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せかさん自ギルドまとめ

せかさん自ギルド(俺様最強大海賊団)に関するツイートまとめ 設定、感想、小話、怪文書をだいたいゲーム中の時系列順に並べたごった煮です
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炭(すみ) @sumi57494532670

@sq_tale 「大将、あんたに客だぜ」 「んあ?」 アーマンの宿、その一室にて。ドナテロが床で寝転んでいるヴィンセントに声を掛けた。今日は非番。シンシアほかファーマー四姉妹が資金稼ぎのため迷宮に潜っている間、そのリーダーは人目をはばかることなく惰眠を貪っていた。#俺様最強大海賊団

2023-11-17 23:44:55
炭(すみ) @sumi57494532670

「誰だ?」 床に仰向けになりながら股を大きく開き両足だけベッドの上に投げ出すという、なんともだらしない格好のままヴィンセントは返事をした。脱ぎ散らかされた衣類や調度品がこの部屋の主の性格を如実に物語っている。 「見ない顔だ。おそらく新人冒険者だろう。俺達のギルドに加入したいらしい」

2023-11-17 23:44:56
炭(すみ) @sumi57494532670

「女か?」 「さあ、どうだったかな」 ドナテロは肩をすくめた。 「だってアンタ、男だって言ったら会わないつもりだろう」 「…ちっ」 ヴィンセントは小さく舌打ちするとごろりと寝返りを打った、ドナテロの口ぶりから何かを察したらしい。ふて寝の姿勢である。ドナテロはやれやれとため息を吐いた。

2023-11-17 23:44:56
炭(すみ) @sumi57494532670

「なあ、大将」 「うるさい。俺様は忙しい。適当に追い返せ」 ヴィンセントはおざなりに返事をして床に転がっていた酒瓶を足の指で器用に掴むと、そのまま口元に持っていき、一息に煽った。口の端から酒が溢れ床が汚れるのも意を介さず喉を鳴らし、臓腑の底から熱く湿った曖気をげふっと吐き出す。

2023-11-17 23:44:57
炭(すみ) @sumi57494532670

行儀という言葉への挑戦とも思える自堕落ぶりにさしものドナテロも眉をひそめた。 「だが、なあ。アンタ、これで何回目だい?」 入団希望者が現れるのは今回が初めてではなかった。深都発見という偉業を成し、今や第三階層の探索を進めているこのギルドは海都の中でもちょっとした注目を浴びていた。

2023-11-17 23:44:58
炭(すみ) @sumi57494532670

「あのな…それはこっちが言いてえんだよ」 ヴィンセントは不機嫌そうに空いた酒瓶を放り投げた。現れた入団希望者は何故か男だけだった。それも筋肉隆々で腕っぷしに自信があり、顔に傷や入墨があるような者達…一般的に言えば"荒くれ者"というカテゴリーに属する強面(こわもて)ばかり集まった。

2023-11-17 23:44:59
炭(すみ) @sumi57494532670

これには歴とした理由があり、つまりは普段の不徳の致すところ、粗暴で乱雑、女と見るや誰彼構わず声をかけ男と見るや所構わず喧嘩をふっかける、おまけに酒癖悪く酷く泥酔した時など目を覆い口はばかる程の醜態を晒し、それでも出禁にならないのはひとえに女将の人徳に依るものだろう。

2023-11-17 23:44:59
炭(すみ) @sumi57494532670

迷宮に潜っている間はともかく往来では素面であることが少なく、女冒険者達からの評価は最悪、曰く「関わり合いになりたくない」というのが大概で、多少功績を上げたところで諸々の負債を帳消しには出来ないというのが実情であった。…これでも、シンシアが加入してから素行は多少ましになったのだが。

2023-11-17 23:45:00
炭(すみ) @sumi57494532670

「強そうなのばかり集まってきて結構なことじゃないか」 「そういうのはもう間に合ってんだよ。いいか。俺様が冒険に求めてるのはロマン、そしてロマンス!断じて男だけの筋肉謝肉祭を開催したいわけじゃない」 「シンシア達がいるじゃないか」 「………」 ヴィンセントはドナテロをギロリと睨んだ。

2023-11-17 23:45:01
炭(すみ) @sumi57494532670

睨まれたドナテロはどこ吹く風と言ったようにさらりと受け流した。女が欲しいという要望を受けてシンシア達"妙齢"のファーマーをどこぞからスカウトしてきたのは何を隠そうこのドナテロだった。そして、この男は自らの魂を捧げても良いと思っているほど心の底からシンシアにべた惚れしているのだった。

2023-11-17 23:45:02
炭(すみ) @sumi57494532670

「大将、女性は歳を重ねる毎に美しくなるもんだぜ」 「…他人の趣味を今更どうこう言うつもりはねえ。だが一言だけ言わせてもらう。お前はどうかしている」 「人間、外見より中身だと思うがねえ」 顎を撫でさすりながら飄々と言ってのけるドナテロの態度にヴィンセントはカチンとした。

2023-11-17 23:45:03
炭(すみ) @sumi57494532670

「俺様には枯れ果てた花を愛でる趣味はねえ!誰が好んであんなしわくちゃ妖怪ババアどもを――」 「――だ〜れがしわくちゃ妖怪ババアだって?」 「げえっ!シンシア!?」 気付けばドナテロの後ろに一人の老婆が佇んでおり、大きな円匙《シャベル》を肩に担いだ姿が空恐ろしい雰囲気を醸し出していた。

2023-11-17 23:45:04
炭(すみ) @sumi57494532670

「真っ昼間から酒かっ喰らって高いびきたあいいご身分じゃないか。え?」 「な、なんでここに。採集に行った筈じゃ」 「ちょいと忘れ物をしてね。それで戻ってみりゃこの有り様かい。確か鍛錬に勤しむって話じゃなかったっけねえ」 「はは…」 額から冷や汗が滲み出た。姿勢は既に正している。

2023-11-17 23:45:05
炭(すみ) @sumi57494532670

「さ、さーて。そんじゃ剣の素振りでもしてこようかな…」 「待ちな」 一刻も早くこの場から逃げようとしたヴィンセントをシンシアが止めた。 「あんた、そんなこと言って酒場に繰り出すつもりだろう」 「ギクッ」 図星だった。狼狽するヴィンセントを見てシンシアは小さくため息を吐いた。

2023-11-17 23:45:06
炭(すみ) @sumi57494532670

「入団希望者がいるんだろう?どうせ暇なんだ、会っておやりよ」 「え、なんでそれを」 「なぜって、さっき本人から宿の外で話しかけられてね。綺麗な長い髪だったねえ」 「何!?」 どういうことだ、とヴィンセントがドナテロに振り返る。 聞かれなかったからな、とばかりにドナテロは肩をすくめた。

2023-11-17 23:45:06
炭(すみ) @sumi57494532670

「もう一人の方もなかなか美人だったねえ」 「二人もいるのか!?」 「まあ、でもどうせ断るんだろう?ならやっぱり私の方から断っておこうかね」 「いやいやいや!そこはやはりリーダーの俺様が直接会って返事すべきだろう、うん、そうすべきだ!」 「そうかい?遠慮しなくても…」 「してない!」

2023-11-17 23:45:07
炭(すみ) @sumi57494532670

先程までのだらけぶりはどこへやら、心弾んだヴィンセントはウキウキと部屋を飛び出した。 「ああ、いつまでも立って待ってもらうのも悪いからね。近くの喫茶で待つように言っといたよ…って聞かずに行っちまった。ドナテロ、あんたも付いて行きな。ついでに他の連中も叩き起こしてね」 「了解」

2023-11-17 23:45:08
炭(すみ) @sumi57494532670

それにしても、とドナテロはシンシアの顔を見た。 「なんだい?」 「いや、相変わらず鮮やかな手並みだと思ってね」 「ふん、嘘は言ってないだろう?」 「違いない」 二人は顔を合わせて笑った。 それからシンシアは迷宮に戻り、ドナテロは未だ寝ていた他のメンバーを連れてヴィンセントを追いかけた。

2023-11-17 23:45:09
炭(すみ) @sumi57494532670

待ち合わせ場所は街の喧騒から少し外れたところにある喫茶店だった。日当たりの良い店のテラスには桃花心木《マホガニー》製のテーブル席がいくつか並んでおり、木陰から爽やかな風を運んでくる。午後の緩やかな時間を愉しむには相応しいだろうその場所に、件の二人組は居た。

2023-11-17 23:45:10
炭(すみ) @sumi57494532670

腰のあたりまで伸びた長く艷やかな金色の髪に長い睫毛、整った目鼻立ち。カップを優雅に口に運ぶ姿は気品と風格に満ちており凛とした立ち振る舞いは王族のそれを連想させる。煌びやかな白銀の鎧を纏うその姿は物語から出て来た白馬の王子のようで―― 「――って男じゃねえか!」 ヴィンセントは絶叫した。

2023-11-17 23:45:11
炭(すみ) @sumi57494532670

「あ〜それでは第七百七十七回俺様最強大海賊団面接試験を始める。俺は副船長のシドゲイルだ。よろしくな。まずは自己紹介と当ギルドへの志望動機を…」 「あの…」 金髪の青年が机に突っ伏しているヴィンセントをちらりと見る。 「ん?あー、いいのコイツは気にしないで。無視してくれ」 「はあ…」

2023-11-17 23:45:11
炭(すみ) @sumi57494532670

机に顔を埋めたままのヴィンセントがヒキガエルのような声を出す。 「おいシド。酒だ。酒注文しろ」 「ねえよ。ここは喫茶店だぜ」 「…あんの婆ァ」 シンシアがこの場を指定したのはこうなることを予見してのことだった。酒が入ってはまともな話し合いなど望むべくもないと予めわかっていたのである。

2023-11-17 23:45:12
炭(すみ) @sumi57494532670

まんまとしてやられたことに気付いたヴィンセントは憎々しげに呻いた。 「あーすまん。で、あんたらのことだが」 「はい。それでは僭越ながら、私から」 金髪の青年の傍らにいた人物が声を上げた。雪のように白い肌に華奢な体躯。鶯色の長髪に占星術師の衣服を纏ったその者は、ノアと名乗った。

2023-11-17 23:45:13
炭(すみ) @sumi57494532670

男性名を聞いたヴィンセントはやはりか、と思った。中性的で整った顔立ちをしており、一つ一つのパーツを見れば確かにシンシアが言っていた通り美形と言えなくもないが、痩せこけた頬と落ち窪んだ瞳と目の隈が如何にも病的で、歯に衣着せず言ってしまえば幽鬼《アンデッド》か何かと思う程であった。

2023-11-17 23:45:14
炭(すみ) @sumi57494532670

手入れも禄にしていない肌やほつれ気味な髪の毛などもそういった印象に拍車をかけていたが、何よりもその表情、本人は愛想笑いのつもりなのか、口元に張り付いた笑みが歪んだ三日月のようで胡散臭く、良い部分の全てを台無しにしており、いずれにしてもヴィンセントの守備範囲からは大きく外れていた。

2023-11-17 23:45:15
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