ゲーム『シュタインズ・ゲート』の動画などを配信した男に有罪判決、海外からは批判の嵐。著作権に対する考え方が国内外で根本から異なるのは何故なのか?

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2023年9月7日、国内でゲーム動画配信初の有罪判決が下されました。このニュースは海外ゲーマーの間でも瞬く間に広がりを見せ大きな話題となり、X(旧ツイッター)上ではほとんどの海外の人達のコメントは日本の法律(著作権法)はおかしいというものでした。その一方でほとんどの国内の人達のコメントは有罪は当然であるというものでした。

日本と海外とでこれほど著作権に対しての見解が異なるのは何故なのかを考えてみました。是非、皆さんの意見も聞かせて下さい。

ガイドライン違反のゲームプレイ動画などのYouTube投稿者に懲役2年(執行猶予5年)の有罪判決。ゲーム動画配信初の有罪判決に
https://automaton-media.com/articles/newsjp/20230907-263293/

『シュタインズ・ゲート 比翼恋理のだーりん』の“ネタバレ”動画などを配信した男に懲役2年・執行猶予5年および罰金100万円の有罪判決。ゲーム動画の無断配信を含む権利違反の有罪判決は初
https://news.denfaminicogamer.jp/news/230907z

通常は権利者の許諾なくガイドラインに従っていないゲームプレイ動画をアップロードするだけでは、権利者の要請によって警告を受けた後に動画サイトから削除されるだけです。

ゲームプレイ動画のアップロードや実況配信はもう当たり前に行われる時代となっており、レトロゲームのような現在では権利者不明の物も多数あります。ガイドラインに沿っていないものも多くあり、ほとんどがグレーゾーンだとも言えますが、これは金銭のやり取りが発生していないから問題視されず、権利者や企業側もスルーし黙認している状態にあります。(そもそも実況・配信などの動画に関してのガイドラインが用意されていないゲームも多いです)

今でも何年も前のシュタインズ・ゲート(シュタゲ)のプレイ動画が国内外で多数アップロードされていることが確認できますが、収益化していないので問題視されておらず削除もされていないようです。

これは厳しいとされる任天堂など他の会社も同じスタンスであることが見て取れます。金銭のやり取りが発生する場合は無視できないが、ただのプレイ動画であれば手続きを経て、いちいち動画を削除したりなんかしていられないというのが実情でしょう。収益化されていたり、ゲーム機本体の改造を扱った動画、あるいはよほど悪質な内容でもなければ、一個人のゲームプレイ動画が問題視されることはまず無いと言えます。

非営利性が徹底されたRTA in Japanのような大規模イベントの場合は慈善団体への寄付としているのでレトロゲームでも問題視されていませんし、Vtuberなどの人気配信者によるスーパーチャット(投げ銭)も権利者の許可を得て配信されているので問題になっていません。

GSK | https://cohost.org/gosokkyu @gosokkyu

Kadokawa took a dude to court for posting condensed summary/spoiler edits of, among other things, a certain Steins;gate game, & he's been sentenced to 2 yrs prison (5-year suspended sentence) & a ¥1M fine🇯🇵 this is the first-ever conviction for sharing unauthorised game footage twitter.com/denfaminicogam…

2023-09-07 16:46:54
電ファミニコゲーマー @denfaminicogame

『シュタインズ・ゲート 比翼恋理のだーりん』の“ネタバレ”動画などを配信した男に懲役2年・執行猶予5年および罰金100万円の有罪判決 news.denfaminicogamer.jp/news/230907z ゲーム動画の配信を巡る著作権法違反での有罪判決は初 pic.twitter.com/MqaNdL2JAJ

2023-09-07 15:36:02
Kars @KaroshiMyriad

YouTuber Shinobu Yoshida was found guilty posting a let's play of Steins;Gate: My Darling's Embrace, sentenced to 2 years prison (suspended for 5 years) and a 1 mil yen fine. It's the first time someone has been found guilty of copyright infringement by posting gameplay videos. pic.twitter.com/JWsMN1uEJM

2023-09-07 19:27:52
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ニュースは英語に翻訳されツイートされていますが、多くが単純に「ゲームプレイ動画をアップロードして有罪になった」というものでした。

実際には被告は他にも多数の余罪があり、その行為は悪質なものでした。

  • ガイドラインにて禁止されたゲーム動画をアップロードしていた。
  • 2019年から長期間に渡りアニメ作品の違法アップロードも継続していた。
  • 動画はファストコンテンツとして許可なく編集され公開されていた。
  • 収益化され広告収入を得ていた。

また、これらに加え僕は「ビジュアルノベル」というジャンルが他のゲームとは大きく異なり、ストーリー重視の映像作品に近いことで、より大きな被害を受けているという旨のツイートを英語で行い海外の方達に説明しました。

これに対し海外の方達からは、否定的な意見のコメントが帰ってきました。返信を全て掲載すると長くなってしまうので、一部を日本語訳したものとして抜粋します。全部読みたい方はツイートのリプライを確認して下さい。

UNI-VATISTA @a85767628

@gosokkyu This post is misleading. The video was edited and monetized without authorization. Furthermore, he was doing the same thing with the anime. Posting edit videos, especially of visual novels, is not possible in Japan. It was only natural that he should be arrested.

2023-09-08 03:07:01
  • "当然のこと" いいえ、そうではありません。法律は自然なものではなく、文字通り人間が作り出したものだ。
  • まったく意気地のない対応で情けない。
  • この手のコメントで日本人男性が「法的にはこれができるのだから、そうすべきだ」というようなことを見るのはいつも面白い。「おい、なぜ彼らはこんなことができるんだ。これは間違っているよ」と言えないのと同じだ。
  • 彼は日本人です。はい、日本人は本当に狂っています。
  • 罰金は理解できるが、2年の懲役は理解できない。それは一部の性犯罪者が受ける刑期より長い。

シュタゲ自体が10年以上前の作品ということもあり、「古いのになんで駄目なの?」という純粋なコメントさえもありました。

Punchy @Succinct_Punchy

@a85767628 ガイドラインを法則として施行してたら、実質に民間企業は一方的に法律が作ることができる、それは危険だと思わない? これが基本的な難点ですというか西洋の視点です

2023-09-08 11:35:53

中には日本語で丁寧な返信をくれた方も居ました。西洋の視点では、企業がガイドラインを制定し警察と法を実行できるのであれば、人々の自由が奪われかねないという考え方です。これを危険だと見なしていることが分かります。この意見は元のニュースからやや話が逸脱し飛躍しすぎているとも感じますが、「個人の自由が脅かされ侵害される」ということに対しては根底から強い懸念があるようです。

私達、日本人は日本においては社会や企業などの定めたルールには従うのが当然だという考えの方がほとんどでしょう。しかし、欧米では個人主義が基本であり、日本では集団主義が基本的な考え方であることから、お互いに事情や物の見方が異なるのは当然だと言えます。外国(主に西洋諸国)では、私達日本人が思っている以上に、個人の自由が尊重され重視されていることが分かります。

日本に存在しない「フェアユース」と「フェアディーリング」

著作権に関しては、海外の国の中には「フェアユース (fair use)」や「フェアディーリング (fair dealing)」という法原理がある国もあります。

「フェアユース」とは、一定の条件を満たしていれば、著作権者から許可を得なくても、著作物を再利用できることを示した法原理です。

アメリカ合衆国などでは、著作物を公正利用(フェアユース)する場合、著作権者の許諾がなくても、著作権の侵害にあたらないとする考え方(著作権法)となります。

例えば、学校教育・報道・研究・調査などの目的で適正に利用する場合などが公正利用(フェアユース)にあたります。

ただし、公正利用(フェアユース)されていないと判断される場合、収益化の対象となります。

YouTubeのフェアユースに関するよくある質問
https://support.google.com/youtube/answer/6396261?hl=ja

フェアユース・フェアディーリングとは?
https://help.towercloud.jp/faq_detail.html?id=300071

2023年5月29日
任天堂の著作権に対する厳しい姿勢は、ゲームが持つインタラクティブな可能性を狭めている
https://wired.jp/article/nintendo-copyright-zelda-mod/

任天堂は今年4月、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をマルチプレイ化したMOD動画などを投稿した著名ユーチューバーに対し、著作権侵害だとして動画の削除要請をした。投稿主は「フェアユース」を主張しているが、この概念の法的解釈はかなり不確実だ。

欧米にも著作権に厳しい企業はあります。ディズニーが最も有名でしょう。ですが、実際にはそのディズニーでさえもフェアユースでの作品利用や二次創作の自由をある程度認めているのが現状だと言えます。(国内では後述するようにアメリカの著作物が日本で利用される場合には日本の著作権法が適用されるので事情が異なってきます)

著作権切れ(パブリックドメイン)を利用し、ディズニー自身がアニメや二次創作で新しい物を制作したり、2021年末にはくまのプーさんがパブリックドメインになりホラー映画が制作されたことも話題になりました。
https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/skillup/00009/00140/

日本でも著作物が自由に使える場合があり、文化庁のサイトで紹介されています。主に「私的使用のための複製(第30条)」「引用(第32条)」「営利を目的としない上演等(第38条)」などです。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/gaiyo/chosakubutsu_jiyu.html

海外では日本と比べて遥かに著作物に対する認識が甘く杜撰な印象を受けます。日本のサブカルチャーコンテンツが、YouTubeの動画説明欄にフェアユース目的での利用と記載され、外国人によってアップロードされていることが許されていたりとかなり自由な印象です。

外国の著作物も保護されるの?
https://www.cric.or.jp/qa/hajime/hajime5.html

日本において著作権侵害は犯罪であり、被害者である権利者が告訴することにより侵害者を処罰してもらうことができます(親告罪。一部を除く)。

著作物が利用される際の法律の適用に関しては、例えば、日本の著作物がアメリカで利用される場合にはアメリカの著作権法が、逆にアメリカの著作物が日本で利用される場合には日本の著作権法が適用されるのが原則です。

東映アニメーションと海外YouTuberの対立

このフェアユースやフェアディーリングを巡って、東映アニメーションは海外YouTuberと編集されたアニメ動画の削除を争ったことがありました。最終的にはYouTube側の判断で削除された動画は復活し、日本からは動画を閲覧できなくする処置がされて決着しています。

2023年9月6日
登録者800万人の海外YouTuber、東映アニメから著作権侵害の申し立てを受ける
https://mdpr.jp/news/detail/3937325

2022年1月30日
著作権侵害で動画150本削除された日本アニメの考察系YouTuber、動画の復活を報告
https://mdpr.jp/news/detail/2984633

過去には国内でも日本音楽著作権協会(JASRAC)のニュースが社会問題になりました。

2020円4月6日
「音楽教室」からも徴収するJASRACは、本当に表現者の味方なのか
日本版フェアユースが今すぐ必要だ
https://president.jp/articles/-/34221?page=1

2022年10月24日
JASRAC vs 音楽教室の争い 最高裁が判決 「生徒は曲の使用料の支払い不要 講師は必要」 教室は困惑「著作権料を取りに来るなら弾かない」
https://www.ktv.jp/news/feature/221024-1/

日本は著作権の考え方を変えていくべきなのか?

最後に日本は著作権に対する考え方が、他の世界の国々と比べて遅れているのか?考え方を改め変えていくべきなのか?という質問で締め、皆さんの意見を募りたいと思います。

国が違えば異なる考えを持った人達が居て、世界中に様々な意見があります。著作権に関しても、見解が異なるのは当然のことでしょう。単純に海外が正しくて、日本が間違っているとも思いません。しかし、日本は著作権に関して厳しすぎる遅れていると言われることもありますし、行き過ぎた楽曲使用料の請求をするJASRACに関しては腑に落ちないという人も少なくないのではないでしょうか。

今後更なる著作権法の改正、フェアユースやフェアディーリングのようなものの国内での導入なども、検討が必要になってくるのでしょうか。