数日前に地上波で深夜に放送されたアニメのレイ◯シーンとそれに関連してSNS上で可視化された明確な加害と被害について、すでに多くの人が言及していると思うけど、僕もクリエイターであり男性であるという2つの立場から自身の考えを述べておきたい。

我妻和樹（あがつま・かずき）@イラスト修行中 @zukizuki_kun

➀数日前に地上波で深夜に放送されたアニメのレイプシーンとそれに関連してSNS上で可視化された明確な加害と被害について、すでに多くの人が言及していると思うけど、僕もクリエイターであり男性であるという2つの立場から自身の考えを述べておきたい。

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②はじめに、当該シーンへの女性側の拒否反応に対して男性側から寄せられた「同じフィクションでも人殺しのシーンはOKでレイプのシーンがNGなのは何故か？」という声について、僕なりの考えを述べておきたい。

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③僕としては、どちらの行為も「絶対に描いてはいけないものというわけではない」と思っている。ただ、「何のためにそれを描くのか」「どう描くのか」については、制作者の倫理や知識や品性が問われると思っている。

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④現実には絶対にアウトな行為（殺戮・レイプ・暴力・差別等）が表現として許容されるのは、その行為そのものを享楽的に消費することが目的ではなく、その行為が作品全体のメッセージ性や現実への批判的視点に還元されるからだと思う。でなければその表現は社会に悪影響をもたらすものになってしまう。

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⑤つまり、「何のためにそれを描くのか」「どう描くのか」という目的と手法が作品の公序良俗性を担保できるかどうか、また制作者がその判断を間違わないための倫理を持ち合わせているかどうかが、こうした描写を評価するポイントとなる。そして多くの場合、良識ある視聴者はそれを見抜く。

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⑥そして今回のアニメの描写を見る限り、制作者がある一定の視聴者層を想定して「行為そのものを享楽的に消費すること」に寄せてしまった可能性は高いと思われる。そこに『はだしのゲン』のような「この悲劇を何としても伝えねば」という制作者のアートとしての矜持があるようには僕には思えなかった。

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⑦これは大衆迎合型のエンタメによくありがちなことだと思うのだが、要するに、その結果制作者の性的描写に対する無知と浅はかさが露呈してしまったのである。それは言い換えれば制作者の女性蔑視が顕著に現れた性搾取的な表現（本来は性暴力にカテゴライズされる）を公共に晒したことを意味する。

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⑧これがアダルトコンテンツなら何も問題にならなかったと思うのだが、よくよく考えるとそれもおかしいことで、逆に言えばアダルトコンテンツは性搾取的・暴力的な表現を守っていることになる。何故ならば、「性を男性に都合よく享楽的に消費すること」こそがアダルトコンテンツの本質だからである。

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➈本来アウトであるはずのこれが許されている背景には、男性優位の社会の中で女性の権利や尊厳が構造的に軽んじられ、男性への女性の性の隷属が圧倒的市場価値を生み出してきた背景がある。ここにアダルトコンテンツに慣れ切り、依存してしまっている男性とそうではない女性との圧倒的乖離がある。

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⑩その男性の麻痺した感覚をSNSに持ち込んだら、女性が拒否感を示すのは当たり前である。そこに描かれるのは「女性の尊厳を破壊する行為の非道さへの批判」ではなく、男性の性欲や加害欲や支配欲を刺激する目的に特化した「娯楽としてのレイプ」なのだから、その幻想は女性にとって大きな脅威となる。

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⑪そのことが理解できずに、「表現の自由が」と叫んでこの描写を批判する女性を攻撃する男性たちは、自分の満足のために誰かを不幸に陥れることの罪を考えたほうがいい。あなた方が叫ぶ表現の自由とは、女性蔑視に基く性の抑圧と支配という暴力（人権侵害）であり、それは本来の表現の自由とは異なる。

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⑫つまりあなたがたが守ろうとしているのは、性搾取的・暴力的表現をただただ自分のためだけに享受し続けることであって、それは尊重されるべき尊い行為などでは決してない。それは「俺の毎日のオナニーのために女を差し出せ」と騒いでいることとあまり変わらず、人として恥ずべき行為である。

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⑬対して女性には守るべきものがある。実際に望まぬ性行為で苦しんでいる女性の二次被害の防止、アダルトコンテンツの影響を受けてこれから生まれるかもしれない被害の防止。それらは実際に発生してしまえばものすごく苦しいもので、男性のほんの一瞬の快楽の欠損とは比べようのない甚大な被害である。

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⑭そして実際に今回の描写を批判したある女性が明確な被害に遭っている。男性からレイプをほのめかす卑猥で脅迫的なメッセージが彼女の元に届き、恐怖に怯える深刻な事態となった。男性側のメッセージは、同じ男性の僕から見ても異様と思うもので、彼女のポストに寄せられる言葉も異様なものだった。

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⑮たまたま一連のやりとりをリアルタイムで目にした僕でさえも、多くの方が励ましの言葉や助言を投げかけていたように、今すぐ何か動かなければと思わずにはいられなかった。その後どうなったのか分からないままだが、今はその女性の心身の安全をひたすら願っている。

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⑯以上、自分なりの考えを書いてみたが、結局のところ、今回のアニメの制作者の意図がどのようなものだったのか（迎合目的か、炎上目的か、単にアップデートされていないのか）は僕には分からない。しかしこれらの経緯から分かる通り、加害性とは悪意の有無に関係なく発生することは指摘しておきたい。

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⑰また今回の件で女性の性を軽々しく扱うような発言をした男性たちも、まずは女性たちの不安を真剣に受け止め、自分が自覚していないミソジニー（女性差別）に目を向ける必要があると思う。そこでは「知らなかったのだからしょうがない」とか「みんなやってることじゃん」といった自己弁護は必要ない。

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⑱一応誤解の無いように断っておくと、僕は自分のことを棚に上げて偉そうなことを言いたいわけでは決してない。これまでも発言しているように、僕にだって女性を消費したい欲求はある。ただ、それを認めながら、性搾取の問題を男性側の問題として、自分も社会も変えていかなければと思っている。

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⑲ちなみにアダルトコンテンツに関してもう少し言及すると、今回のアニメの描写とは比べ物にならないようなもので溢れていてもはや飽和状態と思われる。中には女性が見て吐き気を催すものもあるだろう。そして男性の多くはそうしたものを普通に受け止める。学歴とか、良い人であるとかは全く関係ない。

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⑳そうした一般の女性にはおそらく想像もつかないようなものが、女性からは見えにくい世界で溢れていて、物心付いた子どもたちの日常と隣り合わせに存在しているのが現代である。はっきり言って、世の男性のほとんどは、生まれてから死ぬまで頭の中は性的なことでいっぱいなのではと思う。

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㉑そこでは、身近なところで無限に膨大に広がるアダルトコンテンツが人格や価値観に及ぼす影響も大きいと思う。そこから発生する加害性は今回の件やネットの言論を見ても明らかだろう。これは心理学でいうところの「社会的学習」の一つといえるが、男性側も真面目に深刻に考えないといけないと思う。

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㉒以上、今回の件を通して自分なりに考えたことを書きました。参考として、性産業やアダルトコンテンツに関して少し前に書いた28連続ツイートを貼っておきます。 twitter.com/zukizuki_kun/s…

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➀映画業界内の性暴力やハラスメントもそうなんだけど、SNSの迷惑動画やそれを炎上させて自分が気持ち良くなっているインフルエンサー、デジタル性暴力など、映像メディアによる人権侵害の問題について、ドキュメンタリーの立場からどんな対処ができるのかということをずっと考え続けている。

2023-08-03 10:30:17

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㉓最後に、これは余談だが、今回の男性たちの反応を見てより強く思ったのが、ミソジニーや性搾取の問題と、障害者差別やバリアフリーの問題は、構図として非常に似通っているということである。というかあらゆる問題がそうなのだろう。すべては命と尊厳の問題として根底で繋がっている。

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㉔例えば障害の話で言うと、この社会のあらゆるシステムはいわゆるマジョリティ側である健常者側に合わせた仕様になっているため、健常者にとってはその恩恵が当たり前過ぎて、自分たちがはじめから特権的な立場にあるということに気付かない場合が多い。

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㉕そのため、いわゆるマイノリティ側である障害者から見た社会の不均衡を認識できず、当事者が感じている不便さやその感覚の分からなさから、その不均衡を是正したいという当事者の声（人権の観点からの正当的な要望）をワガママと感じてしまうのである。