1/26 国際司法裁判所（ICJ）、南アフリカ 対 イスラエル事件（ガザ地区のジェノサイド条約適用要求事件）でイスラエルにジェノサイドを防ぐよう暫定措置（仮処分）を命じる ハマースにも人質解放を さまざまな反応

暫定措置（仮処分）の内容

※2月12日、南アフリカが要求した追加の暫定措置申請と、追加の暫定措置は「不要」とした国際司法裁判所の決定については、別にまとめます。

https://www.icj-cij.org/sites/default/files/case-related/192/192-20240126-pre-01-00-en.pdf

https://www.jca.apc.org/jca-net/ja/2024-1-26-icj-press-release
※稲正樹、大熊直彦、新倉修、三輪隆の四氏による訳

ガザ地区へのジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約適用事件（南アフリカ対イスラエル事件）

暫定措置が提示される
2024年1月26日ハーグ発
国際司法裁判所は本日、「ガザ地区への ジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約 適用事件（南アフリカ対イスラエル事件）」に関して南アフリカが提出した暫定措置の提示を求める要請に対し、暫定措置を提示した。
2023年12月29日に南アフリカから、ガザ地区のパレスチナ人に関してイスラエルがジェノサイド犯罪の防止及び処罰に関する条約（「ジェノサイド条約」と記載する）に基づく義務に違反している疑いがあるとして、イスラエルに対する訴訟手続開始申請が提出されたことを想起する。南アフリカはその申請の中で、「ジェノサイド条約に基づくパレスチナの人々の権利に対してこれまでにも増した、深刻な、回復不可能な損害から保護する」ため、および「ジェノサイド条約に基づく義務、すなわち、ジェノサイド実行せずジェノサイドを防止し処罰する義務にイスラエルが従うことを確保する」ために、暫定措置を提示するよう裁判所に要請した（報道発表 No.2023/77を参照）。
南アフリカの暫定措置要求に関する公聴会は、2024年1月11日木曜日と12日金曜日に開催された。
この命令は拘束力を持ち、当裁判所は以下の暫定措置を提示した。

(1) 15対2において、
イスラエル国は、ジェノサイド条約に基づく義務に従い、ガザのパレスチナ人との関係において、特に以下の行為を含めこの条約の第2条の範囲内のすべての行為の実行を防止するために、その権限内にあるすべての措置をとるものとする:
(a) 集団構成員を殺すこと;
(b) 集団構成員に対して重大な肉体的又は精神的な危害を加えること;
(c) 全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること; および
(d) 集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事、バラク臨時判事
(2) 15対2において、
イスラエル国はその軍隊が上記(1)のいかなる行為も行わないことを直ちに確保するものとする。
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事、バラク臨時判事
(3) 16対1において、
イスラエル国は、ガザ地区のパレスチナ人集団のメンバーに関しジェノサイドの実行を直接的かつ公然と扇動する行為を防止および罰するために、その権力の及ぶ限りあらゆる措置をとるものとする。
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、バラク臨時判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事
(4) 16対1において、
イスラエル国は、ガザ地区のパレスチナ人が直面する不利な生活状況に対処するため、緊急に必要とされる基本的サービスと人道支援の提供を可能とする即時かつ効果的な措置をとるものとする。
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、バラク臨時判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事
(5) 15対2において、
イスラエル国は、ジェノサイド条約第2条及び第3条の範囲内の、ガザ地区のパレスチナ人集団の構成員に対する行為について、申し立てに関する証拠の破壊防止と保全確保のための効果的な措置をとるものとする;
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事、バラク臨時判事
(6) 15対2において、
イスラエル国は、この命令の日付から1カ月以内に、この命令を実現するためにとられたすべての措置に関する報告書を当裁判所に提出するものとする。
賛成票: ドナヒュー裁判長、ゲボーギアン副裁判長、トムカ判事、アブラハム判事、ベニューナ判事、ユーセフ判事、シュエイ(薛)判事、バンダーリ判事、ロビンソン判事、サラーム判事、イワサワ(岩澤)判事、ノーテ判事、チャールスワース判事、ブラント判事、モセヌケ臨時判事
反対票: セバティンデー判事、バラク臨時判事

(以上が暫定措置)

シュエイ判事は当法廷命令に宣言書を提出、
セバティンデー判事は当法廷命令に反対意見を提出、
バンダーリ判事とノーテ判事はそれぞれ当法廷命令に宣言書を提出、
バラク臨時判事は当法廷命令に個別意見書を提出。

命令の要約は『要約2024/1』と題された文書に記載されており、その文書には宣言と意見の要約も添付されている。この要約と命令書の全文は、裁判所ウェブサイトの訴訟事件のページに掲載されている。

この事件に関するこれ以前の報道発表も、当裁判所のウェブサイトから入手可能である。

注: 当裁判所の報道発表は、書記官が参考情報の提供を目的として作成したものであり、公式文書ではない。
（以下略）

決定の全文訳
「2024年1月26日 決定 ガザ地区におけるジェノサイド条約適用事件 （南アフリカ対イスラエル：ICJ仮保全措置命令）」
※まとめ主注：以下はプレスリリースに記載されなかった部分で、ハマースなどの人質解放を要請した箇所。
「85.
当裁判所は、ガザ地区における衝突に関与するすべての当事者は国際人道法に拘束されることを強調しておく必要があると見なしている。当裁判所は、2023年10月7日の対イスラエル攻撃の際に拉致されそれ以後ハマースおよび他の集団らによって拘束されている人質らの命運に重大な懸念を持ち、人質らを直ちに無条件で解放することを要請する。」

※まとめ主注：本件の裁判官は以下の17人。◎は裁判長、○は副裁判長、△は臨時。
常任の15人に加え、訴訟当事国から臨時に選ばれた2人で構成された。

◎ジョアン＝ドナヒュー（アメリカ）
○キリル＝ゲボーギアン（ロシア）
ペーテル＝トムカ（スロバキア）
ロニー＝アブラハム（フランス）
モハメッド＝ベニューナ（モロッコ）
アブドゥルカウィ＝アハメド＝ユーセフ（ソマリア）
薛捍勤（中国）
ジュリア＝セバティンデー（ウガンダ）
ダルバー＝バンダーリ（インド）
パトリック＝リプトン＝ロビンソン（ジャマイカ）
ナワフ＝サラーム（レバノン）
岩澤雄司（日本）
ゲオルク＝ノーテ（ドイツ）
ヒラリー＝チャールズワース（オーストラリア）
レオナルド＝ネメール＝カルデイラ＝ブラント（ブラジル）
△エフード＝バラク（イスラエル）
△ディクガン＝アーネスト＝モセヌケ（南アフリカ）

※2月6日、サラーム氏が新任の裁判長、セバティンデー氏が副裁判長に選任された。任期は3年。

原告（南アフリカ共和国）の反応

※パレスチナ国（パレスチナ自治政府）は原告ではありません。
※ハマースやイスラーム聖戦は、戦争当事者ですが、政府ではないので、国家間紛争を扱うICJでは訴外となります。
※国際司法裁判所の訴訟は、第三国参加が可能です。
原告側で第三国参加、または参加表明したのは、ニカラグア共和国、バングラデシュ人民共和国、ヨルダン・ハシミテ王国です。