犬居榮治郎エピローグ

ダンゲロスlite忘年会2023(闇鍋)に参加した犬居榮治郎くんの結末のお話です
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真木ハルコ @homarine

【犬居榮治郎エピローグ】

2023-12-29 03:55:28
真木ハルコ @homarine

粘り気のある汗をソフトボール大の球状に成形する。自身の汗のみに作用する不可思議なテレキネシス。犬居榮治郎がエナジーローションの汗と併せ持つ異能だ。射出。標的は通路の先にいる番長グループの一員。名はトラス。敵陣防御の要であるトラスを崩すべく、榮治郎は『HAckCAN』を発動した。

2023-12-29 04:07:44
真木ハルコ @homarine

自分に力が足りてないことは知っていた。それでも榮治郎は、生徒会の仲間や、母の友人であるメルティを守るため、自分にできることがあると信じ、榮治郎は死の闇鍋の中へ自ら飛び込んだ。エナジーローションの塊がゆっくりとトラスに向かって飛んでゆく。今こそが榮治郎の存在意義を示す時だ。

2023-12-29 04:12:31
真木ハルコ @homarine

「HAckCAN」によって射出される液体弾の弾速は遅く、避ける気があれば回避は容易である。敵陣営から放たれた能力、普通なら避ける。むしろ味方であってもプルプルしてて気味悪いので避ける。だが、液体弾にはエナジードリンクの属性を帯びている。属性の名は、優良誤認。

2023-12-29 04:17:33
真木ハルコ @homarine

エナジーローション弾には「楽しく生きるためのエナジー」であると思わせる何かがあった。そしてデメリットはあるもののプラスの効果も持つことは事実である。判断力が鈍っているならば、敵から撃たれたとしても迂闊に被弾してしまうこともありえる。そして、トラスは極めて不注意な人物であった。

2023-12-29 04:24:00
真木ハルコ @homarine

トラスは手を伸ばし、迫りくるエナジー弾を受け止めた。ローション状の弾が弾け、全身を粘液で覆い、成分が皮膚から吸収される。激しい高揚感がトラスを包んだ。しかし、エナジードリンクで力が得られるのは一瞬。虚脱感と吐き気に襲われ、うずくまるトラス。そこに近づくのは、生徒会の愛創。

2023-12-29 04:35:56
真木ハルコ @homarine

愛創の全身を覆うボロ布のような衣服の下から、無数の触手が現れる。榮治郎はその光景に目を顰める。自身の出自を知って以来、榮治郎は触手が苦手だ。母親が触手に襲われる姿を想像してしまい気分が悪くなる。たが、今はその嫌悪感が頼もしい。愛創が撒き散らす恐怖は、番長陣営を崩壊させるだろう。

2023-12-29 04:46:48
真木ハルコ @homarine

愛創のおぞましき正体を至近距離で見たものは恐怖のあまり錯乱死し、その恐怖はウイルスのように広範囲に拡散してゆく。死と恐怖が番長グループを包み込み、生徒会の勝利となる……はずであった。だが、トラスは極めて不注意な人物であった。

2023-12-29 04:55:32
真木ハルコ @homarine

HAckCAN離脱症状の苦しみの中にあったとしても、迫り来るる死の攻撃を目視確認することを怠るなどということが果たして可能なのだろうか。だが、トラスは成し遂げた。その正体が、いかにおぞましく、名状しがたく、冒涜的だったとしても、視認されなければ無意味。愛創の「Call of…」は不発に終る。

2023-12-29 05:02:51
真木ハルコ @homarine

愛創、と呼ばれていた触手の束が、虚しく床面に崩れ落ち、死に絶え、闇鍋の食材に加わった。トラス生存。この時点で生徒会の敗北が濃厚となった。榮治郎は怯えた目でトラスを見た。人間、そこまで不注意になれるものなのか。さらに榮治郎は見た。蟹の形をした死が横歩きで現れるのを。

2023-12-29 05:11:47
真木ハルコ @homarine

藍川焚海子の操るカニ戦車である。通路の奥で、カニ戦車が鋏を開くのが見えた。長射程メガザップ砲。照準は犬居榮治郎。閃光がほとばしる。榮治郎は回避しようとした。だが、HAckCAN発動直後の消耗により身体が動かなかった。光の軌跡が榮治郎に迫る。榮治郎には、その光線が酷く緩慢なものに感じた。

2023-12-29 05:19:02
真木ハルコ @homarine

榮治郎の脳裏に、これまでの人生が早送りで浮かんでゆく。ローション相撲部に入ってからの充実した日々。生徒会の仲間との他愛ない毎日。そして、母親から受けた愛情と、もう二度と帰れない平穏な日常。(俺が死んだら、母さんは泣くだろうな……)それが最後の思考だった。熱線が腹部を貫いた。

2023-12-29 05:25:03
真木ハルコ @homarine

闇鍋会場に向け、一台の軽自動車が走っていた。ハンドルを握るのは、小学生かと見紛う少女。外見年齢は幼いが、実年齢では既に成人済みだし運転免許も持っている。“転校生”犬居夜鳥……犬居榮治郎の母親である。忘年会に出かけた息子の帰りが遅いので悪い予感がして迎えに来たのだ。(続く)

2023-12-29 05:41:12
真木ハルコ @homarine

【犬居榮治郎エピローグ(2)】 前回のあらすじ:闇鍋忘年会に飛び込んだ榮治郎は、カニ戦車のメガザップ砲を受け倒れた。だがその時、榮治郎の母・夜鳥は現場に向かって車を走らせていた。 x.com/homarine/statu…

2023-12-30 22:47:01
真木ハルコ @homarine

生徒会は敗北した。間もなく闇鍋に火が点され、具材として調理されることになるのだろう。メルティは、犬居榮治郎の亡骸を抱えて静かに終わりの時を待っていた。メルティと榮治郎の母親は転校生としての付き合いが長く、榮治郎のことは赤子の頃から知っている。まさか一緒に死ぬことになるとは。

2023-12-30 23:03:22
真木ハルコ @homarine

だが、メルティの運命は終わりではなかった。外壁――闇鍋の黒い金属壁が、ぐにゃりと溶けるように崩れ穴が開く。崩れた壁は、鉄とカスタードとカラメルの混じった匂いがした。穴から、闇鍋の中へと侵入する小さな影が一つ。犬居夜鳥。能力『黄昏縫い』によって壁面とプリンを縫い合わせて破壊したのだ。

2023-12-30 23:22:44
真木ハルコ @homarine

犬居夜鳥の能力『黄昏縫い』は、2つの物体を縫い合わせ、双方の特性を併せ持った物体へと作り変える。破壊不能な闇鍋の外壁も、プリンの硬度を縫い合わせれば、脆い。「メルティちゃん……?」意外な知人との邂逅に驚く夜鳥。「ぬいぬいちゃん! 榮治郎くんが……!!」

2023-12-30 23:33:31
真木ハルコ @homarine

メルティが抱える榮治郎の姿を見て、夜鳥は息を呑んだ。榮治郎の腹部には大きな孔が開いていた。呼吸停止。明らかに致命傷……即死だ。夜鳥は涙をこぼしそうになったが、堪えた。まだだ。まだできることがある。世界の終わりを縫い止める能力。それが『黄昏縫い』なのだから。

2023-12-30 23:41:12
真木ハルコ @homarine

「待て」闇鍋から脱出しようとした夜鳥達を、制止する声。「転校生同士は原則不可侵の慣わしを知らぬわけではなかろう? 其奴等は闇鍋の具材。手出しをするなら容赦はせぬ。我が結界の裡でお主等に勝ち目はないぞ」闇鍋奉行である。夜鳥は鋭く睨み返し、応えた。「逆だ。勘違いするな」

2023-12-30 23:57:44
真木ハルコ @homarine

「お前が鍋の一部にしようとしている榮治郎は、私はすべてだ。先に手を出したのはお前で、容赦しないのは私、結界とか関係ない」殺気の籠もった視線が闇鍋奉行を射貫く。(虚仮威しではないな……)闇鍋奉行が気迫にたじろいた瞬間、夜鳥が動いた。14本の縫い針を同時投擲。

2023-12-31 00:23:34
真木ハルコ @homarine

14本の縫い針が、縫い糸をたなびかせながら闇鍋奉行の方向へと飛ぶ。夜鳥は、闇鍋奉行の噂を聞いたことがある。年末だけに現れて、多数の魔人を拉致してゆく転校生。あらゆる能力を無効化し、近付けば鉄壁の防御と自動反撃。(完全な無敵など存在しない……)夜鳥には無効化を破る算段があった。

2023-12-31 00:31:10
真木ハルコ @homarine

(無効化範囲の制限、あるいは無効化に伴う何らかのリソース消費……)多数の縫い針投擲は、闇鍋奉行の能力の隙を狙ったものだ。無効化されたのならば、手数で押し切りリソースを枯渇させる狙いである。14本の縫い針。すべて無効化するのに必要な闇鍋奉行の体力消費は……14✕2の28点!

2023-12-31 01:21:24
真木ハルコ @homarine

その計算は誤りである。何本の縫い針が放たれようとも、同時射出であれば攻撃回数は一回。ゆえに無効化で消費するリソースは体力2点のみ。闇鍋奉行は飛来する縫い針を回避しようともせず、悠然と夜鳥たちの方へと歩み寄る。だが、無効化は発動しなかった。そもそも縫い針を避ける必要もなかった。

2023-12-31 01:30:26
真木ハルコ @homarine

縫い針は、闇鍋奉行を狙って射出されたものではなかった。闇鍋奉行の足元に14本の縫い針が突き刺さる。「……ステッチ!」犬居夜鳥の能力が発動。縫い針と縫い糸が、『黄昏縫い』の効果によって鍋底の鋼鉄と融合する。縫い糸が鋼のワイヤーに変化し、闇鍋奉行の行く手を阻むバリケードを形成した。

2023-12-31 01:35:59