ビースト・オブ・マッポーカリプス 後編 #8

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『思い出しなさい！我が社が黄金立方体エネルギーを管理しているのです！』リアルタイム映像のひとつでは、イスハークが言葉を連ねている。『夢のリソースが世界に注ごうとしている今この時、ならず者達がそれをメチャクチャにしようとしている！御社らの圧倒的優位性もお約束できなくなります！』　45

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メタ・バースの空に陰惨な災害のイメージが広がる。『そう、黄金のエネルギーの暴走！爆発！ネオサイタマが消し飛びます！いいんですね？私は構いませんよ？私は安全ですから。でも御社らはバカを見る……失礼。でもバカでしょ、それは？バカを見るんですよ！バカにならず弊社と協力すべきでしょ！』46

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『イスハーク＝サン。貴殿はちと、先走っておられますな。我々はもはや貴殿の欺瞞的トークを聞く気はない』『先走っている？御社らの利益を考えているんでしょうサトルCEO！我が社の陣頭指揮下、マルノウチのならずものを排除しましょう！逮捕した連中は、溶岩、いえ、矯正施設へ……今、なんと？』 47

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ヨロシ・サトルは起立し、円卓の反対側からツカツカと歩み寄った。他のメガコーポ役員も着席したまま、イスハークに厳しい視線を向けている。『今、欺瞞と仰った？何の事でしょう？』イスハークは後ずさった。サトルは指を鳴らした。『まずはこれについて説明頂きたい』情報ウインドウが開いた。　48

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滝めいて流れ出す大量のUNIXデータ文字列。それらの文言の意味するところに気づくや、イスハークは電子的に青褪めた。隠蔽されていた筈の事実の数々……しかもその規模が桁外れだった。本社メインフレームからでなければ到底引き出し得ないほどの多量のシャナイ級機密が、今、会議室に晒される。　49

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『エネアド社はアダナス社と諮り、密かに黄金立方体のエネルギーを自社施設に引き込み、タイピング速度を確保。有限なリソースを独占した。世界規模の時期嵐を装い、ネオサイタマを電子的に孤立させた。だが実際これは天変地異ではない。圧倒的な論理タイプ速度を用いた巧妙な通信障害工作である』　50

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『ご、ご冗談を！何ですか圧倒的な論理タイプ速度ッて？ありえな……』『このタイプ速度は、我らの人智及ばぬリアルニンジャによってもたらされたものである』『リアルニンジャ……』『リアルニンジャとは聞き捨てならん』『やはりリアルニンジャ』役員たちが囁きあった。UNIX文書が流れ続ける。 51

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『ネオサイタマという重要経済圏を消滅させかねない危険な計画を実行に移したのは、エネアド社の実質的な株式支配者、セトというリアルニンジャである』サトルCEOはイスハークを睨んだ。『御社は2040年代中頃より、リアルニンジャに経営権を乗っ取られているという事実を隠し続けてきた』『な……』 52

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『当然、この事実はメガコーポ連合のニンジャガバナンス法に反するものです。ネザーキョウの悲劇以来、我々は一丸となって、メガコーポ経営陣からのリアルニンジャ存在の排除、一定以上の株式所有を行う場合の申告徹底を進めてきました。なのに何故、隠していたのです？監査を避ける為ですか？』　53

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『無茶苦茶だ！』イスハークは激昂した。『この情報のソースは一体！？』『NSTV社から派遣された報道特派員を名乗る者からの、リークです』『リーク！？そんな胡乱な情報源で弊社を攻撃するのか！？何だそれは！弊社は名誉毀損の被害者じゃないですか！匿名の誹謗なんぞに……』『匿名ではない』　54

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サトルCEOはイスハークを見据え、決然と言った。『匿名ではない。ある意味でNSTV社のニュース以上に信頼できる情報ソースです。それはメガコーポ各社が密かに重点監視対象にしていた、とあるリアルニンジャの動静報告。日本の岡山県に本拠地を持つ、ドラゴン・ニンジャのIRC-SNSブログです』55

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(((……乱筆乱文失礼いたします。私はドラゴン・ニンジャ、数千年の時を生きるリアルニンジャの一人です。突然ですが、今、私はエジプトに来ています。エネアド社を実質的に支配しているのは、やはり、現代に蘇った邪悪なファラオニンジャのひとり、セト・ニンジャでした。極めて危険な存在です))) 56

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ナムアミダブツ！まさにそれはドラゴン・ユカノのカラテストレートめいた電子攻撃だった！エネアド社最奥電算室に到達し、情報を抜いたナンシーとユカノ。そのまま暗黒メガコーポに転送すれば信憑性や利害問題が生ずる為、敢えてドラゴン・ユカノのIRC-SNSブログを用いたのだ！『そんな！個人？』 57

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『エグザクトリー。何を言うかより、誰が言うかが重要だ。このアカウントがリアルニンジャ本人の物である事は、入念に確認済みです。ブログは今この時もリアルタイムで更新されている。本日の記事の書き込みの発信元IPは紛れもなくエジプト。動画や自撮り写真の数々も掲載され、疑う余地はない』　58

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『エ、エジプト本社に……そんな……そんな事……』『イスハーク＝サン』サトルCEOは電子的にネクタイを緩め、イスハークに一歩近づいた。イスハークは呻いた。『アイエッ……』『イヤーッ！』『グワーッ！？』イスハークはKICKされた！　59

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001001001……「アババババーッ！」KICK衝撃に全身を激しく痙攣させ、椅子からまろび落ちたイスハークは、震えながら見下ろすパワキ部長を憎々しげに見上げた。「何を見物してるッ！会議の結果は見ての通りだ！全員許さんぞ！」「しゃ、社内においてもですね、今、キモンに対して必死の防衛を……」60

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「そんなのは機銃掃射でもしろ！」「キモンにはニンジャが……」「ウチにも居るでしょッ！」「は、ハイ、勿論です。ただ現在、ニンジャ部隊は例のハッキングワゴンを……」「ハッキングワゴンだと？」イスハークは唖然とした。「……ハッキングワゴンか……」「よ、呼び戻すべきですよね？」　61

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「現状把握させなさいよ！」イスハークはパワキの首を掴んで立ち上がり、UNIXモニタに中継されてくる隊員の映像を繋いだ。今まさにマズルフラッシュが駐車場地下に閃き、サイバネカルティスト達がバタバタと倒れてゆく。イスハークは現実逃避的な快楽に酔った。「これで良いんだ。次はキモンだぞ」 62

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ニンジャエージェント社員のアシッドヴァイパーが隊員を率い、無惨に倒されたカルティスト達と散乱するピザを踏み越え、ピザワゴンに近づいた。車内、手ぬぐいを攻撃的ねじりハチマキにした少年がピザを掲げて何か叫んでいた。隊員達は笑った。『殺していいですね？』アシッドヴァイパーは確認した。63

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「当然だ！車内にもハッカーが居るはずだ。ネコソギにしろ。そしてすぐに戻りキモンと戦え！ASAPでやれ！」イスハークは「承認」のボタンを乱打しながら叫んだ。『ハイヨロコンデー』アシッドヴァイパーはスリケンを構えた姿勢で凍りついた。『うごけ……動けません』「何だと？」不穏なバイタル値。64

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「ちょっと何だよ……」イスハークは頭を掻きむしり、モニタリングしているアシッドヴァイパーの数値を何度も確認した。何らかの原因で異常値を叩いている。何の原因……『グワーッ！？』悲鳴が聴こえた。随伴ドローンのリアルタイムカメラの視界が揺れた。大排気量バイクの排気音が凄まじく接近。　65

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『ヤバい！撃て！撃て！』『ムーブムーブムーブ！』『ニンジャが……』『救援？ニンジャナンデ！？』BRATATATAT！機銃掃射のなか突っ込んできた黒いバイクはドリフトしながら隊員達を跳ね飛ばした！『アアアアア！』アシッドヴァイパーは叫びながら足元の闇に沈む！その脳天をクナイが貫いた！　66

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数秒の混乱を経て、エネアドの殲滅隊は全滅していた。突入してきたニンジャは黒いバイクを降り、瞑想的に呟いた。『目障りな太陽だ。だが、俺の空はお前の空より暗い』それから、為す術ない随伴ドローンのもとへ歩いてきた。カメラを掴み、顔を近づけた。『俺の名はシャドウウィーヴ。警告を与える』67

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ボン。嫌な音がスピーカーから聴こえ、映像はノイズに塗り潰された。停止心電図じみた無機質な電子音を聴きながら、イスハークは立ち尽くしていた。パクパクと口を動かし、やがて言った。「CEO……セト神よ……赦しと……救済を……」　68

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0010……010……101……00「……役立たずめが」絶えずポップアップするホロ映像群の光に照らされながら、セトは嘆息した。圧縮された時間の中、サツバツナイトがさらなるカラテを仕掛けてくる。事態が途方もない崖の下へ滑り落ちようとしている事はハッキリした。違和感の正体はドラゴン・ニンジャ。69