遣りある物を指差した。店主がつついたサファイアが店内に輝きを散らす。 わかったわ。貴女がそう望むなら…… 魔女は宝石の取り外された銀盃を手に帰って行った。

2023-03-20 20:55:35
次回お楽しみに @cha_boshi

罰を受ける切っ掛けとなった贈り物を、その宝石が付いていた元の品と交換する。魔女の意図は分からないが、お客さんはどの様に感じただろうか。また次回をお楽しみに!

2023-03-20 20:56:32
次回お楽しみに @cha_boshi

さて、すれ違う義賊の男と魔女の物語はまだ続きがある様だ。 もう少し続きをお話しよう。

2023-03-21 20:50:57
次回お楽しみに @cha_boshi

店主はキツネの様な細い目を大きく見開き月光に翳したサファイアにじっと目を凝らして見える旧貴族の記憶を眺めた。 決まった時に澄んだ宝玉を覗き込むと過去、未来或いは人の本性が垣間見えると云う伝承があるのだ。

2023-03-21 20:51:16
次回お楽しみに @cha_boshi

世界のどこかに広大な蒲公英の海があり、空には三つの月が浮かんでいる。月の三姉妹の名は、アリア、ソネット、カノンと云った。だが姉妹は災禍の中で死に別れてしまった。 店主は尚もサファイアへ目を見詰めている。

2023-03-21 20:52:41
次回お楽しみに @cha_boshi

精神が揺らいでしまえば、末路を垣間見て恐怖で心に罅が入る。死はその隙を見逃さず恐怖と共にじっとりと骨の髄まで染み入って心を捕らえるのだ。大抵の場合、死が迎えに来るまで、既に捕らえられている事など終ぞ気付く事は無い。 魔女にはこの生と死の狭間が見えた。彼女の穂先はそこを穿つのだ。

2023-03-21 20:54:21
次回お楽しみに @cha_boshi

魔女は己には無いと思っていた生死の狭間を見た時、終にその命を落とす。その死は誰にも知られる事が無かった。 故郷を棄てた義賊は後悔を胸に再会を望み続けたが叶わぬ望みである。

2023-03-21 21:00:22
次回お楽しみに @cha_boshi

店主には分かっていた。このサファイアを棄ててもこの物語が消えることが無いと。過去を覆す事は出来ないのだと良く分かっているのだから。 ならば、このサファイアと物語は自分の店に収めるべきなのだろう。 このお話はこれでおしまいだ。次のお話もお楽しみに。

2023-03-21 21:00:43