総特集=長期的リスク規制

長期的リスクを規制するにはどうしたらいいでしょうか。European Journal of Risk Regulation誌の特集「長期的リスクと将来世代」を一気読みして、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。
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吉良貴之|Kira, T. @tkira26

私は長期主義のプロなので、EJRR の特集号のランニング・コメンタリーをしよう。 cambridge.org/core/journals/…

2023-12-24 13:34:14
リンク Cambridge Core Long-term Risks and Future Generations EJRR Special Issue
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Steinkamp, T. (2023). Intergenerational justice as a lever to impact climate policies: lessons from the complainants’ perspective on Germany’s 2021 climate constitutional ruling. EJRR. cambridge.org/core/journals/… 気候変動に関わる基本権保護義務を一部認めたドイツ気候変動訴訟を分析。

2023-12-24 13:52:16
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

対象は2021年のドイツ憲法裁の判決で、 en.wikipedia.org/wiki/Neubauer_… Fridays for Future (FFF) 運動の当事者たちに取材。 en.wikipedia.org/wiki/School_St… 将来世代の権利を正面から認めるのは避けたものの、現在世代の生存と身体的インテグリティを基本権保護義務の対象とし、パリ協定順守状況が不十分と判断。

2023-12-24 13:56:49
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

He, Q., & Faure, M. (2023). Mitigation of long-term risks and the role of insurance: a behavioural law and economics perspective. EJRR. cambridge.org/core/journals/… 民間企業による保険は長期的リスクの対応に困難を抱えるため、インセンティブ変容に向けた政府のナッジ的役割を提唱。

2023-12-24 14:19:05
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

長期的リスク対応の必要は今般のパンデミックである程度は認識され、それに応じた保険スキームも出てきている。ただ保険会社の利益と消費者側の限定合理性ゆえに安定的でないので、インセンティブとリスク選好変容に向けた政府のナッジ的介入が重要。掛け金に差をつければモラルハザードも回避可能。

2023-12-24 14:24:07
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

長期的リスク(今のところ洪水などの自然災害が主)に備えた官民協働的な保険システムの構築はヨーロッパ諸国ではけっこう進んでいる。日本語で読めるレポートもいろいろある。 bousai.go.jp/kaigirep/hisai… sompo-ri.co.jp/wp-content/the…

2023-12-24 14:31:32
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

van Voss, B. H. (2023). The Prevention Cycle: State Investments in Preventing System Risks over Time. EJRR. cambridge.org/core/journals/… 社会全体に大きな影響を与えるシステムリスクについて、大きな災害が起こると一時的に備えが強まるものの、すぐ忘れられる「予防サイクル」の存在を指摘。

2023-12-24 14:42:18
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

テロ、原発、異常気象で例が出されているが、そうした「パニックと放置」が続くのは当然なので、長期的リスク対応の公共政策は国民の主観的リスクも計算に入れるべきだとする。① メディアと議会のつながりを断つ(!)、② 技術官僚的制度化、の2案があげられているが、政治不信がやけに強いですね。

2023-12-24 14:46:30
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Almada, M. (2023). Regulation by design and the governance of technological futures. EJRR. cambridge.org/core/journals/… デジタル技術のガバナンスについて、バイ・デザイン規制が長期的になればなるほど正統性の欠如や現在の技術による将来の固定化といった問題につながりやすいことを指摘。

2023-12-24 15:05:29
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

バイ・デザイン規制の中身が結局のところ設計者にしかわからなくなれば、法の支配の簒奪や、ブラックボックス化による正統性欠如になりかねないし、長期的には将来世代に対する死者の支配にもなると。補修や入れ替えが可能なモジュラー型アーキテクチャとか、知識プールの保障とかが必要だとされる。

2023-12-24 15:09:14
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Tosun, J., Geese, L., & Lorenzoni, I. (2023). For young and future generations? Insights from the web profiles of european climate pact ambassadors. EJRR. cambridge.org/core/journals/… 欧州気候変動協定のアンバサダーのプロフィールから、若年世代や将来世代へのコミットメントを分析。

2023-12-24 15:22:02
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

これは現在世代の誰が「将来世代代表」になりうるか?という探求の基礎作業で、社会的アイデンティティ(役割意識やプロフェッション)が影響を与えうるという仮説だが、多少はそう言えそうなもののそんなにはっきりもしない、という微妙な結果。これからの実験デザインのための叩き台という感じ。

2023-12-24 15:25:58
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Revel, M. (2023). How to open representative democracy to the future? EJRR. cambridge.org/core/journals/… 代議制民主主義の現在バイアスを克服するため、ランデモアのいう包摂的でオープンな仕組みとして、ロトクラシーとプロクシ民主主義を比較。

2023-12-24 15:46:18
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

①ロトクラシーと②プロクシ民主主義は、多様性と包摂という点から事前/事後の矯正と特徴づけられている。①はわかるものの、②は議員間の互選によって重み付けがダイナミックに変わる仕組みのようで、熟議民主主義の一構想だろうけど、実際にどう作動するのかはまだちょっとわからない。

2023-12-24 15:50:04
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

Kallenborn, Z., & Ackerman, G. (2023). Existential terrorism: Can terrorists destroy humanity? EJRR. cambridge.org/core/journals/… 人類の絶滅を目指したテロは可能か? 遺伝子組換えウイルス、人工超知能のような新技術の可能性はあるし、惑星衝突回避の邪魔をするといった間接的なものもある。

2023-12-24 16:01:39
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

今のところ可能性は低いとされているものの、それぞれの経路を分析して備えておくべきだし、いざ絶滅寸前までいったときに回復力を保持しておけるようにすべきだとか。この特集では最も、加速主義系長期主義を(支持まではしなくても)真剣に受け止めている論考ですね。

2023-12-24 16:05:23
吉良貴之|Kira, T. @tkira26

こんな感じで、リスク規制研究のジャーナルなのでそっち系の公共政策の基礎理論みたいなのが多いけれど、長期主義で問題になることがわりと広めにカバーされていますね。もちろん人口倫理まわりとか、哲学的な論点はもっといろいろある。

2023-12-24 16:08:05
まとめ 全人類を生きる私はまだ生後5ヶ月――「長期主義」の世代間正義論 William Macaskill, What We Owe the Future (Basic Books, 2022)のランニング・コメンタリー 5748 pv 7 30
リンク みすず書房 見えない未来を変える「いま」 | 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク | みすず書房 マッカスキル著、千葉敏生訳。これから生まれてくる膨大な人々の生は、私たちの行動にかかっている。未来の重要性を考慮し、世界をよりよく変えるための倫理学。 3 users
リンク 朝日新聞GLOBE+ OpenAI内紛劇の背後に「21世紀の優生思想」、EAコミュニティとe/accの危険性:朝日新聞GLOBE+ 「ChatGPT」の開発元である米国のAI(人工知能)開発組織OpenAIの内紛劇が世界を騒がせた。関連して「EA」「e/acc」という見慣れない用語がネットを飛び交った。内紛劇の背景にある「思想」対立とは 460 users 187