稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.12.21)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『もう１枚、布団を出すか』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そう思って、起き上がって押入から布団を出そうとしたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると布団の向こうから、 話し声が聞こえたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あれぇ？』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

壁が薄いから、 隣の人の話し声が聞こえるんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

壁越しに隣の人の話し声が、 確かに聞こえて来るんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『隣で宴会でもやってんのかな。 こんな時間なのになぁ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

などと思いながら、 布団を出して重ねて寝る事にしたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

布団を敷いた時、 Ｆさんはこの宿の主人の話を思い出したんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『今日の泊まり客は、俺だけだと言ってたのに。 なんだ、他にもいるんだ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それでまた、布団を被って寝ようとしたんですが、 起きたついでにトイレに行ったんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、用を足して帰って来たんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

薄暗い廊下があるんですが、そこを ヒッタ、ヒッタ、ヒッタ、 と歩いて帰ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

辺りはシーン、と静まり返っている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

隣の部屋の前を通ったんです。 すると、何も音がしないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『あれ、おかしいな』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

悪いと思ったんですが、 襖に耳を当ててみたんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

部屋の中からは、全く音がしないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

襖の隙間からは、 明かりも一切漏れていないんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『おかしいな、ついさっきまで、話し声がしていたのに』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

布団を出して、トイレに行っている間、 ほんの２、３分ですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『その間に話を止めて、 部屋の明かりも消して寝てしまうかなぁ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『おかしいな』 そう思いながら、部屋に戻ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

自分がこの部屋に入った時も、 隣の部屋には誰もいなかった様子だったけど、 押し入れ越しには声がしていたし。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『変だなぁ』 と思いつつ、布団に入ったんです。