新しい楽器:4.ケージのプリペアド・ピアノ
- nakagawa09
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今日はジョン・ケージ[John Cage 1912-1992]のプリペアド・ピアノについて。音と見かけはこういう感じのものです。youtu.be/jRHoKZRYBlY John Cage - Sonata V (from Sonatas and Interludes) - Inara Ferreira...
2023-11-13 12:31:46ピアノにネジやボルトやスプーンを差し込み、ピアノの音色を変えたものです。1940年代のジョン・ケージが発明したものです。ケージは1938年から作曲家として活動し始めた人で、この時期は、まだ偶然性の技法を始める前です。初期のケージは打楽器アンサンブルを組織して活動していました。
2023-11-13 12:31:47ある時Syvilla Fortという人にダンスにつける音楽を依頼され、しかし練習場所には打楽器アンサンブルが演奏する場所がなかったので、代わりに、ピアノ一台で色々な音色を出せる楽器として、プリペアド・ピアノを発明したとのことです。事前に色々とネジを挟むなど準備するので、prepared と言います。
2023-11-13 12:31:47曲毎に、ピアノのどの弦にどんな風に(垂直に/斜めから、など)、何を(どの会社の消しゴムか、どのくらいの長さの鍵か、など)、どこに(手前か奥かなど)挟み込むかといったことが厳密に指定されている、しっかりと記譜された楽譜を持つ作曲作品です。
2023-11-13 12:31:48これがプリペアド・ピアノのための最初の作品。1938/1940年の作品《Bacchanale》。僕はあまり「色々な音色」という感想にはならないのですが、どうなんでしょう。johncage.org/pp/John-Cage-W… | John Cage - Bacchanale - YouTube youtube.com/watch?v=3cTpdT…
2023-11-13 12:31:48事前に、しっかりと記譜された楽譜の指定に従い、かなり厳密にプリペアします。 youtu.be/kc3-C7Lnzh0 Michael Greilsammerm, David Greilsammer - John Cage - "prepared piano"
2023-11-13 12:31:49なので、プリペアド・ピアノの曲の演奏会では、曲の数だけピアノの台数が必要なんだそうです(実際は、同じプリペアド・ピアノを使う曲が何個かあったりするみたいです)。
2023-11-13 12:31:50プリペアド・ピアノは、1950年代以降に音楽理念を大転換していったケージにとってはいわば過去の遺産でした。1950年代以降のケージはプリペアド・ピアノも使いましたが、あまり熱心に取り組んだわけではありません。ケージにとってプリペアド・ピアノは「音の唯一性」を教えてくれたもの、だそうです。
2023-11-13 12:31:50いくら同じ音が再現されるようにプリペアの方法を指定しても、プリペアされたピアノ毎に音は別ものになる、つまり、〈そもそも音とは生まれては消えていく一回こっきりの個別の存在なのだ〉ということをケージに教えてくれたもの、だそうです。ここらへんはケージの思想史にとっては重要ポイントです。
2023-11-13 12:31:51詳しくはこちらをどうぞ。以下の話の元ネタもこれです。 | Audible Culture - 2007年03月 ノイズの音楽化 - プリペアド・ピアノの場合 sites.google.com/site/audiblecu…
2023-11-13 12:31:52そこで詳しく論じたのですが、プリペアド・ピアノという「楽器」について調べていて面白かったこととして、このプリペアド・ピアノをケージ以上に気に入って〈普通の楽器〉として普及させたいと思った人がいた、ということがあります。
2023-11-13 12:31:52リチャード・バンガーという人です。彼は『ウェル・プリペアド・ピアノ』という教則本を書きさえしました。これ、何と翻訳されました。使われたのかな? | fukkan.com/fk/VoteDetail?… 復刊ドットコムによる『ウェル・プリペアド・ピアノ』(リチャード・バンガー)の復刊投票リクエストページです。
2023-11-13 12:31:53これはプリペアド・ピアノの教則本です。ピアノに挿入する物体が金属の場合、木の場合、布の場合などに分けてそのコツを丁寧に記述したり、プリペアド・ピアノをガムラン・ピアノと呼ぶことでその魅力をアピールしようとしたり、プリペアド・ピアノの普及に努めたものです(が成功したのかな…?)。
2023-11-13 12:31:53ケージのアーカイブを調査した時に気づいたのですが、1960年代以降にケージがプリペアド・ピアノに対する興味を無くした後にプリペアド・ピアノについて何か権利関係の仕事などがあると、バンガーさんに任せてたくさん手紙をやりとりしていた、という様子が残されていました。
2023-11-13 12:31:54ケージの手紙のアーカイブはNorthwestern Universityなどにあります。僕が調査したのは20年ほど前でその時はまだ整理されてませんでしたが、今はけっこうきっちり整理されていますね。素晴らしい。|John Cage Collection: Libraries - Northwestern University library.northwestern.edu/libraries-coll…
2023-11-13 12:31:55ケージの音楽の録音物って、たいてい、聞くだけではつまらないのですが、プリペアド・ピアノ作品は良い録音が多いと思います。マーガレット・レン・タンさんの演奏とか手堅い。| 映画『アート・オブ・トイピアノ/マーガレット・レン・タンの世界』 - YouTube youtube.com/watch?v=6vquQI…
2023-11-13 12:31:55ということで、どうオチをつければ良いか分かりませんが、プリペアド・ピアノは〈既存の楽器を改造したら何か作れるかもしれない〉ということを教えてくれますね。あと、〈作ったものに飽きても構わない〉とか〈高い楽器は改造しない方が良いかもしれない〉とか?
2023-11-13 12:31:56バンガーさんによれば、プリペアド・ピアノは元のピアノを全く傷つけることなくすぐに元通りに使える、とのことです。でも、最近(数ヶ月前ですが)、silenceというケージ関連のMLで「プリペアしたら当然調律はおかしくなる」という話になっていました。どちらがホントか僕は知りませんが。
2023-11-13 12:31:57最後に宣伝。『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』というタイトルでナカニシヤから本が出ます。サウンド・アートと呼ばれるタイプの視覚美術と音楽とメディア・アートとサウンド・インスタレーションについて、その歴史をまとめています。よろしくお願いします!
2023-11-13 12:31:57ケージについては、音楽の文脈から出現した系譜をたどりながら、多めに語っています。ケージの影響を音楽の変質・解体・限定として語る、というのは、博士論文以来のアイデアなのだけど、ちゃんと発表できたのはこの本が初めてかも。実験音楽クラスタの方も、お手元に一冊どうぞよろしくお願いします。
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