四の舟×おろし丸によるスケッチブックリレー小説 梶原姉弟~小料理屋かじわら編~

スケッチブックの二次創作小説。空と青の開いた小料理屋に集う人々の模様。
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焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 駅から少し歩いた歓楽街の隅っこに、小さな小料理屋がある。カウンター席と小さな座敷が二つある程度のその店は、この不景気な世の中に置いて大儲けしているわけでもないが赤字も出してはいない、そこそこの収益をあげていた。その小料理屋は「かじわら」という。

2011-11-22 23:31:45
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 午後五時。おかみの空は割烹着を身につけ、入口に暖簾をかける。この店はこの時間に営業開始だ。空は暖簾をかけるとすぐさま店の中にとって返し、入ってくるお客さんを待つ。彼女の弟、青はいつでも料理をだせるよう、厨房で調理道具の確認や、調味料を足したりしている。

2011-11-22 23:39:25
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE (ねーあお)「どしたのねーちゃん」(今日もお客さん、来るかな)「どうだろうねえ」この会話を、何度かわしたかもう覚えてはいない。当初この言葉を、二人とも不安な気持ちで言っていたのだが、今ではもう何の感情もなく言えるようになった。

2011-11-22 23:44:37
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko そんな会話を交わすうちに、ガラガラと扉が開き、お客さんが入ってきた。「あっ。いらっしゃいませ~」 (いらっしゃ~い) 「よう。梶原」 入ってきたのは、美術部の先輩だった、根岸であった。(根岸先輩、今日は早いんですね) 「ああ。仕事が早く終わったんでな」

2011-11-22 23:48:07
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「とりあえず、鳥わさと生一つ。」「はーい」 手際よく、青は包丁をさばいていく。「そう言えば朝神谷を見たな。またでかい荷物いっぱい運んでたぞ」(そうなんですか…)

2011-11-22 23:52:22
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 根岸はこの歓楽街のそばの美術館に勤務しているので、この店にはたびたびやってくる。職場の人と、あるいは恋人の空閑さんと、あるいは妹のみなもとやってきては長居してくれるため、空は美術部時代とは違い根岸と仲良くなれている。

2011-11-22 23:57:38
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「こんばんはー!やってますかー!?」がらがらっと、元気よく扉が開かれると、そこには神谷朝霞が立っていた。(あ、神谷先輩いらっしゃい)「おーおー、根岸君もいたんですか。とりあえず生一つお願い」「はーい」

2011-11-22 23:59:28
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「なんだ。神谷も飲みに来たのか」 「そりゃーもちろんですよ~。かわいい後輩がやってる店なんですから、ほんとは毎日きたいくらいですよ~」 「まあ、わからんことはない。ひとまず、お疲れだ。乾杯」 「乾杯!」 カチンッと、グラスとグラスを重ねる音が店に響いた。

2011-11-23 00:07:49
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「しかし懐かしいですねえ、みんな元気でやってて何よりですよ」「そうだな、ケイトはカナダに帰っちゃったけどな」「空閑さん、元気にしてますか?」「……なんでそれを俺に聞くんだよ」「んふふ~」美術部の時のように、神谷がいたずらっぽく笑った。

2011-11-23 00:11:39
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko (先輩たちも、あまり変わっていないようでなによりです) 空は美術部の時とはまた違った神谷先輩と根岸先輩のやり取りを眺めながら、微笑んだ。「ねーちゃん。空想もいいけど、枝豆お願い」 (おー。かたじけない) 「いや、姉ちゃんが食べる分じゃないよ?」

2011-11-23 00:17:17
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE (枝豆お待ちどう様)「お、悪いな。」 小料理屋「かじわら」は、開店してもう二年がたとうとしていた。店から人が溢れるほど混雑することはなかったが、逆に閑古鳥が鳴くこともなく、いい感じの経営を続けている。これも美術部員がちょくちょく来るためだ。

2011-11-23 00:21:06
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko ガラガラ 「いらっしゃーい」 (いらっしゃーい) 「こんばんわ。梶原さん」 「おっ」 「あれーーーっ! 鳥ちゃんじゃないですか~~!」 やってきたのは、鳥飼葉月であった。「あ、根岸先輩に神谷先輩。おひさしぶりです」

2011-11-23 00:24:05
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE (いらっしゃい鳥飼さん、いつもの席あいてるよ)「あ、ありがとう」 葉月はいつも、カウンターの左から三番目の席に座る。ここによく来る客もみんなその事を心得ており、ここに座ろうとするものはいない。

2011-11-23 00:28:17
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko そして、この位置はちょうど厨房の中―要は青と間近に話ができる席でもある。「こんばんわ。青くん」 「こ、こんばんわ。鳥飼さん」 「いつもの、お願いしていいかな?」 「よろこんで」 青はすぐさま後ろの冷蔵庫からサワーを取り出し、葉月のグラスに注いで手渡した。

2011-11-23 00:31:22
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 葉月はこの店の常連だ。梶原姉弟が店を開店させると言った時、反対意見も多く上がったが、葉月は開店すると言った時から賛成の立場を貫いてきた。そして今も、ほぼ毎日来るようになっている。

2011-11-23 00:34:00
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 大学院の院生であるため時間に余裕がある。麻生夏海も連れてくることもあり、空は葉月が来るのが一番楽しみだ。そして、なにより、彼女が店に通い始めてからというもの、弟の青との距離が徐々にではあるが近づきつつあり、姉としては嬉しい限りなのであった。

2011-11-23 00:38:28
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE (ねーねー根岸君)(ん?なんだよ神谷)(どう思います?あの二人)(どの……ああ、あいつらか)(いい感じですよね、最近) 神谷と根岸も分かるように、この二人は知らない人が見たらもう付き合っているのかと思ってしまうぐらいに親密だ。だがそれ以上ではなかったが。

2011-11-23 00:41:00
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko (青は照れ屋ですから) (若いから仕方がないか) (え。根岸くん空閑さんと付き合い始めたころはあんな感じでしたよ?) (うん、うん) (そうか?俺はリードしていたつもりなんだが) ((そう思ってるのは男だけなんですよね)) (お前ら妙に息が合ってんな…)

2011-11-23 00:46:31
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE やがて、6時を回ってくると会社が終わった会社員たちがそこそこ店にやってくるようになる。そんなに狭い店ではないが客が多ければその分大変ではある。次第に青も顔が仕事のそれになり、葉月との会話も少なくなっていった。

2011-11-23 00:49:44
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 神谷と根岸は飲みながら盛り上がり、葉月は時々青や空に話しかけているが、二人が忙しくになると、神谷と根岸の輪に加わっては、昔のことや青とのことを話している。サラリーマンや、大学生、絵描きの人なんかが入れ替わり立ち替わりで店に飲みにやってきては去っていく。

2011-11-23 00:54:50
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE やがて外を照らす明かりが月明かりと電灯になり、道行く人の頬が赤くなる頃、かじわらは店をしまう。今日の売り上げも上々といったところだ。(ありがとうございましたー)この店を出ていくものたちは皆、幸せそうな顔をして家路につく。

2011-11-23 00:58:26
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 店が実質的に閉店となると、これからは美術部のメンツの座談会が終電間際まで続く。この時間は、空にとって店を閉めるまでの静かで嬉しいひとときなのである。

2011-11-23 01:02:05
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 話すことと言えば他愛のない事が多い。だがそれでも空にとってはかけがえのない時間であり、それはまた元美術部員にとっても同じことだった。

2011-11-23 01:04:48
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「そろそろ終わりだな」 根岸が頬をほんのりと赤くしながら呟いた。「えへへ。あっという間ですね~」神谷は完全に出来上がってしまっている。「お二人ともそろそろお暇しなきゃ帰れなくなりますよ?」開店からずっといて飲んでいるはずなのだが、葉月はケロッとしている。

2011-11-23 01:09:14
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE (それじゃあ、ありがとうございました~)「またのお越しをお待ちしてます」 暖簾を下げ、看板の電気を消す。こうしてかじわらの一日は終わるのだった。 (ねー、あお)「どしたのねーちゃん?」(鳥飼さん、今日も来てくれたね)

2011-11-23 01:12:10