エリザ氏による、フィッシュ&チップスの起源

ユダヤ人由来の料理が、金融政策と迫害とか宗教改革等による外部環境の圧力とか
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エリザ @elizabeth_munh

いんたーねっとRAFちゃんねる

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フィッシュ&チップスほどイギリスらしいものはないと言われる。ブリティッシュパブに行けば必ず置いてるし、イギリス全土にはフィッシュ&チップスの屋台が一万件以上はあると言う。 ところでその歴史については恐らく余り知られていないものの、どちらも外から齎されたものとされる。 pic.twitter.com/LKFmNr1XtZ

2024-01-02 00:02:07
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エリザ @elizabeth_munh

フライドフィッシュの起源はユダヤ人にあり、彼らの食習慣とフライドフィッシュは強く結びついていた。 イギリスにおけるユダヤ人の歴史は11世紀、ウィリアム1世の時代に遡り、再興しかけていた貨幣経済に一早く乗れたユダヤ人達の財力に期待してウィリアム1世は入植を募る。

2024-01-02 00:06:38
エリザ @elizabeth_munh

以来、ユダヤ人は国王の大きな財源として保護されたものの、高利貸しでかつ権力から保護されるユダヤ人は民衆の怨嗟の的となり、13世紀末には騎士や小貴族ら軍事階級も借金漬けで首が回らなくなったため、時の王エドワード1世はユダヤ人を切ってその他の人達の歓心を買うことを選択。

2024-01-02 00:09:41
エリザ @elizabeth_munh

この時の追放はかなり強烈なもので、ただ一度だけ発布され、二度と布告されなかった。 こうしてイギリスにおけるユダヤ人の歴史は一旦途絶え、ユダヤ人コミュニティも消滅する。ところが16世紀、ルネサンス時代以降の近世になると状況が大きく変化した。 宗教改革の大波がヨーロッパを覆う。

2024-01-02 00:11:58
エリザ @elizabeth_munh

旧教と新教で揉めるドイツ、フランス。ガチガチのカトリシズムで固めたスペインに対して、イギリスはヘンリー8世の下、国王を首長とする英国聖公会を立ち上げ、いち早くローマ・カトリックのコントロールを脱する(最も内実はカトリックにかなり寄せていた)。 pic.twitter.com/EbtkyasTni

2024-01-02 00:15:03
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イギリスは自らをプロテスタント宗主国と自認し、エリザベス1世の頃には挙国一致でカトリックと戦う体制となり、ローマ・カトリックとその意に染まったスペインと激しく敵対する。エリザベス1世は教皇から破門まで受けた。 こうした中、反ユダヤ主義は後退する。今やユダヤ人よりカトリックが憎い。 pic.twitter.com/qDcRE63EcZ

2024-01-02 00:18:37
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エリザ @elizabeth_munh

カトリックが憎いのはユダヤ人も同じで、スペインに居住していたセファルディ系と呼ばれるユダヤ人達はレコンキスタが完遂すると、改宗か追放かを選択させられた。 ポルトガルに逃げたユダヤ人もいたものの、やがてスペインはポルトガルをも併合。

2024-01-02 00:21:30
エリザ @elizabeth_munh

カトリックに改宗しても差別が止むわけがなく、マラーノ(豚)と呼ばれる。まして改宗を拒めば、異端審問にかけられて最悪、死の危険があった。 そんなセファルディ系ユダヤ人達にとって重要な食べ物がペスカドフリートと呼ばれた揚げ魚で、これがフィッシュ&チップスのフィッシュの起源となる。

2024-01-02 00:25:15
エリザ @elizabeth_munh

ユダヤ人は食生活において厳しい宗教的戒律が定められており、このために他の民族に比べて衛生状態が良いと言う特徴があった(そのために尚更嫉妬を買った)。 その中の一つが安息日に関するルールで、金曜の日没から土曜の日没まで一切の労働を禁じ、火も使ってはいけない。即ち調理できない。

2024-01-02 00:29:55
エリザ @elizabeth_munh

このため、ユダヤ人達は金曜の日没までに翌日まで日持ちする保存食を用意する必要があり、ペスカドフリートもそのような用途に使われた。衣は内側の魚を保護し、冷めてもサクサクして美味しい。酢や塩に漬ければ平気で何週間も持つ。

2024-01-02 00:32:45
エリザ @elizabeth_munh

カトリックにも金曜日は魚を食べる日であるとする規定があり、スペインの隠れユダヤ教徒達は魚の日に擬態して密かに前日から作っていたペスカドフリートを食べる。 ユダヤ人と深く結びついたペスカドフリートは場合によっては命取りとなった。告発を受けて吊るされかねない。

2024-01-02 00:36:04
エリザ @elizabeth_munh

こうしてペスカドフリートを食べる事は宗教的な信念となり、文字通りユダヤ人にとってのソウルフードとなる。 さて、互いにカトリックとスペインが大嫌いなイギリスとユダヤ人は必然的に結びつき、エリザベス1世の頃から様々なユダヤ人達が能力を買われてイギリスにやってくる事になった。

2024-01-02 00:37:47
エリザ @elizabeth_munh

スペイン無敵艦隊の来寇をいち早く伝えたのもユダヤ人だし、艦隊に配備された砲に用いられる銅を効率的に作れるよう指導したのもユダヤ人だった。全ヨーロッパ的なネットワークを持つ彼らは最も耳聡く、二流国イギリスが超大国スペインを情報で圧倒する原動力となる。

2024-01-02 00:41:50
エリザ @elizabeth_munh

こうした背景からイギリスは他の国に比べて比較的ユダヤ人にとって住み良い国と見做されるようになり、1656年にはチャールズ1世を処刑し、イングランド共和国の護国卿に就任したクロムウェルもまた彼らを重用し、ユダヤ人コミュニティの存在を黙認した。 pic.twitter.com/oTLim3zUqf

2024-01-02 00:45:58
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商売に長けたユダヤ人は巧妙で、クロムウェルの味方をして追放したチャールズ2世の復位を阻止する一方、また別なグループはチャールズ2世に取り入り、生活を支援し、復位の手助けをすると言う両天秤戦略で互いに保険をかけ合った。 こうして、イングランド共和国崩壊後もユダヤ人の立場は揺るがない。 pic.twitter.com/JoFPy4kIYS

2024-01-02 00:49:07
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エリザ @elizabeth_munh

こうして17世紀以降、ユダヤ人コミュニティはなし崩しで成立し、徐々に社会で地歩を築いて行く。同時にペスカドフリートも『ユダヤ式保存食』としてイギリスで広まりを見せていった。 そもそもイギリスは無限にタラが獲れるニューファンドランドを持ち、海軍国である事から保存食とも縁が深い。 twitter.com/elizabeth_munh…

2024-01-02 00:53:01
エリザ @elizabeth_munh

ジョン・カボットは15世紀末のヴェネツィアの船乗り。イタリア語読みならジョヴァンニ・カボト。 中世、ヨーロッパ人にとって海と言えば北海か地中海で、特に実りの大きいアジア貿易は地中海が一手に引き受けていた しかし、拡大するオスマン・トルコがアジア貿易を閉ざす pic.twitter.com/k7SLhieWRQ

2023-04-13 19:12:10
エリザ @elizabeth_munh

19世紀に工業化が進むと、都市に出てきた労働者達は自宅に調理器具を持たず、また料理の心得も、そのために費やす時間も持たなかったため、外食の需要が急速に高まる。 それに応えたのがフライドフィッシュで、ディケンズの時代には倉庫に大量に蓄えられていたと言うから、これは冷たい保存食でしょう

2024-01-02 00:59:03
エリザ @elizabeth_munh

もう片方のチップスは比較的歴史が浅く、ジャガイモを食べる習慣をイギリス人は長く持たなかった。 最初に食べ始めたのはアイルランドに近いランカシャー地方の人たちと言われ、揚げたジャガイモのレシピ(木片に由来する)を持ち込んだのはフランス人とも言われる。

2024-01-02 01:01:54
エリザ @elizabeth_munh

いつ頃両者が結びついたのかはイギリスでも論争の的であり、一応の公式見解はあるもののあやふやで、チップスが北で、フィッシュが南で食べ始められていたのが徐々に合流したのではないかと言われている。 何にせよフィッシュ&チップスは最もイギリスらしいと言われつつ、その起源は移民にあった。

2024-01-02 01:03:57
エリザ @elizabeth_munh

当初こそ貧困や移民と結び付けられていたフィッシュ&チップスはしかし、豊富な栄養から大英帝国の労働者の命綱となり、大戦期には配給下の苦しい台所事情の中、なんとか自由販売を維持し、イギリス人の心強い『戦友』となり、チャーチルからも良き友と呼ばれるソウルフードとなった。

2024-01-02 01:06:18
エリザ @elizabeth_munh

紅茶の国イギリスは一切の茶葉を生産しない。 カレーが大好きだけどそれはインドから持ってきたもの。 美味しいものが食べたい? 中華料理は中々いけるよ。ジャマイカ料理もある。 因みに王家はドイツ系。 フィッシュ&チップスもまたその系譜にある。 イギリスのもの、イギリスのもの。 フィッシュ&チップスは多様性と言うイギリスらしさを体現すると言う意味で、正に最もイギリスらしい食べ物と言えるかもしれない。

2024-01-02 01:10:05
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