ダルタニャン

三銃士
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エリザ @elizabeth_munh

ダルタニャンは成り上がりのブルジョワの次男あるいは四男として生まれる。何れにしても彼は家の財産を相続できる立場になく、自立を余儀なくされる。尚武の地ガスコーニュは昔からフランスの兵力策源地であり、ダルタニャンのような男はパリを目指して軍人になるものと相場が決まっていた。

2023-05-20 05:06:39
エリザ @elizabeth_munh

この際、父の姓であるド・バッツではなく母の旧姓であるダルタニャンを彼は選択する。 と言うのも母方の祖父ジャン・ダルタニャンが近衛歩兵隊で旗手をやっていた事があり、軍人としてやって行くなら地方の小金持ちド・バッツよりも通りがよかったからだった。 こうしてダルタニャン物語は幕を切る。

2023-05-20 05:09:24
エリザ @elizabeth_munh

「どうせ軍人をやるのならば、下っ端では終わりたくない」 多くのガスコンがそうであるように、ダルタニャンは野心を胸にパリに上京する。目指すは近衛銃士隊への入隊だった。 当時国王の近衛隊は国王護衛隊、スイス衛兵隊、そして近衛銃士隊がそれぞれ受け持つ。 pic.twitter.com/yKCts8EM3b

2023-05-20 05:13:49
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エリザ @elizabeth_munh

しかし国王護衛隊はやる気のない高位貴族の子弟で占められるぼんくら部隊で、スイス衛兵隊はガチの護衛だけどスイス傭兵しかなれない。 一方、銃士隊は近衛でありつつ攻撃的な任務にも投入され、下級貴族やそれこそガスコンにも門戸を開く、危険ではあるものの花形の部隊だった。

2023-05-20 05:17:26
エリザ @elizabeth_munh

銃士と言う名が示す通り、彼らは当時の最新兵器である銃を自在に扱う一方、騎士のように馬上にあって剣をふるい、時には歩兵としても戦う万能の精鋭である事が求められた。 精鋭であるが故にいきなり銃士隊には入れない。先ずは一般部隊でダルタニャンはキャリアを積まねばならなかった。

2023-05-20 05:20:22
エリザ @elizabeth_munh

1640年、ダルタニャンはフランス近衛歩兵連隊に入隊する。同連隊で旗手をやってた祖父のコネが効いたのは言うまでもない。そしてそのまま4年の軍歴を重ねた。 当時フランスは戦争続きであり、同連隊も幾つもの実戦を経験する。記録はないものの、ダルタニャンは恐らくこれらに関わった。

2023-05-20 05:24:16
エリザ @elizabeth_munh

1644年、ダルタニャンはパトロンを得る。幼王ルイ14世の摂政、マザラン枢機卿だった。 何故マザランがダルタニャンを手元に置いたのかは分からないけど、単純に能力が高くて忠誠心が高いところを評価したのでしょう。これは後々証明される。 マザランの引き立てでダルタニャンは銃士隊入りする。 pic.twitter.com/lv4a7Ru1wn

2023-05-20 05:28:29
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エリザ @elizabeth_munh

ところが血気盛んな銃士隊内部では当時流行の決闘沙汰が絶えず、持て余したマザランは2年後に銃士隊を解体してしまう 銃士隊の存在はある程度政治的で伝統的に軍役を担ってきた貴族層からすると、実力主義の国王近衛隊と言うのは煙たい。その銃士隊が不品行をやるとなるとマザランも庇いきれなかった

2023-05-20 05:31:31
エリザ @elizabeth_munh

「折角のキャリアが……」 憧れの銃士隊が入った途端解体されたのでダルタニャンは失意に暮れる。とは言えマザランもダルタニャンには依然期待していた。 「以後は私の元で働いてくれ。それに銃士隊の解体も本意ではない。いずれキミには報いるつもりだ」

2023-05-20 05:34:16
エリザ @elizabeth_munh

こうしてダルタニャンはマザランの元で働き始める。その役割は密偵だった。 フランスは激動の時代を迎えていた。国王は幼く、隣国ドイツでの30年戦争への介入で国庫は空っぽ、庶民には重税がのしかかり、加えて先代の宰相リシュリュー以来の中央集権政策をマザランは引き継ぎ地方貴族は不満を募らせる

2023-05-20 05:37:56
エリザ @elizabeth_munh

フランスを真っ二つに割る内乱、フロンドの乱が始まっていた。国王たるルイ14世ですら生きた心地がせず、あちこちを転々と逃げ回る。 ダルタニャンはそんな中、マザランのメッセージを各地の味方に届けて回る重要な役割を担った。 「危険だが信頼の証だ! 命に代えても遂行するぞ!」

2023-05-20 05:40:45
エリザ @elizabeth_munh

「見込んだ通りの若者だ。今は耐えて欲しい」 マザランはダルタニャンへの信頼を深める。 「誰を信じたらいいか分からない中、ダルタニャンだけは信じられる」 幼いルイ14世はダルタニャンに尊敬の念を抱いた。戦場で剣をふるうわけではない。どちらかと言えば日陰の仕事に従事するダルタニャン。

2023-05-20 05:43:40
エリザ @elizabeth_munh

しかしその忠誠心と実直な仕事ぶりは、フランスのトップとナンバーツーから熱い視線を注がれていた。 「これで奮起しなければ、ガスコンではない!」 ダルタニャンは見事に期待に応える。政変でマザランが亡命を余儀なくされた時も彼に付き従い、ダルタニャンは強固な信頼を築いた。

2023-05-20 05:46:54
エリザ @elizabeth_munh

フロンドの乱を終えて1657年、復権したマザランは銃士隊を再建することにした。地方貴族に依存する事のない国王の常備軍。その中核たるフランス最強のエリート部隊として銃士隊は今や政治的にも欲される。 マザランは銃士隊の隊長に親族を配置した。しかし当の本人は軍事的素養などない。

2023-05-20 05:50:38
エリザ @elizabeth_munh

「格式の関係から隊長は貴族だが、ダルタニャン、実際の指揮はお前のものだ」 マザランはダルタニャンの忠義と功績に遂に報いた。 「隊長代理と言う名目だが、誰が見たってお前が銃士隊長だ。これからも頼むぞ、銃士隊長ダルタニャン!」 田舎のガスコンは遂に近衛隊長になった。

2023-05-20 05:53:05
エリザ @elizabeth_munh

一介の密偵から銃士隊長代理に昇進したダルタニャンは社会的地位を上昇させ、この頃、富裕な未亡人と結婚し、二人の子供を儲けた。子供達はそれぞれ国王に敬意を表してルイと名付けられる ガスコンの貧乏次男のダルタニャンは地位に相応しい資金を得るものの、軍務優先が祟り、仲はあまり良くなかった

2023-05-20 05:56:47
エリザ @elizabeth_munh

1661年、マザランが亡くなる。銃士隊はルイ14世の指揮下となった。 元よりダルタニャンを深く信頼するルイ14世は変わらずダルタニャンに銃士隊の指揮を任せた。 「これより銃士隊の名目上の隊長は余が引き受ける事となる。ダルタニャン、貴公は国王代理だ。これからも励むように」

2023-05-20 05:59:26
エリザ @elizabeth_munh

しかし、国王からの信頼を得ると言う事は、デリケートな任務をも任されると言うことでもある。 若き国王ルイ14世はマザランの後で権勢を誇る大蔵大臣、フーケと政治的対立を深めていた。 親政を志向するルイ14世は遂にフーケ排除を決意する。 twitter.com/elizabeth_munh…

2023-05-20 06:03:36
エリザ @elizabeth_munh

革命前、旧体制(アンシャン・レジーム)下のフランスは厳格な身分社会で、平民が一代で成り上がるのはとても難しかった。 しかし、唯一、完全な実力主義が貫かれていた世界がある。それが料理人。身分が高くても、お金があっても、コネがあっても、舌は誤魔化せない。

2022-08-06 17:42:39
エリザ @elizabeth_munh

フーケは自分の立場の危うさを理解しており、普段から周囲に味方を作り、国王であろうとも容易には手を出せないようにしていた。 並の人間では懐柔される可能性がある。 「ダルタニャン、行ってくれるか?」 「仰せのままに」 鋼鉄の忠臣、ダルタニャンは汚れ仕事を躊躇なく引き受けた。

2023-05-20 06:05:30
エリザ @elizabeth_munh

国王を懐柔するための豪華な宴席のあと、不意打ちでダルタニャンはフーケを逮捕する。如何な弁舌も彼には効かなかった。 そうしてダルタニャンはフーケを馬車で護送する。そんな中、フーケの家族が進路に現れた。今生の別れになるのを覚悟で、最後に会いにきたのだった。

2023-05-20 06:08:32
エリザ @elizabeth_munh

「速度を落とせ」 ダルタニャンは静かに命じる。 「宜しいのですか? 陛下からは、馬車は決して止めるなと厳命が……」 それでもダルタニャンは首を振った。 「止めはしない。だが、速度を落とせ。命令の範疇だ。勿論陛下には俺が報告する」 フーケは家族と別れを済ませることができた。

2023-05-20 06:11:07
エリザ @elizabeth_munh

ルイ14世はこの件に関して何も言わなかった。ダルタニャンはその後もフーケの世話を担当し、やがて個人的な友人同士となる。 ダルタニャンはヴェルサイユ宮殿に常駐を許され、名目的に狩猟長官の役を授かり、年金を得る。今や彼は貴族にも等しく、ダルタニャン伯爵を自称した。

2023-05-20 06:13:56
エリザ @elizabeth_munh

ルイ14世からの信頼は止むことなく、フーケの後にも汚れ仕事に従事し、これを全うする。 ただ、行政官としての才能はなく、リール総督に任じられた際にはお願いだから前線に戻してくれと嘆願書を送った。 「軍人以外はできないんですよ……」 「確かに、貴公はそう言うやつだ」

2023-05-20 06:16:33
エリザ @elizabeth_munh

1673年、ダルタニャンはオランダとの戦いに投入される。当時としては老齢で、もう60近くになっていた。 この戦争はイギリス軍との合同作戦で、マーストリヒト包囲戦にダルタニャンは加わる。イギリスの将軍とダルタニャンは前線で会議をしていた。 その時、砲火が煌めく。

2023-05-20 06:19:37
エリザ @elizabeth_munh

ダルタニャンは反射的に同盟国の将軍を庇い、砲弾の直撃を受けて戦死した。彼は最期まで国王の代理人として、同盟国の高位者を自らの上に置いたのだった。 「ダルタニャンが死んだだと!?」 ルイ14世は愕然とする。銃士隊も悲嘆に暮れた。 「そうか、あいつは最期まであいつらしい姿を……」

2023-05-20 06:23:04