- thailandyoasobi
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#日本怪奇幻想読者クラブ ロバート・C・オブライエンの長篇『死の影の谷間』(越智道雄訳 評論社)を読了。放射能汚染により滅亡した世界で生き残った少女が、同じく生き残った男と出会うという物語です。 pic.twitter.com/Wmknh6bri5
2020-09-11 18:12:40核戦争により世界中に放射能が蔓延した世界。少女アンは、家にいた家族と共に生き残りますが、他の場所に出かけた家族は誰も帰ってこず、一人ぼっちになってしまいます。家に残っていた家畜や店に残された食料などで何とか一人暮らしていたアンのもとに、ある日、防護服を着た男が現れます。
2020-09-11 18:14:44警戒して様子を窺っていたところ、男は放射能で汚染された川で水浴びをして体調を崩してしまいます。 ルーミスと名乗った男は放射能の研究をしており、そのための防護服を開発していました。量産化する前に戦争が起こってしまった結果、唯一の防護服をまとって、ここまで来たというのです。
2020-09-11 18:16:04やがてルーミスは重態に陥りますが、アンの看護のおかげもあり回復します。しかし回復したルーミスは、アンに対して支配的な態度を取り始めます。危険を感じたアンは家を出て近くに隠れますが、ルーミスは段々と狂気じみた行動を取るようになっていきます…。
2020-09-11 18:16:39ほぼ人類が絶滅してしまった世界でようやく出会った少女と男、しかしながら、男の行動によりその関係性が破綻してしまう…というサイコ・スリラー的な作品です。 出会った当初は、その体調の悪さからアンに一方的に看護される立場だったルーミスが、
2020-09-11 18:17:29回復するにつれその支配的な態度を露わにしていきます。意識が混濁していた状態でのルーミスの寝言から、おそらく同僚を殺しているであろうことが分かるのですが、その時点では、まだアンは彼との関係をあきらめていません。
2020-09-11 18:17:40回復後に見せる冷たい態度や一方的な意見、ついには暴行に近い行為をするに及び、アンも彼のそばから逃げ出すことになります。虚栄心や利己心を見せるルーミスに対して、家を追い出されてなお、彼に食料を運ぶアンの優しさは対比的に描かれていますね。
2020-09-11 18:18:06さらに、もともと農作業や家畜とともに暮らし、自然と共に生きる力を持ったアンに対し、科学者として学び、核戦争後も機械や文明の利器に頼ろうとするルーミス。自然と文明の対比、という視点もあるようです。
2020-09-11 18:18:29アンとルーミス、二人が対立するシーン以外には、もっぱらアンが食料をいかに得るかというサバイバルシーンが描かれています。家畜を世話したり、野菜を育てたり、魚を捕ったりと、アンが駆使する様々なサバイバル部分は、それだけで興味深く読むことができますね。
2020-09-11 18:19:40滅亡後の世界で生き残った男女二人、というシチュエーションからも分かるように、聖書のアダムとイヴというイメージも強く作用している作品かと思います。実際、ルーミスに関しては、自分たちが新たな人類の両親になるべきだという意識を強く持っているようで、
2020-09-11 18:20:01そのためにアンの意思を無視して、一方的に事を進めようとするシーンも描かれています。ただ思いやりを欠いたその態度は、アンに拒否されてしまうことになるのです。
2020-09-11 18:20:10二人の関係が破綻に終わるであろうことは序盤から予感されてはいて、その意味で終始ネガティブな展開ではあるのですが、ラストでは主人公アンの新しい希望がほの見えることもあり、良い終わり方の物語ではありますね。
2020-09-11 18:20:29作者のオブライエンは、この作品を完成させる前に亡くなっているそうで、最後の数章は夫人と娘の一人ジェインが書きつないで完成させたそうです。ですが、継ぎ目が分からない自然なつながり方になっています。
2020-09-11 18:21:38