リレー小説「人間考察」（企画者：schwarzさん）

*ris* @xcatenax

「君の生きる理由は何？」正解の無い答えは、苦手だ。例えば数学なら答えは決まっているのに、何故人は曖昧な問いばかりを好むのだろう。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 01

*ris* @xcatenax

きっと、色々な人に同じ問いを投げ掛けて遊んでいるのだろう。確かに、しつこいようだが数学なら答えは1つだ。その他は「間違い」でしかない。だが、先程の問いは「考えた事も無い。気付いたら生きていた」「使命を果たす為さ」全てが当てはまる。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 02

*ris* @xcatenax

そして、此処からが肝心だ。自分の答えを探さなくてはいけない。誰かの模倣では、間違わなくても嘘になってしまう──たまたま、被ってしまう事はあっても。でも、考えた事は無い。なら、目標で代弁しようか。「死ぬ為に生きてるんだ」 #twnovel #リレー小説 #人間考察 03

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

…と、結論が出たところで私は、考えることを辞めた。何だか妙に喉が渇いてしまったので、ビールを買いに行きたくなったのだ。午前2時。外は野良犬の気配さえもなく、街灯だけが明々と照っていた。まるで私だけがこの街で生きているようだった。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 04

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

自動販売機は節電のために電燈が消えており、注意深く見ないとそれが自動販売機だと認めるのは困難だった。まるでぬり壁のようなそれに空いたコイン穴に硬貨を落とせたのも奇跡としか呼びようが無かったが、その直後私は随分落胆することになる。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 05

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

ビールと思って買ったそれは、コーラだった。だがよく考えれば当然だ。未成年飲酒が厳しく取り締まられる今日、路上の自販機でビールが買えるものか。やれやれと、私は溜息を吐きながらプルトップを開いた。まあ、炭酸であることに変わりは無い。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 06

*ris* @xcatenax

しかし、どうして人はこう突然炭酸を欲するのだろう。「明日カレー食べたい」とは言っても「明日炭酸飲みたい」とは言わない。飲みたいとなったら、今すぐなのだ。もっとも、手軽さの問題もあるのだけれど。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 07

*ris* @xcatenax

もしかして、呼吸で吐き出される成分が炭酸に含まれているのだろうか。考えて、理科の成績が芳しくなかった私は思考をやめた。どちらかは光合成だった気もするが、酸素と二酸化炭素──人間がどちらを主に吐き出すか、迷ってしまったのだ。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 08

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

その場で飲み干すと、私は缶を自販機隣のごみ箱へ入れようとした。が、そこは既に一杯で、いくつかの缶は溢れていた。潰れて転がった缶もあれば、まるでオフィスの受付嬢のように元の形状のままちょこんとアスファルトの上に置かれている缶もある。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 09

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

悩んだ末、私は缶を捨てることを諦めることにした。家に持ち帰り、水道の水で中を綺麗に洗うと、取り敢えず食器の感想棚に置いた。ピカピカのコップの隣に空き缶というゴミが置いてある風景はなんともシュールな風景だった。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 10

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

だがそもそも空き缶とはゴミなのか。中身を飲んだら捨てるといいうのも人間の勝手な習慣だ。上部を切り取れば、ペン立てとしても再利用出来る。スープ缶を初めてアートとして捉えたアンディ・ウォーホル的発想が私には求められているかもしれない。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 11

千早 @tatsuya_chi

私は徐ろにその空き缶を手に取った。炭酸飲料のポップなデザインは、視点を変えて見れば現代アートと言えなくもない。そう思うと、単に資源ゴミ扱いでは可哀想になり、取り敢えず上部を取り除いてみることにした。それはあまり容易ではなかった。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 12

千早 @tatsuya_chi

スープ缶と違い、炭酸飲料の缶の上部は、フルオープンにされることを想定した作りでは無い。通常の缶切りには合わない。アルミ缶という柔らかい素材であったので、結局ニッパーで上部を切り取った。鋭く立った缶の切れ目はミニルーターで削る。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 13

千早 @tatsuya_chi

完成した姿は、確かにペン立てのようだった。そこら辺に散らばっていたペンやペーパーナイフを取り敢えず入れてみた。しかし、如何せんアルミ缶は自重の軽さからか、背の高い内容物に対して不安定な感じだ。私は方針を変更することにした。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 14

千早 @tatsuya_chi

空き缶に水を満たす。そして近くの空き地から名も知らぬ可憐な花を取ってきて、そこに挿した。現代的なポップな缶と野花のコラボレーション。これも悪くないかもしれない。私はそこで自動販売機前での思索を思い出した。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 15

千早 @tatsuya_chi

人間は炭酸ガスを呼吸の中で排出する。しかし、時に捨ててしまったものを惜しむかのように、それを再取り込みして清涼感に変える。空き缶も人間に捨てられるばかりでなく、生活に一服の清涼感を与えることができる。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 16

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

その時私の目から何かが落ちた。一瞬鱗が落ちたのではと思ったが、当然そんな現実とはかけ離れた世界の慣用句が実現する筈もない。落ちたのは涙だった。ひょっとして私は哀しんでいるのか。一体、何に対して。捨てる物と拾う物との狭間に於いてか。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 17

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

そして唐突に記憶が蘇った。思い出したくもなかった。思い出したくもなかったのに。完全に封をし、波の荒れ狂う伊豆城ヶ崎の如き断崖絶壁から投げ落としてきたつもりでいた記憶だった。それは数年前のこと。あの頃の私にはまだ共に暮らす人がいた。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 18

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

家族も友もいず人と関わる術を知らなかった私が、心を通わせた唯一の人だった。私と同じく孤独に打ち震えていたあの人を、私は「共に暮らそうと手を差し伸べた」あの人の存在は、長い乾きの果てに得られた清涼感のような安らぎを私に与えてくれた。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 19

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

あの人が去って、私の生活は一変した。冷静に考えれば、元々いなかった人が再びいなくなっただけなのに。だがあの人を失った後の人生は、失う前よりももっと酷かった。それは私が初めて「捨てられる」者の気持ちというものを知ってしまったからだ。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 20

ひらばるまなぶ（平原学）＠もの書き @chocolatesity

「君の生きる理由は何？」思えばあの人は私にその理由を与えもし、奪いもした。あの人のことを恨むべきなのだろうか。けれど私が望むのは、あの人を殺したいなどという醜い思いでは無い――ただ、会いたい。もう一度会って話がしたい。それだけだ。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 21

*ris* @xcatenax

あの人も、同じ様に考えてくれているだろうか。否、それは期待をし過ぎだと溜め息を吐いた。最早、私の事は記憶の片隅にすら無いかも知れない。それ程に、あの人の「人との関わり方」はハッキリしていた。 #twnovel #リレー小説 #人間考察 22