改竄童話:シンデレラ 【ガラスの恋】

途中で終わってたものをまとめてみた。書く気はあるよ!!
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第1話、かな。
一人称で始まります。


燦月夜宵 @iolite_N

彼女の名前は灰かぶり(シンデレラ)。いつも灰塗れで古くてぼろぼろの服を着ているから、そう呼ばれている。でも、俺は知っている。あの女と娘二人が来る前のシンデレラはそんなのじゃなかった。優雅でたおやかで、頭もよくて礼儀正しい。誰もが認める町一番の美人だった。

2011-08-17 20:41:44
燦月夜宵 @iolite_N

それが父親が再婚した時から変わってしまった。あの継母はシンデレラが心も姿も美しいことに嫉妬した、勿論連れ子の二人だってそうだ。前妻の姿を見るようで、自分達が持ってないものを見せられているようで苛々していた。何故あの人がこんな人を選んだのか、俺には理解出来ない。

2011-08-17 20:47:40
燦月夜宵 @iolite_N

継母は旦那が長い船旅に出ると聞いて、気が付いた。その間、あの娘に何をしても彼女達の自由。そして航海当日、家族で見送りを済ませると継母達は彼女から全てを取り上げた。服、アクセサリー、化粧品、靴。日用品に本や更に部屋まで没収し、代わりに与えたのは着古したメイド用の衣装。

2011-08-17 20:55:41
燦月夜宵 @iolite_N

「あんたは贅沢し過ぎだよ、ちっとは質素におなり」「ほら、お父様が帰るまでは倹約よ」「ほらほら、あんたの部屋は此処じゃない!」僅かな手荷物で放り出されたのは、行ったことも見たこともない彼女の家の屋根裏部屋だった。素直な彼女は話を真に受け、新しい自室を受け入れた。

2011-08-17 21:17:10
燦月夜宵 @iolite_N

それからの彼女の生い立ちは、シンデレラを知っている人なら分かる筈だ。彼女は毎日毎日家事に追われ、釜戸や暖炉の中まで掃除をして灰塗れ。継母達は彼女を尻目に贅沢三昧。それでも彼女は文句の一つも言わなかった。「なんでそんなに頑張るんだ」俺は思わず彼女に尋ねた。

2011-08-17 21:30:10
燦月夜宵 @iolite_N

ちなみに俺は彼女の行きつけのパン屋の息子だ。彼女とは小さい頃から仲良しで、皆があの女を恐れて彼女と関わらなくなかった今でも、よく会った。彼女は受け取った紙袋を抱え、笑った。「頑張るだなんて」「お前も昔は綺麗な服着てたのに悔しくないのか?自分だって可愛くなりたいとか思わないのか?」

2011-08-17 21:39:42
燦月夜宵 @iolite_N

「これは、おまじないだと思ってるの」「おまじない?」「私が毎日をきちんと過ごしていたら、父様が無事に帰って来られる……って」良家のお嬢様らしく品のいい笑顔だ。苦しい立場を微塵も感じさせない、柔らかい日だまりのような。けど俺はそうやって笑ってる顔だけ知ってるわけじゃない。

2011-08-17 22:03:33
燦月夜宵 @iolite_N

配達で町の墓地の前を通ると、時々ある墓の前で一人泣いている彼女を見かける。それは、彼女の本当の母のお墓。嗚咽を上げず声も押し殺して涙する後ろ姿を、俺はただ見ていた。慰めてやりたいと思うが、こいつの肩を抱いたって何が解決するわけじゃないと達観する俺もいる。

2011-08-17 23:44:40
燦月夜宵 @iolite_N

俺に今、出来ることといえば―――。「俺はお前の味方だからな、お前に何かあったら言えよ」こうやって彼女と少しでも話すこと。それから。「うん、いつも有り難う」「じゃあまたな、“シンシア”」シンデレラではなく、彼女を本当の名前で呼ぶこと。

2011-08-17 23:49:39
燦月夜宵 @iolite_N

シンシア。呼ぶだけで彼女は誰よりも綺麗になる。名前まで取られたら、あいつがシンデレラに乗っ取られる。町の連中がシンデレラとしか呼ばなくなった頃から、俺は密かに誓っていた。シンシアがシンシアでいられるよう、彼女の大切な人が呼ぶまで俺が守る。独りよがりでも、彼女が笑ってくれるなら。

2011-08-17 23:55:13

シンデレラ=シンシア。
ちなみにこの少年はエリックといいます。

2話。一人称小説じゃなくなります。


燦月夜宵 @iolite_N

ある日町に広告が配られ、張り紙が張り出された。どうやら近くの城でパーティーがあるらしい。表向きは交流目的、しかし本当は年頃の王子の結婚相手を探すためだ、と噂がたっていった。王子と言えば眉目秀麗、頭脳明晰。礼儀正しく武芸も出来る。跡継ぎには申し分ない人材で、付近にはファンも多い。

2011-08-21 22:34:24
燦月夜宵 @iolite_N

勿論、継母がそれに食い付かないはずがない。姉二人と一緒に広告を隅から隅までなめるように見つめる。「いいかい、可愛い娘達。王子とお近づきになるなんて滅多にない機会、結婚相手を勝ち取るんだよ」「でも、皆来るにきまってるわ」「王子は無理だったとしても、人脈は作りたいわね」

2011-08-21 22:39:28
燦月夜宵 @iolite_N

口は逃げ腰、だが目は自信に満ち溢れらんらんと輝く長女。結婚は出来なくてもパーティーでの目的を見付ける狡猾な次女。早速継母はシンデレラに家事を押し付け、二人を連れてドレスやアクセサリーを買いに町へと出かけた。一人残されたシンデレラは広告を手に取り、溜め息をついた。「舞踏会……か」

2011-08-21 22:46:29
燦月夜宵 @iolite_N

「お前は行かないのか?」パンを買いに来たシンデレラにエリックは尋ねた。シンデレラ、シンシアは首を振り袋を受け取る。「行けないよ、きっと沢山用事を言われるもの。それに……」スカートの裾を摘まみ、彼女は軽くポーズをとって見せた。「服はこんなのばかりだもの。舞踏会には出られないわ」

2011-08-21 22:58:48
燦月夜宵 @iolite_N

シンシアの持ち物は全てあの3人に没収されていた。父親から継母とは仲良くするように言われており、大切な父との約束を破る彼女ではなかった。「御姉様達のほうがああいう場所は似合うはずだわ。舞踏会は綺麗、でも堅苦しいところ」野心や欲望、嫉妬も渦巻く、きらびやかだが怖い世界。

2011-08-21 23:07:49
燦月夜宵 @iolite_N

「よかったー、貴族じゃなくて」「私も貴族ではないんだけれど」「でもシンシアはそういう場所でもやっていける。お前は強いよ、俺はぜってー無理!」両手を上げて、降参状態のエリックにシンシアは笑みを漏らした。おちゃらけた中にも気遣う言葉を入れてくれる優しさは彼女の支えの一つだった。

2011-08-21 23:13:17
燦月夜宵 @iolite_N

「それじゃあ、そろそろ行くね。お母様が帰ってきちゃう」「おお、そうか。……なあ」「なあに?」「いや、なんでもない」不思議そうな顔のシンシアを無理矢理送りだし、元の店番の席へと戻る。彼女に聞きたかった言葉はこうだ。「もし、魔法の様な事があったらお前は舞踏会に行くのか」と。

2011-08-21 23:40:36
燦月夜宵 @iolite_N

彼女の答えは予想できない。行きたい気持ちもあるだろうが、言いつけを守りたい気持ちもあるだろう。シンシアはいい子でいることに疲れたりはしないのだろうか。たまには弱みを見せてほしい、感情をぶつけてほしい。そうエリックが思うのは何年も彼女の幸せを友人として願っているからに他ならない。

2011-08-21 23:45:39
燦月夜宵 @iolite_N

友人として意識し、彼女を異性として愛していることがばれるのが怖かった。良家とパン屋、身分違いの恋物語のなど少女小説でしか見たことがない。想いが現実で現は叶わないことを知らないほど、彼も子どもではなかった。エリックは自分の右手を見つめ、硬く強く握り締めた。

2011-08-21 23:50:16