幽玄の里

旅館に勤めながら、主に夜に起きるささやかな怪異を1ツイート完結でシリーズに!
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solaris @solaris1921

古い建物というのは、色々な音をたてる。それほど遠くないところで誰かの鉛筆の芯が折れた様なピシッという音。階の異なるどこかの部屋の引き戸が閉じられた様なドンっ!という音。自分しかいないはずの同じ部屋の片隅で、誰かがそっと息を吸った様なスゥ〜という空気の音、今夜も僕は独りじゃない。

2023-08-09 00:18:39
solaris @solaris1921

夜が更けても、お庭を廻る小道に沿って灯りはそのまま燈している。庭に面した窓からの夜の灯りは少し幽玄な感じがして美しい。真夜中、何となくお庭にぼんやり見惚れていると、灯りが一つふっと遮られ、またふっとそれが戻る。少し於いた隣の灯りがまたふっと・・そうか、まだ誰かが歩いているんだな。

2023-08-09 00:32:32
solaris @solaris1921

宿への外からの電話は夜には留守番対応のアナが流れる仕組みで、朝までは出る必要はない。鳴り出した電話は一度目のベルが鳴り終わる前に留守に切り替わる。でもなぜか時々、切り替わることなく鳴り続ける時がある。大抵は真夜中の二時を過ぎた辺り。でも、もし鳴っても、絶対にそれに出てはいけない。

2023-08-09 00:41:48
solaris @solaris1921

泊まり客が夜中にフロントに来て不眠を訴えることがある。僕は、あぁまたか、と思う。天井の上から足音が聴こえるのだという。端から端までいってまた引き返し、それが何度も天井の上を移動する。大きな音ではないのだけれど、気になって眠れない、でも怖くはないのだと、音が聴こえた客は誰もが言う。

2023-08-09 00:54:49
solaris @solaris1921

気配という言葉は、とある者らを言い表すにはぴったりの言葉だ。それは決して人の真正面には立たない。人の目の隅にふっと、初めからその場所に在ったかの様に、本当にふいに、ただ、いるのだ。音もしなければはっきりと姿が見えるわけでもない。ただ、え?っと振り返ってしまう、つまりは気配なのだ。

2023-08-09 01:03:53
solaris @solaris1921

茶碗を重ねる音は意外と遠くまで聴こえるものだ。洗った茶碗を重ねて片付けるカチャカチャという瀬戸もの独特の響きだ。でもそれは旅人たちの朝と夜のお食事の後に洗い場から聴こえてくる筈の音で、真夜中に聴こえる音ではない。こんな時間に聴こえてくるのは、よほどこの宿の仕事が好きだったんだね。

2023-08-09 01:14:06
solaris @solaris1921

宿をテーマにしたあやかしツイートを連投したけれど、これ、シリーズ「幽玄の里」・・なんてタイトルで時々どうかな?w

2023-08-09 01:19:30