稲川淳二の『つぶやき怪談』(2023.12.21)

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｆさん、暫く考えていたんですが、 やはり人が来たような事もなければ気配すらない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『一体いつの間に来たんだろう？』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『やっぱりおかしいぞ、こりゃあ』 どうにも気になったものだから、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｆさんはもう１度、話し声でも聞いてやろうと思って、 押し入れの襖を開けたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

暫くすると闇に目が慣れたんですね。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その途端、「うわーっ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

暗闇の向こうから、男の顔が、 ジーッ、とこっちを見ている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

人が、押し入れの中にいるわけがない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｆさん、恐怖で体が固まってしまった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

声も出ない。 暫く男と見つめ合ったままになった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

すると男が、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いつまで開けてんだ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして男の姿が、 闇の中にスーッ、と消えていく。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そして襖が、ストーン、と閉まった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ｆさんはビックリしたんですが、 『そうかぁ、この部屋、 両方から襖が開くようになっているんだ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『変な造りだなぁ』 そう思ったんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それで疲れもドッと出て、 そのまますぐ寝たんですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

翌朝早い時間に予定があったんでＦさん、 急いで帰り支度を始めていたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そんな時、 フッと、隣が気になって、耳を傍立てたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、物音ひとつしない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

妙に気になったんです。 それで、もう１度押し入れをスーッ、と開けてみたんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『嘘っ！』ビックリですよ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

押し入れの中は、壁なんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『じゃあ昨晩、俺が押し入れを開けたら、 向こう側に顔があったのは、何だったんだ？』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

昨夜は、確かに男の顔がスッ、と消えて、 ”ストーン”と襖を閉めたハズなのに、