ビースト・オブ・マッポーカリプス 後編 #5

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「命の不調和」風と散るインヴィンシブルの傍らに屈んで呟くユカノは、悲しげだった。「オシリス・コアとやら。義肢の延長たる通常のサイバネティクスとは異質な、どこか邪なアトモスフィアを感じる。そしてその命の齟齬を、命を助けるチャドーによって拡大し、引き裂いた私もまた、罪深き行いを」　20

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「オヌシは、すべき事をした」フジキドは低く言った。肩に置かれた彼の手に、ユカノは触れた。「インヴィンシブルは、かつての名を名乗りませんでした。しかし、その巧みなるムテキ・アティチュード……。不完全な私の記憶の水面（みなも）に引き上げきれぬ、かつてありし面影を感ずるのです」　21

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「……長く生きていれば、それぞれがそれぞれに変化する。だけど結局、それが不本意か納得ずくかは、他者の知るところではないわね」腕組みして言ったナンシーの今の外見は、実際、少女めいてうら若い。その奇妙なさまが、ユカノには慰めとなった。「そうですね」彼女は頷き、感傷を受け入れた。 22

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「ゆくぞ」フジキドが促した。ナンシーは隔壁に近づき、LAN直結した。ガゴン。重い隔壁が音を立て、スライドする。こうして直接触れば、解除は容易い。そしてこのようにしてエネアドのメインフレームをも掌握する必要がある。もはや彼らの歩みは目的地に極めて近い。三人は闇を昇る階段を見上げた。 23

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「「「……なんと」」」上方の闇から声が響いてきた。「「「我がもとまで参りしか」」」ナンシーはこめかみを押さえた。電子的ノイズを生ずる声。「「「これほどまでにカラテを充実させながら、あくまでダークカラテエンパイアに楯突き、セト神の御心煩わせるばかりとは、実際遺憾の極み……」」」　24

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彼らは階段を駆け上がった。そこには……おお……セトとサソリの紋章を掲げた装飾的な壁を背に、金のカンオケが立っていた。『だが、ならば相手するに吝かでなし』「ナンシー＝サン。下がれ」フジキドとユカノはカラテを構えた。警戒と共に見守る中、黄金のカンオケの蓋が開き、足元を瘴気が流れた。25

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ズシリ。ズシリ。重い金の鎧を鳴らし、中から丈高いニンジャが姿を現した。瘴気は広間を渦巻き、質量じみて凝集し、黒い色彩を濃くしてゆく。やがてそれは一振りの大鎌の形をとり、ニンジャの掲げた手に収まった。「ドーモ」ニンジャは死神めいた鎌を振り、アイサツした。「デスウイングです」　26

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◆◆◆ 27

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「ハアーッ……」「ハアーッ……」「ハアーッ……ハアーッ」「ハアーッ……ハアーッ」マルノウチ・スゴイタカイビル屋上。粉塵が拡散し、四つのシャチホコ・ガーゴイルの影が、そして二人のニンジャの姿が再びあらわとなった。対峙する二者は同時に起き上がり、よろめき、同時にカラテを構えた。　28

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ニンジャスレイヤーはアヴァリスを見据えた。魔人は笑っていた。沸騰する肉体の数箇所……たとえば右胸、あるいは左脇腹、あるいは左大腿部に、溶岩のような赤い光を発する亀裂が刻まれている。赤い光の脈動は、ニンジャスレイヤーの鼓動と同期している。ネオサイタマ各地のオリガミの微振動とも。　29

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アヴァリスは胸の亀裂箇所を掻きむしり、抉った。緑黒色の血が噴き出し、足元に落ちて、煙をあげた。キンカク・テンプルの輝きの下、アヴァリスの傷口は激しく沸き立ち、見る間に癒えていった。「……」ニンジャスレイヤーはじっと見つめる。えぐれた傷が癒えようとも、赤黒い亀裂はそのままだ。　30

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「どうだ。気分は」ニンジャスレイヤーは挑発的に言った。アヴァリスは殺気溢れる笑みで答えた。「最高だとも！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」二者は再びぶつかりあった！短打応酬！「イヤーッ！」「イヤーッ！」「イヤーッ！」「……イヤーッ！」アシッドクラフト・ジツ！酸の凝縮短刀が閃く！　31

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「イヤーッ！」KRAACK！ニンジャスレイヤーは咄嗟にブレーサーで酸の短刀を殴りつけた。そして反動を利用し、後ろに転がった。割れた短刀がたちまち酸の霧と化して広がった後、幾つものダーツとなって追撃する！「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーはヌンチャクをイアイめいて振り抜き、撃墜！　32

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だがこの隙にアヴァリスは八芒星を手元に出現させ、枝分かれした星からジツを選び取っている。ニンジャスレイヤーは眉根を寄せる。どうでもいい。重要なのは、八芒星の幾つかが既に潰えている事だ。潰えた八芒星からジツが選択される事はない。「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーは飛び出した！　33

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「イヤーッ！」アヴァリスは迎え撃った！地面がコンクリート色の飛沫をあげ、そこから無数のトビウオが跳ね上がった。(((これは！トビウオ・ジツか！)))ナラクが唸った。トビウオは羽ばたき、加速して、銃弾めいてニンジャスレイヤーを襲う！「イヤーッ！」身体を撚る！方向転換！マフラー布一閃！　34

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赤黒い炎の帯の軌跡が殺人トビウオを爆ぜ潰し、その回転のままにニンジャスレイヤーは蹴りを叩きつけた。メイアルーアジコンパッソだ！「イヤーッ！」「イヤーッ！」アヴァリスは無雑作にこれを防御。打撃は重く、その巨躯は足元を刳りながら後ろに滑った。「ならばこれだ！」突き出す腕が蛇と化す！35

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「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーはのたうつ蛇に真っ向から跳躍し、頭に鉤爪を突き立て、叩きつけた。(((これはダイジャ・バイト・ジツ！ヘビニンジャ・クランは修練の過程でその体躯を蛇そのものと化さしめたものよ。何するものぞ！これで腕は封じた！)))「イヤーッ！」蛇の背を裂きながら接近！　36

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「そう来るだろうな！」アヴァリスは笑い、ただちに蛇の根本たる左腕を右手で切断した。ニンジャスレイヤーはバランスを崩した。アヴァリスの左腕にはすぐさま新たな腕が生えた。クロヤギの力だ！「イヤーッ！」「グワーッ！」殴り飛ばされるニンジャスレイヤー！吹き飛びながら手をかざす！　37

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掌が裂け、炎の舌が飛び出す。ナラクのフックロープだ！殴り終えたばかりのアヴァリスの腕にロープが絡みついたかと思うと、一瞬後にはニンジャスレイヤーがアヴァリスの肩口に高速回転接近していた！「イヤーッ！」回転踵落とし！肩を裂き下ろし、胸を抉る！「グワーッ！」　38

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アヴァリスは目を見開き、苦痛に叫んだ。ニンジャスレイヤーの背後頭上、虚空にねじれが生じ、その中から半透明の異様な足が落ちてきた。KRAASH！恐るべきストンピングからコンマ１秒差で転がり逃れたニンジャスレイヤーは、そのまま間合いを取り、深く呼吸し、心臓に炎を送り込んだ。「スウーッ！」39

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(((なんとな！ダイダラ・ジツか。オヒガンに囚われし幽巨人の肉体を限定的に召喚するジツだ。まだ来るぞ！)))「イヤーッ！」ニンジャスレイヤーの真横の区間がねじれ、巨大な拳が叩きつけられる！「イヤーッ！」KRAAASH！ニンジャスレイヤーはヌンチャクを盾にこれを受ける！そこへアヴァリス！　40

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「イヤーッ！」チョップがニンジャスレイヤーの肩甲骨から腰にかけてを断ち割るビジョンがニューロンを駆け巡り、ナラクの警告が反響した。(((バーニングハンド・ジツだ！瞬間的に極高温化したチョップは防御してはならぬ！)))煮凝った時間が加速！ニンジャスレイヤーは……強引に攻撃した！　41

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「イヤーッ！」「グワーッ！」咄嗟の動きだった。巨大拳に弾かれた斜め後方から襲われたニンジャスレイヤーは、敢えて衝撃を殺さず、そのまま肩から背中にかけてをアヴァリスに叩きつけた……暗黒カラテ技、ボディチェックだ！バーニングハンドが届くより早く、背中の質量はアヴァリスを打った！　42

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(((まずはよし！受けておればオヌシは腕ごと両断されブザマに死んでおった。だがこのボディチェックでは仕留められぬ。苦し紛れの域を出ぬぞ、マスラダ！カラテ研ぎ澄ませよ！)))「黙れナラク……！」ニンジャスレイヤーは前傾する。アヴァリスは踏みとどまり、両手を広げる！　43

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アヴァリスの胸の亀裂は漏れ出る光の濃さを増し、アヴァリスを苛んでいた。ニンジャスレイヤーは注意深く観察する。先程の踵落としだ。あれが深く入った。アヴァリスは再び八芒星を生じ、ジツを呼び出す。だが、見よ。星は更に潰えている。今や有効な頂点数は５。亀裂にカラテを当て、広げるのだ！　44