- asayukikomatsu
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「久美子先輩、わたしを黄前相談所の助手にしてくださいよ。わたし結構顔が広いし、お役に立つと思うんです」 奏の申し出に、久美子は困ったように苦笑しながら答えた。 「うーん、奏ちゃんにはこれからもいろんな情報を教えて貰うことはあると思うけど、助手ってのは違うかな」
2018-08-31 19:28:40「どうしてですか? わたしになにか問題でもありますか? わたし先輩のお役に立ちたいのに……」 奏の上目遣いは相変わらず計算されつくした可愛らしさ。しかし久美子はもはや慣れっこだった。やっぱり可愛いなあといつものように思いながらも苦笑を崩さず久美子は続ける。
2018-08-31 19:28:41「奏ちゃんは良い子だし、お友達も多いし、奏ちゃんには問題なんてないよ」 「ならなぜ……」 「でもね、だからこそ、奏ちゃんは、奏ちゃんたちの言う『相談所』にはなれない。誰からもそつなく好かれて、交遊関係が広くて、入れる会話の輪をたくさん持ってる奏ちゃんには無理だよ。
2018-08-31 19:28:42だって、なんていうか、わからないかな……」 説明が難しい。久美子は初めて言いよどんだ。 「つまり話が漏れたり、わたし自身が相談事の当事者になってしまうかもって事ですか?」 さすが優秀な後輩。久美子は内心舌を巻く。 「そうだね。当事者にならなくても、なんていうかなあ、
2018-08-31 19:28:42奏ちゃんはなんとなく他人じゃない感じがするっていうか、わたしより対人関係が上手いからね、相談事のある人と近しくなりすぎちゃうんだよね」 その点わたしはなんか常に他人事みたいな印象持たれやすいみたいで、と久美子はぼやきながら口を閉じる。
2018-08-31 19:28:43久美子は、一年生のあの日、あすかに言われた言葉を思い出していた。 「気になって近づくくせに、傷付くのも傷付けるのも怖いからなあなあにして、安全地帯から見守る」。そんな自身の性格、あるいは印象が、期せずして“相談所”なんて呼ばれる自分の立ち位置と部長の役職に繋がったのだろうか。
2018-08-31 19:28:44諦めとも自嘲とも取れる思いが込み上げる。でも。 「わたしはそういうわけだからこんな立ち位置にいるよ。でも、言っておくけどホントに無責任とか他人事じゃないつもり。部長だしね」 奏は“相談所”には向いてないという話をするつもりが、思わず自分自身の決意表面みたいなことを言ってしまった。
2018-08-31 19:28:44「わかりました」 奏がにんまりと笑って言った。 「頼りにしてますよ、『部長』、あと『相談所長』」 なんだかなあ、と思いながら、久美子は笑う。 「あー、はいはい。ほどほどにね」 黄前久美子部長の率いる北宇治高校吹奏楽部は、全国金賞を目指す。道のりはまだ始まったばかりだ。 【了】
2018-08-31 19:32:10twitter.com/asayukikomatsu… あ、途中で思いっきり誤字ってますね。お恥ずかしい。 ×決意表面 → 〇決意表明 です。
2018-08-31 23:19:51(正直、久石奏という人物と彼女の周囲について掘り下げが十分かというといささか自信が持てない一作ではありますがお楽しみ頂ければ何よりです。)
2018-08-31 19:41:05