『誘拐にまつわる初恋物語』

11/27 23:00~11/28 04:30 頃まで連載した 誘拐犯と家出娘による  「誘拐にまつわる初恋物語」のまとめです。 元は僕が11/27のお昼寝で見た夢だったはずが、 続きを読む
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愁夢 @s_shumu

夜道、急に連れ込まれた車内。「お、おま、誰だ?」いや、私の方が聞きたいのですよ? えらく絢爛豪華な屋敷に通されたことで、身代金目当てでないこともわかってしまった。「どうして私を連れてきたの?」「誘拐」「はっ!?」ひょんなことから手違いで誘拐されてしまいました。 #twnovel

2011-11-27 23:07:42
愁夢 @s_shumu

誘拐犯は手違いで手に入れた私を見て深く溜め息を吐きました。そこら辺にいたメイドに預けて「爺には内緒だ」と約束させ私を広大なる屋敷の一室に放り込んだのでした。しかし、誘拐犯は安心しませんでした。そして、誘拐犯もとい彼と私の変則的な誘拐、家出物語は始まったのでした。 #twnovel

2011-11-27 23:13:53
愁夢 @s_shumu

数時間後、部屋に現れた彼は気まずそうに「いくらで黙る?」と言いました。金に物を言わせようというのです。気に入りません。「家出させてください」と私は即答しました。彼は驚いた顔をして、「では、爺に告げて帰ります」と告げた私に焦った顔になりました。「匿って頂けます?」 #twnovel

2011-11-27 23:18:47
愁夢 @s_shumu

「誘拐の条件は、学校には通わせて頂くこと、父母の許可を取ること」「はっ?……家出じゃ」「父母を心配させるつもりはありません。幸い、我が家は放任主義。大人の方、例えばそのメイドさんとかが許可を申し出れば問題ありません」「なんてふてぶてしい娘」「文句でも?」「いえ」 #twnovel

2011-11-27 23:22:51
愁夢 @s_shumu

保護者面を取り繕った誘拐犯から連絡を受けた父母はあっさりと許可を出しました。「一週間に一度位は顔を出してねー」などと気楽なもの。我が親ながらなんとも適当なものです。少しくらい、疑ってもいいんじゃないでしょうか。 #twnovel

2011-11-27 23:31:19
愁夢 @s_shumu

爺にばれて両親に告げ口されることを恐れているらしい誘拐犯は通学にも気を払い、車で送迎し始めました。部屋までの護送もメイドを使って丁寧なものです。どうやらばれたら跡継ぎの問題にも支障が出かねないようでした。私にはどうでもいいことです。ただ、彼は優しかったのです。 #twnovel

2011-11-27 23:34:06
愁夢 @s_shumu

「お前、どうして家出したんだ?」ある日、誘拐犯は家出娘に聞きました。それはそれ、彼が私にした初めての身の上話の話でした。「つまらなかったからです」私は答えました。けれど、何かが違うと思ったのも確かでした。「つまらない?」彼は笑ったのでした。「寂しいの間違いだろ」 #twnovel

2011-11-27 23:37:20
愁夢 @s_shumu

「寂しい?」誘拐犯の言葉に家出娘は首を傾げました。「寂しい、のでしょうか」そんな私を彼は笑って見ていました。「貴方は、どうして誘拐をしようと思ったのですか?」それに、彼は痛い顔をしました。そして、掠れた声で、「誰を、とは言わないんだな」と告げたのでした。 #twnovel

2011-11-27 23:41:34
愁夢 @s_shumu

「では、誰を誘拐したかったのですか?」家出娘の言葉に誘拐犯は嫌な顔になりました。「遠慮がないな、お前は」「犯罪者に遠慮は要りません」「まぁ、そうかもしれないが」きっぱりと告げた私に、彼は苦笑いです。でも、その横顔は少し寂しそうで。「恋人だった女だ」過去形でした。 #twnovel

2011-11-27 23:54:56
愁夢 @s_shumu

家出娘は『恋人だった女』を誘拐しようとした男に下衆でも見るような眼を向けました。「振られた腹いせですか?」「違う。別れさせられただけだ」彼は弁解しました。両想いだったと。誘拐することも合意の上のはずだったと。それでも家出娘は簡単には信じませんでした。 #twnovel

2011-11-27 23:58:49
愁夢 @s_shumu

「で、打ち合わせて誘拐するはずだった彼女はどうしているのですか」疑いの眼差しのまま家出娘は誘拐犯に訊きます。「さすがに、二人は隠し続ける余裕はない」彼は苦い笑いを漏らしました。そして、ぽんと私の頭の上に手を乗せたのです。「厄介なお姫様がいると告げてるよ」 #twnovel

2011-11-28 00:03:43
愁夢 @s_shumu

「では、私は邪魔者なのですか?」家出娘は誘拐犯を見つめました。間違えただけなのに、いつまでも恋路の邪魔をされては邪魔でしかないでしょう。今更家に帰るのは嫌でしたが、詮無いことです。家に帰る決意をした私を彼は引き止めて。「責任は取るつもりだ」我儘な恋の責任だから。 #twnovel

2011-11-28 00:14:36
愁夢 @s_shumu

「責任ですか?」家出娘はきょとんと誘拐犯を見ました。責任も何も私は誘拐されたことを良いことに合法的な、変則的な家出を手に入れた訳ですから、責任を感じる必要はないのです。その旨を告げようとして、やめました。この屋敷で暮らす生活は窮屈ではあっても、幸せだったのです。 #twnovel

2011-11-28 00:21:40
愁夢 @s_shumu

それからも誘拐犯は家出娘を学校に送り迎えしながら変則的な誘拐を、家出を続けていきました。そして、ある時気付きました。「お前の両親は一週間に一度顔を出せと言っていなかったか?」そう、家出から一か月経っても私は彼に両親との面会に送ってもらうことはありませんでした。 #twnovel

2011-11-28 00:30:35
愁夢 @s_shumu

「連絡は取っていますよ」家出娘は誘拐犯に携帯を見せました。まぬけな彼は携帯を取り上げていませんでした。「だが、」「大丈夫です。ちゃんと元気でやっていると伝えてます。あ、そうそう。連絡を取っているのは両親だけですからね」微笑む私に彼は辛そうな顔をしていました。 #twnovel

2011-11-28 00:38:58
愁夢 @s_shumu

「電話だけで心配してないのか?」お前の両親は、と誘拐犯は家出娘に尋ねました。「放任だと言ったでしょう?それに電話どころかメールだけです」私は微笑んで。彼は私に痛ましい目を向けました。「似ているな、俺たち」そっと撫でられた髪は温度を持たないのに熱く感じたのでした。 #twnovel

2011-11-28 00:56:11
愁夢 @s_shumu

誘拐犯に家出娘が誘拐されて一か月。家出娘も誘拐犯の両親どころか家族に会ったことがありませんでした。軟禁状態も良いところなので当たり前でしたが、屋敷には家族らしき影も形もありません。彼は若くても成人して独り立ちはしているようでしたから独りで暮らしているのでしょう。 #twnovel

2011-11-28 01:05:51
愁夢 @s_shumu

「似ているって?」家出娘の恐る恐るとした質問に誘拐犯は苦い笑いを漏らしました。それは彼が時々向けてくる物で寂しそうな笑顔でした。「親に相手にされないってことかな」の癖に、口は出してくるんだけどな。と、笑った彼にどう話しかけていいのか、私にはわからなかったのです。 #twnovel

2011-11-28 01:11:50
愁夢 @s_shumu

「俺んちは金持ちだ」誘拐犯は家出娘に告げました。それはそれ、傲慢な言葉でもしたが私は頷きました。この豪邸を見て貧乏だと言われても腹が立ちます。「だが俺を育てたのはほとんど爺だし、両親なんか放任どころか無関心だった。俺に優しくしてくれたのは彼女が初めてだったんだ」 #twnovel

2011-11-28 01:19:25
愁夢 @s_shumu

それは誘拐犯の恋のお話でした。家出娘は相槌を挟んで聞いていましたが、その話は胸が痛くなる甘酸っぱいお話でした。「だけど、彼女は俺の結婚相手には向かないらしい」彼女は普通の家の娘なのでした。「なら、私がお嫁さんになりましょうか?」そして、彼女を囲えばいいのです。 #twnovel

2011-11-28 01:25:22
愁夢 @s_shumu

誘拐犯は唖然とした顔で家出娘を見ました。「だから、結婚相手は!」「金持ちであればいいのでしょう?」首を傾げると、彼は変てこな顔をしました。「駄目だ」「私もそんなに大きくはありませんが、社交界の末端には位置します」言い募ると、彼は「知ってる」と苦く笑うのでした。 #twnovel

2011-11-28 01:33:12
愁夢 @s_shumu

「お前の学校は有名な女子校だ。送迎させてて、今更ばれていないと思っていたのか?」誘拐犯は呆れた顔で家出娘を見ました。「いえ、そうですね。綾小路家を舐めてはいけませんね。名乗り遅れました、結城流と申します」「有難い申し出だが、結婚相手としてお前を選ぶつもりはない」 #twnovel

2011-11-28 01:50:13
愁夢 @s_shumu

「結婚するつもりはない」という誘拐犯の宣言はいっそ高らかなほどで、家出娘の胸にちくりと何かが刺さったのでした。「家格が違いすぎますか?」「そういう話じゃない」「では?」「俺は彼女以外を嫁にするつもりはない」それは清々しい言葉で。私は嗤いました。大声で、高らかに。 #twnovel

2011-11-28 02:04:34
愁夢 @s_shumu

「ちょ、お前」誘拐犯は慌てた顔で辺りを見回しました。家出娘の声は屋敷中に響いたかもしれません。それでも私は嗤い続けました。「本当に、可笑しな、人なのですね、貴方は」結婚に夢を抱くなど、滑稽でしかありません。「貴方は私と結婚します」それは、親が決めたことだから。 #twnovel

2011-11-28 02:09:18
愁夢 @s_shumu

「な、にを」誘拐犯の顔からは表情が消えていました。それが家出娘には痛くて、結局家出娘は滑稽な笑顔を彼に向けていたのでした。「結婚は強要されると思っていましたが、まさか誘拐まで強要されると思いませんでした」溜め息交じりの私の言葉に彼は愕然とした表情を浮かべました。 #twnovel

2011-11-28 02:12:39