誰かに戦争がいつ始まったかと聞かれたら、私はこの日を思い浮かべるだろう。深海棲艦が出現した日付とか、帝国が参戦を表明した日付とか、"これこれこの時、こういった出来事を経て戦争が始まりました"とか言うのは、歴史書に任せておけば良い。
2023-03-22 00:01:18私の戦争は、同期を沈められ、妹分を殺され、友を失い、仲間と積み上げた何もかもを焼かれたこの日。あいつらをブチ殺してやると誓ったこの瞬間に、始まったのだ。
2023-03-22 00:01:18海軍は本当に何もかもを失っていた。この攻撃で、新編されたばかりの“艦娘による連合艦隊”は1隻残らず撃沈された。なけなしの残存部隊も同じように叩き潰されて、上級司令部が本当の意味で期待していた"次の連合艦隊"は、横須賀に来たのとは別の部隊の攻撃によって造船所と共に鉄屑と成り果てていた。
2023-03-22 00:04:39即座に回復できる戦力は艦娘しかないが、しかしその艦娘にしても、なんとなくいい感じに動かす以上の方針を出すことは出来なかった。
2023-03-22 00:05:04運用実績を積み重ねつつあった横須賀司令部は壊滅した。その働きを引き継ごうにも、ようやく体系化され始めた技術を書いた文書のあれこれは庁舎と一緒に焼けてしまったし、経験の多くを蓄えていた二期生の艦娘は横須賀湾に沈んでしまった。
2023-03-22 00:05:58それでも上級司令部は戦力の立て直しと、それ以上に早急な反撃の実施を望んだ。とにかく海軍が反撃することで、人類はまだ戦えると国民示す必要があったのだ。そうやって希望を示して厭戦気分をはらわなければ、帝国はこれ以上戦い続けることは出来ないというのが、政府と軍部の共通した認識だった。
2023-03-22 00:06:56これが人類同士の戦争だったなら、まだ降伏するという選択肢もあったろう。しかし深海棲艦が相手では、戦いをやめるなら滅亡する他にない。だからこそ、国内に絶望が蔓延るのをなんとしても防ぐ必要があった。
2023-03-22 00:07:21私達は取り敢えず動かせる艦娘を用意するために、残っていた艤装と予備部品を集めることにした。あらゆるリソースは集中することになっていたが、まだ届いていなかったからだ。
2023-03-22 00:09:03艦隊を再建するためのリソース……つまり資材や工員は、新しく用意してもらっているところだ。それが届いたら部品を作って、ようやく艤装の建造が始められる。
2023-03-22 00:09:03建造が始まれば、数日のうちに一個戦隊は揃うだろう。それだって従来の常識からしたら信じがたい速度なのだが、そうやってゆっくり艦隊が再建されるのを待てる余裕はない。
2023-03-22 00:09:04たった1隻でもいいから、今すぐ使える戦力が必要だった。それを新しい指揮官に渡して、急いで部隊を編成して出撃させ、深海棲艦を斥候でもなんでもいいから撃破しなければならない。
2023-03-22 00:09:05巡洋艦娘や工作艦娘のような数の少ない艦娘は、予備部品も少ないのですぐに戦力化することは出来ない。基地の立て直しを待つ必要がある。
2023-03-22 00:09:35オペレーターが生きていて、かつ根幹部品の損傷が最も少ない艤装を選抜した。選ばれたのは駆逐艦娘〈吹雪〉、〈叢雲〉、〈漣〉、〈雷〉、〈五月雨〉の5隻。このうちのどれか1隻ならば、すぐに建造できるだろうと思われた。
2023-03-22 00:10:35誰がその1隻になるかは、自分たちでは決められなかった。5人が5人とも譲らなかったのだ。誰もが深海棲艦へ反撃する、最初の1隻になることを望んだ。
2023-03-22 00:10:57最終的に着任することになる指揮官に選ばせることでようやく皆が納得した。それもまた、着任する指揮官が新任の少尉と決まったことで一波乱起きるが、艦隊の体裁を整える作業に比べれば些細なことだ。
2023-03-22 00:11:25選ばれた幸運な1隻の艤装は則座に建造された。彼女は新しい指揮官が着任するまでの間、新造された艤装の慣らしに努めた。残ったほとんど、艤装のない手すきの者たちは、当面の間の支援要員としてサポート態勢を整えることに努めた。
2023-03-22 00:12:09客観的に言って私達は敗残兵だったが、士気は最高だった。たった1隻の艦娘からなる艦隊……だが、ここから人類の反撃が始まるのだ。
2023-03-22 00:12:30提督着任を報告する栄誉は、〈吹雪〉があずかった。彼女は喜びを隠そうともせずに、私達の戦争(ゲーム)を開始(スタート)する口上を述べた。
2023-03-22 00:12:57