SOW氏による、朝鮮の昔話「木こりと虎」

朝鮮の昔話には、虎や熊が人と交わる手のが多いです
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SOW@ @sow_LIBRA11

作家のはしくれでございます。「戦うパン屋と機械じかけの看板娘」(HJ文庫)全10巻。「剣と魔法の税金対策」(ガガガ文庫)全6巻「機動戦士ガンダムSEED ECLIPSE(ストーリー担当)」ガンダムエースにて連載中です!

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そういえば、みんな大好き「その声は、我が友李徴子ではないか!?」でおなじみの「山月記」なんだが、元ネタは中華の古典と言われるこの話の逆サイド的な昔話が、朝鮮にあってね、「木こりと虎」って言うんですが。

2023-09-18 15:25:41
SOW@ @sow_LIBRA11

あるところに貧しい木こりの男がいた。病の母との二人暮らし。少しでも多くの木を切ろうと、森の奥に入り込みすぎてしまい、とんでもない巨大虎に遭遇する。 食い殺す気まんまんの虎を見て、錯乱した木こり、とっさに叫ぶ。 「兄さん、兄さんじゃないか! 探してたんだ!!」

2023-09-18 15:27:37
SOW@ @sow_LIBRA11

その時、不思議なことが起こった。 虎が返事をしたのである。 「え、俺? 俺、人間だったの?」 わずかに見えた生への光明に、木こりは必死にすがり、口先八丁を並べ立てる。 「忘れたのかい兄さん、ああこんな虎になってしまって。俺はずっと探してたんだ。母さんも心配してたよ」と。

2023-09-18 15:28:54
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首をひねる虎。 「いや俺、人間だった記憶ないんだけど・・・いや待てよ、いやそうか、言われれば思い当たるフシがある」 そういうと、虎は言う。 「俺、かーちゃんいないんだ。生まれたときからずっと一人でな。どんだけ探しても見つからなくて。そうか、人間なんだから、虎の母親はいないよな」と。

2023-09-18 15:30:22
SOW@ @sow_LIBRA11

信じ込んでしまった虎、木こりを弟と認めてしまう。 「できれば母上に会いたいが、このような姿では恥ずかしくて合わせる顔が(文字通り)ない。どうかご健勝にと伝えてくれ。あとお前、こんな奥まで入ったら危ないぞ」と言って去っていった。

2023-09-18 15:31:37
SOW@ @sow_LIBRA11

やれ命拾いしたと思った木こり。 だが、それから不思議な事が起こる。 木こりの家の前に、イノシシが置かれていた。 首筋には虎の牙の跡。 あの虎が置いていったのだ。 それからも、何日かおきに、そういった獲物が置かれるようになった。

2023-09-18 15:33:07
SOW@ @sow_LIBRA11

その肉と毛皮を売ることで、木こりの暮らしは楽になる。だが怪しんだ母親に問い詰められ、ついに顛末を話すと、母は言う。 「ああそうなのか、その虎は、私を母と慕ってそのような孝行をしてくれているのか。ならば私も母として礼をしなければならない」と。

2023-09-18 15:34:27
SOW@ @sow_LIBRA11

病床の身を無理して立ち上がり、森に向かって母は言う。 「息子よ、ありがとうよ。いつかお前と会える日を楽しみにしているよ」と。 虎が「会える日」は、人の姿に戻った日。 だがそんな日は来ない、虎は虎なのだから。

2023-09-18 15:35:39
SOW@ @sow_LIBRA11

そうしてしばらくたち、それなりに滋養のあるものや、薬も買えるようになった木こりの家だが、母親はついに病で命を終える。 葬儀が行われた夜、森から聞いたこともないような獣の吠える声が響き、参列者たちは震え上がる。

2023-09-18 15:36:58
SOW@ @sow_LIBRA11

だが木こりだけはそれを理解する。 「ああ、兄さん。知ってしまったのだな」と、それは虎の咆哮だった。啼き声ではない、泣き声だ。 母を失い、悲しみにくれる「息子」の涙の声だった。

2023-09-18 15:38:20
SOW@ @sow_LIBRA11

それから木こりの家に獲物は置かれなくなった。 ついに虎は去ってしまったのかと思われたが、数カ月後の後、再び森に入ると、二匹の子虎がいた。 子虎たちは木こりに尋ねる。 「叔父上様ですか」と。

2023-09-18 15:39:27
SOW@ @sow_LIBRA11

子虎たちは、かの虎の子どもであった。 虎はどうなったかと問う木こりに、子虎たちは答える。 「父は死にました」と。 母が死んだあの日から、悲しみに暮れるあまり食を絶し、衰弱して死んだのだという。

2023-09-18 15:42:25
SOW@ @sow_LIBRA11

「私はなんという恥知らずなのだ。このような獣に成り果ててしまったがゆえに、母の死に目にも会えなかった。なんという親不孝者なのだ」悔いて悲しみ、虎は死んでしまった。 それを聞いた木こりは、虎の亡骸を探し、母の墓の隣に「家族」として弔い、二匹の子虎を引き取って育てたという。

2023-09-18 15:43:49
SOW@ @sow_LIBRA11

古来より「孝悌」という教えがある。 孝は親を慈しみ、親は子を慈しむ。 悌は弟は兄を大切にし、兄は弟を大切にせよ。 そういう道徳の教えである。 獣でさえ、道徳を知れば、例え偽りの関係でも、人のように悲しみ人のように尽くす。

2023-09-18 15:46:21
SOW@ @sow_LIBRA11

しかるに世を見るに、人でありながら道徳を失い、獣のように生きる者が散見される。 弱き者を貪り喰らい、家族すらないがしろにするような恥知らずな者たち。 そんな者たちと、この虎、果たしてどちらが「正しい人」なのか――

2023-09-18 15:48:13
meat camp @meatcampe

@sow_LIBRA11 端々の価値観に大陸みを感じました

2023-09-18 20:08:35
みちゃん @michan_hero

@sow_LIBRA11 ありがとう、良い話を知った

2023-09-18 20:15:45
Ryoyafree @ryoya1971

@sow_LIBRA11 木こりは、自然に生きていた虎を 人間の価値観での罪人に仕立てて イノシシなどの賠償をさせた。 虎は罪悪感を抱えたまま死んで 子供達にも、嘘の教育をしている。 これ、「古典」なのだろうか?

2023-09-18 19:38:22