Rey*レイ（旧・幌片）のパングラムまとめ

自分でも気に入っている作品。10代後半くらいの子が自室で夜を明かす話ですが、制作に当たってゲーム『NEEDY GIRL OVERDOSE』の影響を色濃く受けています。制作期間もちょうど超てんちゃんの新曲が出て間もない頃だったかな？私の自作パングラムには「夜」をテーマにしたものが多いですが、今作はとびきり自分の趣味を凝らしたものに仕上げました。意識的に「ちょっとかましたルビ振り」を作品に潜ませています。「錠剤」と書いてクスリと読む、「酩酊」と書いてドープ（dope）と読む、みたいな洒落は大好き。「落暉/朝焼 綯い交ぜの〜」は薬の効き目で意識が濁り、文字通りカーテン越しの光が夕のものなのか、朝のものなのかすら判らなくなっている様と、鬱（落暉）と躁（朝焼）とが交互に往来する様とをどちらも含意しています。この辺りの言い回しは自分の趣味。躁鬱の波を幾度も繰り返しながらも結局はバッドトリップに陥ってこの話はお終いです。締めは中原中也の詩の一節から頂戴しました。

志半ばで筆を折った、ある画家の話です。油絵具の匂いに満ちたアトリエで創作に向かい続けた彼ですが、生みの苦しみの末に何を描けば良いかさえも判らなくなり、漸く描き上げた一枚も"画布の表面に付着した顔料の混り合い"でしかない、と自責してしまう。彼の描いた理想の画は、現実から逃げるように眠る彼の夢中にのみ色鮮やかに存在し、その甘い夢に縋る彼の手に筆が握られることは二度と無くなりました、お終い。「エピゴーネ」とは模倣者や亜流といった意味を持つ言葉ですが、この烙印は他ならぬ彼が自らに押したものです。彼の耳に届かなかった世評はあるいは、彼自身のものとはまた違っていたかもしれません。

『SPLATOON３』より、ゲーム内イベント「ビッグラン」をモチーフにした作品です。イカの住む街にまで遡上しつつあるシャケ、その侵攻に抗わんとする雇われのバイト戦士、アルバイター達を招集するクマサン商会の三者が表舞台に立つ一大イベントですが、それぞれの置かれた立場、内に秘めた思惑が交錯する様を描こうと画策しました。サーモンラン自体がスプラトゥーン内にあってアングラな雰囲気を醸すゲームモードなので、初っ端から血腥いフレーズです。イベント時には赤く染まる街が映し出されたタイトルスクリーンからゲームが始まるのが印象的ですね。ゲームを始めると、街中至る所にクマサン商会の宣伝ビラが貼り散らかされているのが目に付きます。イカ社会を脅かし、時には街そのものを壊滅させ得る大災害として認知されている「ビッグラン」も、クマサン商会にとってはただの「稼ぎ時」。普段よりも効率良く商売できる日、程度の認識であることがビラに躍る"大漁"の煽り文句から窺えます。作品にある「帆巴」とは、海運業の繁栄を願って掲げられる旗紋です。シャケを図案にしたクマサン商会のロゴと何処となく似ているような… イカ達からすると自分達のナワバリを脅かす侵攻でしかないビッグランは、翻ってシャケ達にとっては、かつて生まれた地（ナワバリ）に還るための「遡上（salmon run）」に他なりません。普段は海の底で眠りにつき、“ナワバリ”を荒らすイカ達の匂いを嗅ぎ取った時にその姿を現す「オカシラシャケ」。この時のビッグランでは「タツ」と呼ばれるオカシラシャケが新たに登場しました。名の如くに、その長躯でもって悠々と空を奔ります。イカ達も築いてきた社会、生活を守るためにシャケと対峙しますが、海に生きるシャケと陸に生きるイカ、この両者の戦いは文字通り「汀（みぎわ）」で繰り広げられます。この戦いにてクマサン商会から支給されたブキ「クマサン印のシェルター」は、布を剥ぎ取った傘のような造形をしており、「塗り性能」が非常に高いことが特徴です。インクでナワバリを塗り潰すというイカ達のマインドに適ったブキです。ナワバリ争いの最前線に持ち込むブキとしては洒落が効いてますね。

完成した直後はケレン味に欠けた作品だなぁ、とあんまり自分では気に入ってなかったのですが、何度か見直す内にいいじゃん！と自分の中での評価が覆りました。冒頭の「濡れる接吻」が最後になって「蛇の毒」として効いてくる、みたいな展開になってていいじゃん！遅効性の毒。

『星のカービィ ディスカバリー』にインスパイアされて「ロッシュ限界」軸に作りました。自分の思考キャパを超えた事象を相手取って捏ねくり回したので、わけがわからないものに仕上がってしまっています。「スーノ」は制作のどん詰まりで無理やり捻り出した、人工言語エスペラント由来の言葉ですが『ディスカバリー』では創作言語が用いられているのでそれに因んだということで… 「暗まぬ暮夜」は、何かかっこいいことを言おうとして混線しました。日照時間が長くなって…みたいなことを想像したのですが、天文学の素人なのでフィーリングで貫いています。「翅燃えむ」は、太陽に近づいたが為に翅を焼かれたイカロスの逸話から。「水底日照り 褪めた青」は、地球そのものの崩壊に先立って表層に湛えた水が太陽に焦がれてしまうイメージで。青褪める、という語に捻りを加えたあたりは言葉遊びとして面白いな、と気に入っています。以上、ロッシュ限界を踏み越えてしまった星の辿る末路はこんな感じかな？という空想でした。