12月19日深夜、その日僕は不思議な夢を見た。今まで生きてきた年数分、数えきれないくらいの思い出が走り抜けていく。はずなのに、それら一つ一つを拾いあげて思い出そうとしても、何一つ仔細が分からないのだ。幼少、小学生、中学生、高校生の記憶でさえ曖昧だった。
2011-12-20 01:02:54記憶と呼べるのかわからないそれらの濁流の中、僕を救ってくれたのはやはりと言を付すべきか、涼宮さんだった。転入したてのある日、物珍しさから僕に差し伸べてくれたその手。 ――しかし僕がその手を取ろうとした瞬間。彼女は教室を飛び出し、僕が見たこともない煌びやかな町へと飛び込んだのだ。
2011-12-20 01:06:52「 」 涼宮さんは誰かを呼んでいるようだった。それはとても嬉しそうに。だけれど彼女の体はそうではなかった。そちらの世界に拒絶されるかの如く、太陽に近づきすぎた何某のように、その身を燃やしていた。 朽ちていく。涼宮さんが死んでいく。僕は手を伸ばした。
2011-12-20 01:10:13その手は確かに握られた。涼宮さんではない、何者かに。 「ごめんな。俺はお前達を、」 ――謝ってすむものか。僕等は〈ここ〉で生きている。生きているんだ。例え――三日間だけ生命を燃やす、偽りの質量でも。
2011-12-20 01:14:1212月20日。目覚めは最悪だった。よく覚えていないが、昨日はひどい夢を見た気がする。此方へ圧し掛かる倦怠感と戦いながら、僕は学校に行く準備をする。
2011-12-20 08:20:08ふ、と。唐突に。触れるものなどなく。僕の体を悪寒が駆け巡った。「どうかしたの?」学食の喧騒に負けない凛とした声で、対面に座る涼宮さんが聞いてくる。「……いえ」何でもない。何んでもない。今日だって例外なく、何んでもない日であるべきだ。 ――じゃあ、この予感は何なのだろう。
2011-12-20 12:25:26例え違う世界で〈僕〉が生きてくれても。僕は死ぬ。ここで死ぬ。漫然と死ぬ。漠然と消える。死、なのだ。「古泉はみんなの心の中に生きているよ!」みたいな大妄言じゃ許せるものか。許さない。死んだって許さない。僕の生きた痕跡が残ったって、僕がいた意味が無ければ、なにも――
2011-12-20 21:47:36――。 ――飛び込んできたのは、電子の海だった。世界が今日も回っていることを告げるタイムライン。そこにはたくさんの人々がいて、僕のことなど関知せず、感知せず。 それでもそこに僕はいた。この三日間のくだらない呟きと、それ以前の――違う〈僕〉のくだらない呟きが、あった。
2011-12-20 21:51:27