四の舟×おろし丸によるスケッチブックリレー小説 ケイト部長~ケイトがカナダへ帰る日~

スケッチブックの二次創作小説。今回はケイトさん部長さんのお別れ話。
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四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko ワタシ、帰国スルコトニナリマシタ― ケイトがそのことを美術部のメンバーに打ち明けたのは、帰国の日まで二週間のことだった。美術部のメンバーは春日野先生を含めて、みんな一様にケイトの帰国を悲しんだが、不思議とケイト自身は、いつもと同じ、明るい表情をしていた。

2011-12-02 23:36:17
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 人は、やはり故郷というものとは切っても切れない縁があるのだろう。ケイトの笑顔はその縁の強さを現しているかのようで、美術部の面々も、ケイトの歩く道を邪魔しないで笑顔で送り出そうと、盛大な送別会を開いてやった。

2011-12-02 23:37:49
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 送別会はいつもの調子で行うと事前に確認し合っていたが、会が終盤に差し掛かる頃になると、一年生は涙を堪え切れなくなってしまった。そうしてせきを切ったように、二年生もみんな泣きだしてしまい、嗚咽を堪え切れていたのは先生と部長と根岸と、そしてケイトだけだった。

2011-12-02 23:42:59
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 須尭たちの取りなしで、なんとかその場は丸く収まったが泣いていなかった根岸が後々ややこしい目にあったのはまた別の話――そして誰もいなくなった美術部に、ケイトは一人たたずんでいた。

2011-12-02 23:46:51
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 夕暮れが次第に薄まり、外の景色が夜へと変わってくる。ケイトは明かりもつけず、暗くなった美術室でただ一人、机に腰掛け、美術室の中を眺めていた。「んっ。ケイト?」 美術室の扉がガラガラと開き、部長さんが姿を現した。「Oh! ブチョーサン!」

2011-12-02 23:50:38
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「……そろそろ、門閉まるぞ。」「ン、後モウ少し……」まるで名残を惜しむかのように、机に顔を押し当てるケイト。その様を少し困った表情で須尭は見ていた。「……なんだろうな」「エ?」「凄く悲しいし凄く寂しいのに、涙も出ないんだ。」

2011-12-02 23:53:44
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「…Why?」 「わからない。生れて初めてだ、こんなこと。いままでは、悲しい時は泣けていたのにな…。ケイトは、悲しくはないのか?」 「ソリャー、皆サンとお別れスルノハさみしいデスヨー。モウ、コノ美術室で、絵ヲ描くコトモデキナインデスカラ…」

2011-12-03 00:00:14
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「…ケイト」「エ?」「……お前、泣いてるぞ」慌てて頬を触れると、そこには涙が伝っていた。全く自覚していなかったその涙に、ケイトはただ慌てることしかできないでいた。「エ、エ、ナンデ、Why?」「……ケイト」

2011-12-03 00:02:19
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko ケイトの瞳から大粒の涙が流れ始めてくる。涙をぬぐっても、ぬぐっても、その流れを止めることができなかった。「ア、アレ? 変デスヨ…? 今日ハ、皆サンの前で泣かないト決めていたんデスヨ?ソレナノニ、どうして涙が流れてくるんでしょう…」

2011-12-03 00:06:00
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「コレハ一体ドウシテなんデスか?ブチョーサン……」「……」瞬間、本当に意思とは全く別の所で須尭の身体は動いていた。その大きな身体で、ケイトの身体をしっかりと、優しく抱きしめていたのだった。「……寂しい、な…」

2011-12-03 00:09:03
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「やっぱ、行ってほしくないな」 ケイトを抱きしめながら、部長はぼそりと呟いた。「ブチョーサン…?」 「もっと、ケイトと美術部で過ごしたかったなと、思ったんだ」 「…」 「絵を描いたり、焼きそば作ったりしたけど、もっといろんなことをケイトとしたかったよ…」

2011-12-03 00:14:44
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 須尭の言葉の一つ一つに、嘘偽りは一片も存在しない。その証拠に、ケイトを抱きしめる須尭の腕は決してケイトを離そうとはしていない。「…ブチョーサン」「いつまでも続くと思ってしまった自分が、愚かだったよ……」

2011-12-03 00:17:00
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「ケイトは留学生だったんだもんな… いつかは帰国するんだもんな…」 「ワタシダッテ…」 「んっ?」 「ワタシダッテ、美術部でもっと過ごしたカッタデスヨー…」 ケイトの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。送別会で流せなかった涙が一気にながれ出してしまったのだろう。

2011-12-03 00:21:22
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「…頼みがあるんだ、ケイト。」「エ?ナ、ナンデすか?」「もう少し……もう少しだけ、このままでいさせてくれないか?」

2011-12-03 00:23:02
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「…イヤデス」 「えっ… どうしてだ?」 「……ダッテ」 「だって?」 「……部長サンに抱キシメラレテイタラ、決心が揺らいデシマイマスヨー…」 「……」 「せっかく、故郷へカエルのに、これじゃあ、故郷で待ってル家族ニ申し訳ナイデス…」

2011-12-03 00:27:24
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「……そう、か すまない、ケイト」「……デモ」「ん?」泣きはらしながらも、どこかすっきりした表情でケイトは須尭を見つめていた。「…デモ、ブチョーサンに抱きしめられてイルト……落ち着きマス ダカラ」「だから?」

2011-12-03 00:29:48
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「ブチョーさん」「なん」 ケイトは瞳を閉じると、ふいに部長の唇にキスをした。「ケイト…?」 「お別れのキスデス」 にこっと、ケイトは泣きはらした目で、あのひまわりのような笑顔を部長に見せた。「ケイト…」 「モウ、ブチョーサン、泣かないデクダサイヨー」

2011-12-03 00:33:52
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「……泣いて、いるのか。俺は」「初メテ見マシタ。ブチョーサンの泣いてる所…」「……そうだな」

2011-12-03 00:36:46
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「悪いなケイト」 「イイエ~。部長サンはいつだって、ワタシの憧れデスヨ?」 「そうか、なんだか、照れるな…」 「ダカラー、部長サン。ワタシのお願い、キイテクレマスカ?」 「なんだ?」 「…海の向こうカラデモ、部長サンのコト、好きデイテモ、いいデスカ?」

2011-12-03 00:45:49
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「…ケイト」「?」「俺も…海の向こうから、ケイトの事を好きでいたい、それが答えでも……良いか?」時が止まったかのように、美術室の空気が澄んでいた。

2011-12-03 00:50:21
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「アリガトウゴザイマス、部長サン…」 「それは、こっちのセリフだぞ。ケイト」 「エヘヘ… 部長サンに好きと言えてヨカッタデスヨー。コレデ、トロントに帰って、モヤモヤシナクテスミマスヨ~」

2011-12-03 00:53:46
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 「そうか……そろそろ、帰るか。閉め出される前に。」「ハイ!ア、デモチョットソノ前に」美術室を出ようとする須尭に少し待つよう言った後、ケイトは美術室に向かって、深く深く一礼した。「Thanks a lot... See you again!」

2011-12-03 00:56:24
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 「And so long!! (またね!)」 ケイトはカバンを持って、美術室をあとにした。時々、ちらりと振り向きながら、自分が日本での多くの時を過ごした、思い出がいっぱい詰まった場所を、見つめて足を止める。それでも、最後は笑って、部長と一緒に歩きだした。

2011-12-03 01:02:06
焼き鳥P @Yakitori_P

@YOTSUnoFUNE 次彼女はいつ日本で得た友達と出会うだろうか。それは誰にも分からないことである。しかし、彼女は信じ続けるであろう。彼女は福岡のとある美術部で、かけがえのないものを得てきたのだから。

2011-12-03 01:04:25
四の舟(よつのふね) @YOTSUnoFUNE

@oroshiwanko 部長はケイトを駅まで送っていった。明日はケイトが帰国する日だが、残酷なことに平日である。内申のかかっている部長や、成績のかかった一年生、二年生も、学校を休むわけにはいかない。それはすなわち、誰もケイトを空港まで見送りに行くことができないことだった。

2011-12-03 01:07:19