ブオン。ブオン。セトの腕が唸る。サツバツナイトが横に歩を動かす。翳した左手はそれに合わせ僅かずつ動く。残像が漏れ出て、唸りながら後を追う。「イ……」時間が圧縮し、サツバツナイトの殺気の迸りを、セトは肌で感じ取った。「ヤ…」セトは翳した左手を下ろし、サツバツナイトの額を押さえた。18
2023-05-20 15:43:07残像がサツバツナイトの顔面と胸に短打を打ち込んでいた。「イヤーッ!」「グワーッ!」サツバツナイトは爆発四散しなかった。チャドー呼吸を体内に循環させてセトのカラテに耐えたか。彼は膝に力を込め、セトの脇腹に拳を突き刺しそうとした。セトは右手を下ろし、添えるように拳をずらした。 19
2023-05-20 15:45:44ブオン。ボ。ボボ。空気が震動した。セトはサツバツナイトの拳を押さえた手を残像として残しながら、眉間を狙った。「イヤーッ!」セトが突き出した拳は中指と人差し指を長く握り、眉間を撃ち抜く形だ。サツバツナイトは上体を反らせて拳をかろうじて避けた。次の瞬間、セトの指の形は手刀となった。20
2023-05-20 15:49:16僅かにリーチが伸びる。顔面を剥がし飛ばす威力だ。サツバツナイトは後ろへ倒れ込むように動き、二段構えのコンパクトな致命カラテを躱していた。躱しながら、逆さ蹴りを繰り出した。「イ……」ボ。ボ。セトは残像を伴うガードで脚を弾き、「ヤ……」踏み込みながら、前蹴りで応じた。「イヤーッ!」21
2023-05-20 15:51:58「グワーッ!」容赦なき前蹴りがサツバツナイトを吹き飛ばし、黒い壁に背から衝突せしめた。セトは古代エジプトサンチンの構えを経由して再び基本のカタに戻った。ブオン。ボ。ボボ。ボ。残像が空気をきしらせる音は蝗の羽音にも似る。「防いでおるか。成る程」セトは呟いた。サツバツナイトは無事!22
2023-05-20 15:56:47ジュー・ジツを構えるサツバツナイトを、セトは油断なく観察する。「我がガーディアンを破り、この場所へ至りし事実は決して軽視できぬ。軽視するつもりもない」「スウーッ。ハアーッ」サツバツナイトは呼吸を深める。セトの眼力は、この黒いニンジャの体内を駆け巡る力を読み取る。 23
2023-05-20 16:02:48再び時間は圧縮された。動きの兆しをセトは見張る。……その時、背後の黒いデスク上に、再びホロ映像が点った。エネアド社の株価チャートだ。急激な動きがあった際に表示する設定が行われているのだ。謎めいた急転直下、急反発、さらに下落している。また別の映像が点った。電子攻撃アラート。 24
2023-05-20 16:05:37「フン……」セトは息を吐いた。「イヤーッ!」サツバツナイトがカラテを繰り出した。瞬間的な二連打。しかもイアイめいて、実際の腕リーチよりも衝撃波が遠く届く。セトは内から外へ腕を回し、衝撃波を弾き逸らした。衝撃波がもたらす腕の痺れを残像に任せ、三打目を受けた。奇妙な感覚だ。 25
2023-05-20 16:08:35「イヤーッ!」サツバツナイトが向かってくる。セトは高速思考する。肉体を伝わる衝撃余波が痺れを生み出し、全身に波及し、身体パフォーマンスを落としてくる。厄介だ。チョップが襲い来た。セトは腕を翳して受けながら、壁画めいた白い線画分身を放ち、電子アラートに対処させる。妙な挙動だ。 26
2023-05-20 16:11:57他の暗黒メガコーポ同様、エネアドは高頻度で電子的攻撃を受ける。セトはしばしば遊んでやる事もある。エネアドの本社ネットワークに外部から侵入した者はピラミッドの電子幻影を脳に焼き付け、無惨な死を遂げるのだ。だがこのタイミングで、しかも……攻撃の種類は「制裁的攻撃」? 27
2023-05-20 16:15:25「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」セトはサツバツナイトの攻撃を撫でるように打ち払い、短打を返した。「グワーッ!」打撃を受け、床を滑って後退するサツバツナイト。セトは複数の線画分身を吐き出し、アラートに対処する。制裁的攻撃の主は「暗黒メガコーポ連合」!「何だと……?」 28
2023-05-20 16:18:25ブブン。さらに複数のホロモニタが出現した。エネアドNS支社の監視カメラは、廊下で殴り合うキモン隊員とエネアド警備兵の醜い争いを映している。そしてマルノウチ・スゴイタカイビル前の草原では、キンカクの影響を強く受けたエネアド兵が、集まってきた所属もバラバラのニンジャ達と戦闘している。29
2023-05-20 16:20:45セトは情報収集を行うべく、残像のリソースをコトダマ空間に注ぐ。「させぬぞ!」サツバツナイトが目を燃やし、再びセトに向かってきた。「イ……」「イヤーッ!」セトはサツバツナイトの打撃を防ぎ、顎を打った。仰け反りながら、サツバツナイトが睨んだ。「イヤーッ!」反撃!「イヤーッ!」防御!30
2023-05-20 16:22:48株価防衛ラインへの資金投入で、群がってくるショート筋を焼く。だが、どこまで耐えるべきかの線引きをせねばならない。その為には問題の情報を収集しなければならない。セトは更なる分身をコトダマ空間に送り込んだ。眼前ではサツバツナイトが迫る!「イヤーッ!」「イヤーッ!」セトは防御! 31
2023-05-20 16:27:50「イヤーッ!」「イヤーッ!」セトは短打で反撃!サツバツナイトは反撃を腕で逸らし、掌打をセトに見舞う!「イヤーッ!」「イヤーッ!」KRAASH!拳がサツバツナイトの鳩尾に入った。サツバツナイトは血を吐いた。だがセトも掌打を受けていた。二者は反動で間合いを離した。 32
2023-05-20 16:30:48「……」サツバツナイトはメンポの隙間から垂れた血を指先で拭い、払って捨てた。そして挑発的にジュー・ジツのステップを踏んだ。『00101』ホロ映像が電子ネットワーク会議の光景を表示させた。イスハークが出席する暗黒メガコーポ会議だ。ギザのピラミッドやヤシの木のデジタル再現。 33
2023-05-20 16:35:56それらメタ・バース装飾は、いわば、コトダマ空間を認識せぬ者らでも電子的な世界の広がりを知覚し、互いに現世の延長でコミュニケーションする事を可能とする、いかにもモータルらしい補助輪だ。居並ぶ暗黒メガコーポ重鎮たちの前で、イスハークはネクタイを緩め、ジャケットを脱いで意気を上げた。34
2023-05-20 16:39:56『戦争が始まろうとしているのですよ!御社らは直ちにネオサイタマの各支社にエマージェンシー命令を下しなさい!無軌道な野良ニンジャどもが集結して反乱を起こそうとしている!この危険がおわかりにならない!?』イスハークがテンションを上げる一方で、場の空気には奇妙な「冷え」があった。 35
2023-05-20 16:42:41「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イ……」サツバツナイトが連続打撃を浴びせてくる。セトは不快さに目を細め、分身リソースを瞬間的に呼び戻した。打撃すべてをいなし、心臓にワン・インチ・パンチを返す!「イヤーッ!」サツバツナイトは急所を逸らす!分身の拳が付近を二度打つ!「グワーッ!」 36
2023-05-20 16:45:06イスハークに対する各社の反応は奇妙だ。やはり株価下落は暗黒メガコーポ連合によるエネアド社への制裁という事実によるもの。株価は問題ではない。それを引き起こす事象には対処が必要だ。きっかけとなったのは何だ?リソースを注がねばならない。しかし…「スウーッ!ハアーッ!」サツバツナイト!37
2023-05-20 16:49:04チャドー呼吸は使用者の生命力を高め、治癒を促す他、放置すれば危険なカラテ・ヒサツ・ワザの予備動作ともなる。放置はできない。セトは複数の残像を生じながら再びサツバツナイトに間合いを詰めに行く。『この先は立入禁止です!』『うるせェこちとら令状あるんだよ!』NS支社の争いが聞こえる! 38
2023-05-20 16:51:34「……よかろう」セトは首を振り、内的な分身の密度を犠牲にして、コトダマ空間に振り向けた。そしてサツバツナイトに対峙した。構えた拳が残像を纏う。不本意ではあるが、対処できぬ相手ではない。今は情報収集を優先し、状況を判断し、重大なカリュドーン儀式を維持する事が、当然、最優先なのだ。39
2023-05-20 16:56:41「イヤーッ!」サツバツナイトが仕掛けた。セトはチョップを回避し、流麗なメイアルーアジコンパッソを打ち返した。サツバツナイトはブリッジで回避し、蹴りを返した。セトはその時には既に地を這うように姿勢を低く落とし、水面蹴りで軸足を蹴り払っていた。サツバツナイトは一瞬早く宙に跳んだ。 40
2023-05-20 17:00:12「イヤーッ!」跳ね上がりながら、サツバツナイトは竜巻じみた空中回し蹴りを打った。セトは腕を分身させて全ての蹴りを防ぎ、拳を打ち下ろした。「イヤーッ!」「グワーッ!」サツバツナイトは打ち倒された。ウインドミルじみた起き上がり蹴りで反撃する!「イ……」「イヤーッ!」肘を打ち下ろす!41
2023-05-20 17:03:07「グワーッ!」サツバツナイトは苦痛の叫びをあげた。セトは不本意だ。もう少しリソースが割けていれば、肘打ちは掘削機じみて肋骨を破壊して心臓に至り、カイシャクとなっただろう。「イヤーッ!」サツバツナイトはセトの腕を掴み、ひしぎにいった。「イヤーッ!」セトは持ち上げ、投げ飛ばした。 42
2023-05-20 17:05:15