新しい楽器:6.鈴木昭男さんのアナラポス

単著『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』(ナカニシヤ、2023年)の宣伝を兼ねてはじめた「新しい楽器」という読み物です。
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nakagawa @nakagawa09

6.鈴木昭男さんのアナラポス:今日はアナラポスについて。「新しい楽器」の連投ポスト、来週から更新ペースを少し落とします。

2023-11-17 12:00:11
nakagawa @nakagawa09

今日は、鈴木昭男さんのアナラポスについて。 アナラポスというのは、手のひらに余るくらいの大きさの缶二つを数メートルのバネで繋いだもので、鈴木昭男さんは1970年代からずっとパフォーマンスで使っています。バネを擦ったり缶を叩いたり缶に声を入れたりして使います。 youtu.be/sveCfvKr0wM

2023-11-17 12:00:12
nakagawa @nakagawa09

糸電話とかアナログリバーブとかに似た仕掛けなわけです。似たようなものは簡単に作れるみたいで、真似して作って遊んでいる人はけっこうたくさんいるみたいです。僕も娘の粉ミルクの缶で作ろうとしたことがあります(材料だけ揃えてほったらかしてしまいましたが)。

2023-11-17 12:00:13
nakagawa @nakagawa09

ともあれとはいえ、こちら、鈴木昭男さんの専売特許みたいなところがあります。鈴木昭男さん以外にパフォーマンスで使っている人は見たことがありません。昭男さんのウェブサイトの名前もアナラポスという名前になってます。akiosuzuki.com/work/analapos/ ANALAPOS 時間の穴 – The Akio Suzuki Website

2023-11-17 12:00:13
nakagawa @nakagawa09

鈴木昭男さんは、1941年生まれです。なので、もう80代なのですが、とてもお元気な方です。今は京都の北の方の網野町というところに住んでいるのですが、山道も健脚でほいほい歩いて行きます。病院嫌いとのことですが、なんとも力強い。

2023-11-17 12:00:14
nakagawa @nakagawa09

鈴木昭男さんの年譜によれば、活動の最初は、1963年に名古屋駅のホームの階段からものを投げてドンガラガッシャンと音を出した《階段に物を投げる》というイベントのようです。その後、駅員さんたちに色々怒られたり、大変だったみたいです。|bio akiosuzuki.com/bio/

2023-11-17 12:00:15
nakagawa @nakagawa09

また、その後、「自修イベント」なるものを繰り返したとのことです。名古屋駅で行ったパフォーマンスもその「自修イベント」であるそうですが、これはどうやら、ひとりで色々な場所で音を出してみてどのように聞こえるか、を試す、という代物のようです。|bio akiosuzuki.com/bio/

2023-11-17 12:00:15
nakagawa @nakagawa09

鈴木昭男さんのお話とかまとめとかはたくさんあり、たぶん、資料として確定的で使いやすいのはこちらです。 素晴らしい。 | oralarthistory.org/archives/suzuk… 日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ/鈴木昭男オーラル・ヒストリー

2023-11-17 12:00:16
nakagawa @nakagawa09

こういう資料を読んだり何度かお会いしてお話して分かってきたのですが、鈴木昭男さんが人前でパフォーマンスや展示を始めたのは1970年代に入ってからで、それまでは、ひとりで音を聞くことに夢中になっていたようです。大阪万博が開催されていたこともあまり気付いていなかったとのこと。

2023-11-17 12:00:17
nakagawa @nakagawa09

その後、1970年代に南画廊で、アナラポスなど自分が作ったオブジェを展示して、それが美術手帖に取り上げられたり、武満徹や秋山邦晴が見に来たりしたことは、それなりに転機になったようです。70年代から80年代にかけては、小杉武久や吉村弘といった音楽家との交流や共演も増えています。

2023-11-17 12:00:17
nakagawa @nakagawa09

そんな昭男さんですが、最大の転機はおそらく1988年の《日向ぼっこの空間》です。これは、子午線上の京都府網野町の山中にレンガで音を聞くための場所を作り、一日中そこで鈴木昭男さんが音を聴いた、というものです。 akiosuzuki.com/work/space-in-…

2023-11-17 12:00:18
nakagawa @nakagawa09

これは、新旧の仲間や網野町だけでなく丹後一帯の人々の協力を得て、レンガを作るところから始めた一年がかりのプロジェクトとなったので、いわゆるソーシャリーエンゲージドアートではあります。ただし、音を聞いたのは鈴木昭男本人だけなので、いわゆる参加型の作品ではないです。

2023-11-17 12:00:19
nakagawa @nakagawa09

また「聴くことはなんだか面白そうだ」という想念を、この作品の概要を聞いた人々に感じさせるかもしれない、という点で、これは優れたコンセプチュアル・アートでもあります。作品コンセプトの強大さという点では、マックス・ニューハウス《タイムズ・スクウェア》以上かもしれません。

2023-11-17 12:00:19
nakagawa @nakagawa09

この作品や、1990年代以降に展開していく「点音」というプロジェクト(街中で耳を澄ます場所を指定する、鈴木昭男流のサウンド・ウォーキング)を通じて、鈴木昭男さんは「音を聞く達人」としての地位と評判を確立していきます。|道草のすすめ―「点音(おとだて)」museumcollection.tokyo/works/6386868/

2023-11-17 12:00:20
nakagawa @nakagawa09

点音は、他には例えば、こちらを参照 youtu.be/GzA9m8xNVf8 鈴木昭男「点 音(おとだて)」in デュッセルドルフ – Akio Suzuki (o to da te – Düsseldorf, ...

2023-11-17 12:00:21
nakagawa @nakagawa09

僕は、鈴木昭男さんが、「音を出すこと」ではなく「音を聞く/聴くこと」を基点あるいは起点にして自分の活動を組み立てているのは、他の多くの作家と決定的に異なる、と考えています。「聴くことを提示したサウンド・アーティスト」として位置づけられるのではないか、と。

2023-11-17 12:00:21
nakagawa @nakagawa09

聴くことの重要性を言葉や思考で説得的に示した作家ではなく、「聴くことは面白い」ということをストレートに表現した作家として、位置づけられるんじゃないかな、と考えながら、『サウンド・アートとは何か』の第6章でも最後にそういう試論を提示してみました。

2023-11-17 12:00:22
nakagawa @nakagawa09

ということで、特にオチはありません。楽器というのは、必ずしも常に「音を出す」ことを最終的な目的として使われるとは限らないのだ、とか言っておくと良いかもしれない。あるいは、そうでなくとも、誰かニュー・アナラポスみたいなものを作ってくれる人が出てきたら面白そうだな、とか言っておこう。

2023-11-17 12:00:23
nakagawa @nakagawa09

最後に宣伝。『サウンド・アートとは何か 音と耳に関わる現代アートの四つの系譜』というタイトルでナカニシヤから本が出ます! サウンド・アートと呼ばれるタイプの視覚美術と音楽とメディア・アートとサウンド・インスタレーションについて、その歴史をまとめています。よろしくお願いします。

2023-11-17 12:00:23
nakagawa @nakagawa09

鈴木昭男さんのことは、第六章でサウンド・インスタレーションについて論じた最後に、キー・パーソンとして位置付けて語っています。アナラポスについては、第三章で、〈便宜的にそう呼ばれるサウンド・アート〉としての創作楽器の事例として説明しています。

2023-11-17 12:00:24
nakagawa @nakagawa09

そういえば、もう10年以上前に、プリペアド・ピアノとアナラポスを題材に「創作楽器のジレンマ」を定式化しようとしたこともありました。|Audible Culture - 2011年09月 楽器の運命―創作楽器の場合 sites.google.com/site/audiblecu…

2023-11-17 12:00:24
nakagawa @nakagawa09

以上です。それでは。来週から「新しい楽器」の投稿ペースを少し落とします。

2023-11-17 12:00:25