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20240401

不在之夢
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⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

さてここの時間とは果たしてどのように流れているのか。体感ではもう一週間以上が経過しているはずなのに喉も乾かなければ腹が空くこともない。 都合がいいのか悪いのか、判断がつかない。 少なくとも生の実感が死んでいく以上、都合がいいとは思えない。

2024-04-01 00:18:26
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

それは僕がまだ自我を持っているからなのか、はたまた自覚がないだけでおかしくなっているからなのか。 しかしおかしくなっていたとしたらそれは何を基準としているのか。

2024-04-01 00:22:03
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

この場所に自分たちしかいないのだとしたら僕が正気だと言い張り、目の前の自身がそうだと言えば例え僕がおかしくなっていたとしてもその判断を良しとする者も間違いとする者も、存在しない。 つまりは観測者が不在なのである。

2024-04-01 00:23:10
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

観測者たる幽霊族その最後一人が席を蹴飛ばしてしまうとはなんとも皮肉な話である。笑い話だがここで笑うものは自分を含めて居ない。 何しろ、椅子を蹴り飛ばした本人と、何も知らない本人のみしかいないのだ。何がおかしいのか、精々、砂の流れにケラケラ笑う程度だ。

2024-04-01 00:24:58
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

何にせよ、椅子に座る権利を放棄した僕達はこの何も無い場所にいた。直前までの記憶は僕だけが持ち、目の前で首を傾げ双葉を揺らす自身には何ひとつとして記憶は無いようであった。 しばし人はどうにもならなくなると自己が分裂すると言うが、まさにそれであり、僕はハズレを引いてしまったのだろう。

2024-04-01 00:31:13
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

眠るには眩しすぎるし、起きるには暗すぎる。そんな昼と夜を混ぜ合わせたようなどっちつかずの明るさの世界で二人揃って放り出されて、ここがどこなのかも分からないまま時間ばかりを食いつぶしている。

2024-04-01 00:34:31
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

適当な時間に微睡んで、何となく目が覚めて、遠く空に浮かぶ渦のようなナニカを目印に歩き続ける。それがここに来ての生活の全て。 嘘だ、時折遊んだりする。 けんけんぱをしながら進んだり、どこからか引っ張り出したティーセットで味のしないクッキーをかじってみたり。

2024-04-01 00:38:13
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

リフレインする発砲音と友人の悲鳴みたいな声が無いのだろう。目の前のこれは。それだけで羨ましい。 妬ましくもあり、寝ている間に何度絞め殺してやろうかと思ったことか。 結局、そんなこと出来ずにいる。

2024-04-01 00:42:36
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

目を覚まし、目が覚めたことを酷く後悔している。 暖かい夢だった。夢でしか無かったけども、そこには確かに僕が追い求めていた幻影がそのままにあった。 なんと残酷な夢。ここに逃げてなお、逃げるなど許さぬと言われているような心地だ。

2024-04-01 07:27:47
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

古い家の、やはり古い時計のカチ、コチ、カチ、コチ、という音を聞きながら遠すぎる記憶の手に撫でられていた。甘い煙草の匂いと本人の持つ匂いが混ざった唯一無二の香りが好きで、鼻から一気に吸い込んだつもりなのに、忘れてしまった記憶からの再現は出来なかったらしい。

2024-04-01 07:32:01
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

だが夢の中では分からない匂いをそういうものだと思い込んでいたし、養父は養父で肩口にしがみついてくる人ならざるものの子の頭を撫で、声などとうの昔に分からなくなってしまったというのにそればかりはやけに鮮明で、暖かい体温で抱きしめてくれるのであった。

2024-04-01 07:35:02
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

いい子、いい子。 お前は十分頑張った。頑張ってきたんだ。 だからお前が悪い分けじゃわない。 そう詠う様に心地よい声が紡ぐ。 いいんだ、俺は。お前が生きてさえいてくれれば。 世界なんか知ったことじゃない。 お前が少しでも幸せでさえあれば、それでいいんだ。

2024-04-01 07:47:21
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

可愛い可愛い墓場の子。 愛おしい愛おしい雨夜の子。 とん、とん、とん、と、まだこの夢に溺れていたいのに、あぁなんて酷い人。僕はこの夢から一歩たりとも動きたくないと言うのに、だ。

2024-04-01 07:51:12
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

眠気を誘うそのゆるゆるとした声に、背を撫ぜるように叩くそのリズムに、また助けを求めることなど出来ずに。 僕はまたここへ放り出された。

2024-04-01 07:51:28
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

目を覚ますというのはほとほと精神衛生に良くない。 まず第一にいままでのおさらいとでも言うかのようにここに来る直前の記憶の再現。本当にこれが良くない。 友の絶叫。衝撃。銃声。痛み。内側から犯しかき混ぜられ自我を毒されるような怖気。僕の言葉は届いただろうか。 悪夢は簡単に再構築される。

2024-04-01 08:52:30
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

再構築と再演を繰り返し、少しずつ悲劇の価値を下げながらも演者自身への傷跡を深く深く抉っていく。 「……ぉはよ……」 下から声をかけられる。 眠っていたはずの彼は目を擦りながら舌っ足らずに言う。僕がうっかり口走ったせいでこの子は寝起きに言うものだと思い込んでいる。それは正しい。が。

2024-04-01 10:42:04
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

顔を掴まれたと思えばそのまま引き寄せられ唇が触れ、ビリビリと身体が痺れる。比喩などではなく、体内電気を浴びせられているからだ。 僕がどんな状態であれ寝起きはこうするものだと覚えてしまったらしい。 「ゆめ、っていうのを、たぶん、みたんだ」 「ふぅん」 「ぼくと、おにいさんがいたんだ」

2024-04-01 11:06:46
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

ぼくは『オトーサンタチ』を探していてその場所へ来たらしいんだ。ずっとまえに二人はでかけて、もどってこなくて、ぼくはさみしくなって二人を探しにいって、四角いいろいろなものが生えたばしょにたどり着いたんだ。たしか……『ムラ』と『タテモノ』っていってたかも。 ムラにぼくは来たんだ

2024-04-01 11:22:54
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

だけどぼくはさみしくてさみしくて、ぼくがほかにいないか探してたんだ。オトーサンタチももちろんさがしながら、いろいろなタテモノのなかをさがして、そのおにいさんはくらいばしょのはじっこにいた。 ぼくがよぶとするりと出てきてぼくに「こんにちは」っていった。

2024-04-01 12:39:57
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

ぼくよりずっとたかくて、ぼくとそっくりなのにあたまが白くて、トーサンにそっくりだと思った。トーサンってなんだろうね。でもきっとおにいさんみたいなものなんだと思う。 おにいさんはたしか……そう、『ゲタキチ』ってなまえで、ぼくのことを『キタチャン』って呼んで頭をなでてくれた。

2024-04-01 12:44:20
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

そのあとぼくはおにいさんといろいろなタテモノの中を探したりして、オトーサンタチをながいあいだ探したんだ。 明るくなって、暗くなって、また明るくなって。マチは明るさが変わるんだ、すごいよね。

2024-04-01 12:48:47
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

それに暗くなると寝なきゃなんだ。ぼくは暗くても見えるけど、ここにはむかーし暮らしていたぼくたちがおばけになってぼくたちをこわがらせるから、暗い部屋でしずかにねむらなきゃいけないんだっておにいさんはいってた。 ぼくたちもぼくなのにへんだなとおもった。

2024-04-01 15:22:57
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

でも、ぼくはおにいさんがいてもオトーサンタチがいなくてさみしくてしかたがなくて、それを『こわい』というのなら、ぼくはぼくたちで、ぼくたちはきっとさみしくてかなしいからぼくをこわがらせるんだろうな、ともおもった。

2024-04-01 15:26:40
⚠️無法地帯⚠️ @simayayarisaze

「さァさ、はやくねよう」 ぼくはねむくなんてなかったからそう言うと、すこしだけ困ったように笑った。ぼくがよくする……今もしてる、そんなカオでおにいさんは笑って、きこえるような聞こえないような声で、からん、ころん、っておうたをうたってくれて、ぼくはねむったんだ。

2024-04-01 18:39:29