横光利一『上海』(講談社文芸文庫)読書メモ

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かんた @0sak1_m1d0r1

「彼は、自分の周囲の人の流れを見廻した。その滔々として流れる壮快な生活の河を。どこに悲しみがあるのか。どこに不幸があるのか。墓場へ行っても、ただ悲しそうな言葉が瀟洒として並んでいるだけではないか。

2024-03-01 11:35:37
かんた @0sak1_m1d0r1

だが、次の瞬間、これは朝日に面丁を叩かれている自分の感傷にちがいないと思うと、思わずにやりとせずにはおられなくなった。」 (横光利一『上海』、講談社文芸文庫p46)

2024-03-01 11:36:38
かんた @0sak1_m1d0r1

「立ち連った電話の壁のために、うす暗くなった場内の人波は、脂汗ににじみながら、売りと買いとの二つの中心へ、胸を押しつけ合って流れていた。その二つの中心は、絶えず傾いて叫びながら、反り返り、流動しつつ、円を描いては壁に突きあたり、再び押し戻しては、壁にはじかれて、

2024-03-01 11:45:05
かんた @0sak1_m1d0r1

ぐるぐる前後左右に流れ続けた。」 (横光利一『上海』、講談社文芸文庫p48) →良い描写。

2024-03-01 11:46:02
かんた @0sak1_m1d0r1

事実、彼は、日本におれば、日本の食物をそれだけ減らすにちがいなかった。だが、彼が上海にいる以上、彼の肉体の占めている空間は、絶えず日本の領土となって流れているのだ。 (横光利一『上海』、講談社文芸文庫p58)

2024-03-01 11:58:57
かんた @0sak1_m1d0r1

お杉は橋の袂まで来た。そこの公園の中では、いつものように各国人の売春婦たちが、甲羅を乾しに巣の中から出て来ていて、じっと静かにものもいわず、塊ったまま陽を浴びていた。お杉もその塊りの中へ交ると、ベンチに腰かけて、霧雨のように絶えず降って来るプラターンの花を肩の上にとまらせながら、

2024-03-02 14:45:03
かんた @0sak1_m1d0r1

ちょろちょろ昇っては裂けて散る噴水の丸を、みなと一緒にぼんやりと眺めていた。すると、女達の黙った顔の前で、微風が方向を変えるたびに、噴水から虹がひとり立ち昇っては消え、立ち昇っては消えて、勝手に華やかな騒ぎをいつまでも繰り返していった。 (横光利一『上海』、講談社文芸文庫p182)

2024-03-02 14:47:23
かんた @0sak1_m1d0r1

「頭と云うものは、馬鹿になり出すと、つまり、馬鹿な方へばかりだんだん頭が良くなり出す。」 (横光利一『上海』、講談社文芸文庫p223)

2024-03-02 15:27:18