【ビースト・オブ・マッポーカリプス後編】#7-3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

放送はすぐに途切れたが、これが意味する事は……「外との隔絶が解消された？」リバティは呟き、コトブキを見た。彼らは今、高級百貨店フロアに居た。ラグジュアリー服姿のコトブキはLANネットワーク環境をスキャンした。「その可能性があります。時間の流れも外と噛み合った可能性が高いです」 88

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ショーウインドー越しに、二人は再度見る。高級百貨店フロアは天井が高く、中央は吹き抜け構造だ。彼らが今いるブティックの隣はオイランドロイド展示場。エメツクラフト技術を採用したデザイナーズ自動車や富裕層向けVR機器のショウルームも並ぶ。だが、それらは今、植物の蔦の侵食を受けていた。　89

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ぼんやりとした外の景色が見えていた窓は黒く塞がれ、壁には緑の血管じみた葉脈が走っている。黒黒とした木の根が、エアダクトを破っている。「重大な変化が起きています。ニンジャスレイヤー＝サンがなにか働きかけた結果かも知れません」コトブキは言った。「いよいよ我々の戦いも大詰めです」　90

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スゴイタカイビルの地下大空洞には神秘の「ギンカク」があった。ティアマトとエネアド社の手によってそこに設置されていた茶器ヒラグモに、コトブキとリバティは決死の仕掛けを行った。タンモノ・オブ・コンシーリングの透明化でティアマトを出し抜き、茶器にLAN直結を行うことに成功したのだ。　91

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然り。茶器ヒラグモは事前にフジキドとナンシー・リンが得た情報通り、オンライン接続のスマート機能がもたされていた。セトはヒラグモを核として、カリュドーンの儀式が生み出す力を電子的に搾取するシステムを構築しているのだ。コトブキは直接ヒラグモに触れることで、バックドアを作成した。　92

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儀式の力がヒラグモに流れ込むのだから、ヒラグモにバックドアを作っておけば、ナンシーはこれを頼りにハッキングを行い、ネットワークを逆向きに遡って、儀式そのものを掌握する事も可能となる……理論的には。後はナンシーのタイピング速度、ハッキング地点、そして天運、否、キアイ次第だ。　93

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ティアマトが仕掛けに気づくかどうかも賭けだ。二人はカモフラージュの為に、ヒラグモにC4爆弾を設置した。ティアマトは今、かなりのエマージェント状態だ。出し抜かれた事に気分を害し、儀式の進行も大詰めだ。爆弾設置に気づけば飛びつく。敢えてその先のLAN直結を疑う可能性は低いと思えた。 94

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「コトブキ＝サン。背中の怪我は大丈夫ですか。ティアマトの攻撃が……」「その為に、背中が空いていないデザインを選びました」コトブキはすました顔で言った。「お洒落キマっていますか？いざとなればわたし、マネキンに擬態出来ます。ピクリとも動かず、奇襲できます」「そういう事ではなく……」95

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言葉の途中でリバティが息を呑んだ。がばと振り返った視線の先、黒いトリイが店内に建っていた。「イ…」「イヤーッ！」「グワーッ！」リバティの咄嗟のクロスガードは、トリイの中から飛び出してきた蹴りを受け、店内オブジェを破砕して壁まで飛ばされた！ティアマトが店内に回転着地！ナムサン！　96

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現れた時と同様、トリイはティアマトの背後で唐突に消滅した。「ンンーンン……」猫めいて伸びをしながら、彼女は凄惨な殺戮欲求の目でリバティを見た。「アヴァリスめ。上で何をしたか知らぬが、この塔のネットワーク復旧はそう悪い事でも無いようじゃ。ネズミの居場所が容易にわかるゆえ」　97

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「貴様自らが探しに現れるとは、余程手下に自信がないのだな」リバティは打撲した手首を押さえた。ティアマトは皮肉で受ける事をしなかった。「然り」彼女はツカツカと近づきながら答えた。「外も騒がしくなってきおったわ。愚かな者どもが、ボンボリに群がる蛾めいて集まってきおる」「外？」　98

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『0100』応じるように店外吹き抜けエリアの不安定なネットワーク液晶モニタが復旧し、NSTVの中継が続いた。『ニンジャ！ニンジャナンデ！金色です、スゴイタカイビルと、それを取り囲むメガコーポ車輌群！草原では金色の……人？ニンジャ？暴徒……？何でしょう？殴り合いと殺し合いをしています！』99

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「妾は挑発に慣れておらぬ。皆、妾の従僕となるゆえに。それゆえ気が短いのじゃ」ティアマトはリバティに近づく。「ヒラグモを弄び、妾の気分を害するまでは良かったの。だがあの程度で儀式を妨げられるとでも思うたか？」「フン。爆発を見破る程度の現代的知識はあったか……」「イヤーッ！」 100

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鋭利なチョップがリバティの肩を砕いた。リバティは当然、ティアマトの攻撃に応じようとしていた。だがティアマトの憤怒のカラテ速度は凄まじいものだった。腰帯に吊るした懐剣を逆手に抜いて斬りかかった筈のリバティには、右鎖骨から肺の上付近まで、彼女の手が埋め込まれていた。「グワーッ！」101

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「妾は、気が、短いのじゃ！」邪悪なドラゴンの目が狂おしく燃え、殺意が溢れた！まだだ！リバティは腰の後ろで懐剣を左に持ち替え、ティアマトの脇腹を突き刺す！「イヤーッ！」「イヤーッ！」ティアマトは逆の手でリバティの腕を抱え、チキン・ウイングめいて、折った！「グワーッ！」　102

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「ンンンンー……！」怒りと喜悦がないまぜになった目を細め、ティアマトはリバティを見下ろした。そのままカイシャクする事もできたかもしれない。だが、解放した。そして彼女はくるりと後ろを振り返り……それまでマネキンに擬態していたコトブキの決死の奇襲を、嬉々として、迎え入れた。　103

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◆◆◆ 104

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『御覧ください！マルノウチ・スゴイタカイビル前広場は謎の草原です！そこに展開している企業軍……あの社章は、エ、エネアド社ではないでしょうか？複数の情報筋に現在確認を取っております！では黄金のニンジャは一体！？KATANA治安部隊もいます！ア……』スリケンの流れ弾がカメラを壊した。　105

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「……」イスハークはスシをゆっくりと咀嚼し、ナフキンで口を拭った。「さて……私が言いたい事はわかっているな」部屋の隅では、エネアド・サラリマンが震えながらドゲザを継続していた。「わかっているなら、現場をよぅく躾けておきなさいッ！」「絶対にはい！」106

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「私も当然、後でNSTV重役の尻を叩く！しかし今はまたオンライン会議の呼び出しだ。忌々しいよ本当に。ヨロシサンだのKOLだの。バカバカしいボンクラCEOどもです。とにかく、そっちを優先する必要があります。よしなにやっておけ！」「絶対にはい！」107

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イスハークが足早に部屋を出てゆくと、エネアドマンは無言で床を殴りつけて立ち上がり、走るように廊下を進んで、エレベーターホールに立った。彼はイライラと携帯端末を取り出し、エネアド専用回線を用いて特権的LAN通信を行った。「おいコラ！早く出ろモシモシ！」相手はNSTVプロデューサーだ。108

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『モシモシ。ドーモ、パワキ＝サン。こちらミドミケですよ』NSTVプロデューサーが不機嫌そうに応じた。「言いたいことはわかっているな」エネアドマン、パワキは上司の叱責を真似た。「色々とやってくれやがって。情報統制しろと言ったのに、何だ今の中継は」『チッ。現場が先走ってンですよ』　109

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「先走ってるで済むのはヤルキだけだ！」『ヘリが墜落して予算が大変なのはウチですよ？身銭切ってるのに、どうして死体に鞭打つような言葉をかけてくるんですか。奥ゆかしくない。これだからエネアドは』「反抗的だな」パワキの声が物騒になった。「やはり貴様らがやったのか」『え？何です？』110

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「しらばっくれるな。……アサシンだ」『アサシン……？』ミドミケの声のトーンが落ちた。パワキは勢いづいた。内内で詳細を調査している件だが、こうなれば直接事実を突きつけ、優位に立つべし。「先刻、弊社にアサシンを送ってきたのは貴様らか。特派員を装って」『何！？』「現場は大混乱だ！」111

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『エッ？何？特ダネ！？』「貴様らがやっているんだろう！白々しいぞ！言っておくが、事態はすぐに終息する！エネアドは無敵のセキュリティを持っている！社に入り込んだ連中はもうすぐ……」「パワキ部長！パワキ＝サン！大変です！」UNIXルームから社員が飛び出してきて、会話を遮った。　112