稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.11.25)

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稲川淳二 @Junji_Inagawa

「彼奴、何時帰ったんだい?  郷里で何かあったのかい? それで、何時頃帰るんだい?」

2023-11-25 20:08:53
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と聞くんですが、 やっぱり曖昧な答しかかえってこない。

2023-11-25 20:09:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ま、そうして、時間が過ぎて、 別の遊女とのひとときを過ごして、

2023-11-25 20:09:28
稲川淳二 @Junji_Inagawa

深夜、目を覚ますと、 用を足しに部屋を出た。

2023-11-25 20:09:52
稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、用を済ませて戻って来ると、 どうした事か、自分の部屋がわからなくなっちゃった。

2023-11-25 20:10:13
稲川淳二 @Junji_Inagawa

通い慣れた、勝手知った建物なのに、 “おかしいなァ、廊下でも間違えたかなァ”

2023-11-25 20:10:29
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、あたりを見ながら遣って来ると、 通り掛かった座敷の襖が少し開いていて、

2023-11-25 20:10:44
稲川淳二 @Junji_Inagawa

薄らと明かりが洩れているんで、

2023-11-25 20:10:56
稲川淳二 @Junji_Inagawa

覗いてみると、 蒲団が敷いてあって、 遊女が一人横になっている。

2023-11-25 20:11:08
稲川淳二 @Junji_Inagawa

入って行って、襖を閉めると、 蒲団を捲ってそーっと入ったんですが、

2023-11-25 20:11:37
稲川淳二 @Junji_Inagawa

蒲団の中がやけにヒンヤリとしている。

2023-11-25 20:11:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

普通なら、人の体温で暖まっている筈なのに、

2023-11-25 20:12:08
稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、それと無く背中を向けて寝ている遊女の肩の辺りに手をやると、

2023-11-25 20:12:19
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、その時、 首すじの見覚えのあるほくろが目に入った。

2023-11-25 20:12:46
稲川淳二 @Junji_Inagawa

“あれェ……このほくろは……”

2023-11-25 20:12:55
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、身体を少し起して、 後ろから顔を覗き込もうとすると、

2023-11-25 20:13:06
稲川淳二 @Junji_Inagawa

遊女がくーっと振り向いて、 ニッコリと微笑んだ。

2023-11-25 20:13:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、何とそれは、 郷里に帰っている筈のひいきの遊女だったんで、

2023-11-25 20:13:34
稲川淳二 @Junji_Inagawa

「何だ、お前いたんじゃないか。 郷里に帰ったなんて嘘ついて」

2023-11-25 20:13:46
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と見れば、 どうやら病に伏せていたようすなんで。

2023-11-25 20:14:02
稲川淳二 @Junji_Inagawa

慌てて蒲団から出て、 「そうか、身体を悪くしてたのか」

2023-11-25 20:14:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、話をしながら、 部屋の隅の円鏡の鏡台にふっと目がいくと、

2023-11-25 20:14:35